クリスタルの輝き、再び
黄金に輝く、ツインテールが、たけっていた。
とっても和風の名前である、コハル姉さんと言う見た目12歳のエルフちゃんが、宣言した。
「いくわよっ」
ケータイを空へと掲げて、叫んだ。
「おうっ」
「いくぜっ」
「いいわよっ」
「ええで」
仲間のアーマー・5も、同じポーズだ。
レックは、涙を流して、見つめていた。ダンジョンの町において、初めて目にしたときも、感じたものだ。
日本人め――と
クリスタルの輝きが、輝いた。
「「「「「ルーン・テクニカルパワー、アーム・ああぁああっぷ」」」」」
技術の進歩は、ファンタジーというより、美少女戦士だった。
魔法が存在するために、モンスターへの対応に特化するといっても過言ではない。冒険者なら、誰もが持つといわれるマジカル・ウェポンシリーズが、トリガーハッピーだ。
アーマー服の美少女戦士に、発展したのだ。
レックは、輝きを前に、ひざを折っていた。
「そう、これだ………これが見たかったんだ――」
久々の変身シーンを前に、これ以上の言葉は不要だった。
フェオと呼ぶのか、ラーグと呼ぶのか、斜め線と縦線に、不思議なルーン文字らしき文字がくるくると、クリスタルから浮かび上がる。
見事なる、立体映像である。
ケータイが、勝利をもたらすのだ。
「天がよぶ、森が呼ぶ、私が呼ぶ――」
輝きが収まりだすと、コハル姉さんが決め台詞を口にする。
徐々に姿が明らかとなる、白にピンクに鮮やかな赤と、魔法少女のカラーパターンが贅沢に用いられているセーラー服タイプの、コスチュームだ。ひざや肩などに皮製のアーマーが追加され、もちろんミニスカートである。
そしてヘビー・マシンガンが、ガトリングガンが、豆タンクが、グライダーが、そして、ホバーUFOが、揃い踏みなのだ。
ホバーUFOは、モノサイクルという一輪バイクという姿で、よくレースをしていたが、ご本人も変身しての活躍は、本当に久しぶりだ。
あふれ出したボスたちの相手は、彼女達が引き受けてくれて――
レックは、両手を前に突き出した。
「って、ちょっと待ってくだせぇ、この場面こそ、オレっちのレーザーで楽勝なんッスよ。魔王様のほうをお願いしたいんでさぁ」
小物パワーを全開に、ちょっと待って下せぇ――と、両手を突き出して、ツッコミを入れていた。
そう、5メートル程度のボスモンスターは、レックの敵ではない。レーザーで十分なのだ。足りなければ、トルネードでも乱射できる。
今までの、実績もあるのだ
メイドさんが、レックの肩に手を置いた。
「レックくん、お姉さん達の気持ちを分かってあげないと――」
わがままを言う弟を諭すような、やさしい言葉であった。
レックには分かった。ぜんぜん、やさしくないと。メイド姿はコスプレと言うドロシー姉さんは、日本人を前世に持つ、転生者の先輩に当たる。
いい性格のアーマー・5の姉さん達との付き合いも、もちろんレックより長いのだ。
そう、アーマー・5の気持ちは、ちゃんと分かっておいでなのだ。
姉さん達は、レックへと向けてサムズアップをしていた。
「俺たちの分まで、やってやんな」
「おれっち、信じてるぜ?」
「あたしたちのことは、気にしなくていいからさ」
「せや、男みせたれっ」
「――ってことだからね、勇者(笑)さま?」
皆様、本当によい笑顔である。
姉さん達は、見たいのだ。レックが、新たな勇者(笑)が、この世界のどのような笑いをもたらすかを。
魔王様を相手に、どのように笑いを取ってくれるのかと………
レックに、追い討ちをかけるおっさんがいた。
「勇者よ、試練を乗り越えた若者よ、われらの希望は、クリスタルの輝きが――」
門番の、細マッチョだった。
そして、なにかを語りだした。RPGゲームやアニメでお約束の、演説だ。世界の危機を救う若者へと向けた、希望を託すという、とっても迷惑な話だ。
レックは、聞き流した。
「さて、アーマー・5の皆さんが登場したので――」
後ろでは、メイドさんがなにかを準備していた。
「あぁ、そういう設定………って言うんだっけか」
タツヒコの兄貴も、手伝いだした。木刀を手に暴れると思っていたが、アーマー・5が変身すれば、出番がないと知っているらしい。
ホワイトボードだった。
表やオッズや、色々と書き込まれている。エルフの国では、よく見た大きなホワイトボードだった。
猫マッチョのおっさんも、手伝っていた。
「コイツはもう消していいんだっけな?」
「はい、映像記録は残せてますし――」
「スゲェよな、異世界。簡単に写真もビデオもありやがって………」
すでに、消されかけている。レックの敗北のオッズが1.1倍で、勝利が10倍という、お察しの内容だった。
レックを信じたため、ラウネーラちゃんが大負けしたのは、悲しい現実だ。レックは、ちょっと申し訳ない気持ちだ。
すぐに、うなだれたい気持ちが勝利する。がっくりと、ひざを地面につけていた。
もちろん、両手もだ。
「先ほどは大負けしたラウネーラちゃんでしたが、今回は――」
「じい様は、いいのか?試練の門があの調子でも――」
「エルフ並のジジイだ。問題ないだろうよ」
「はぁ~、オレも大発生のときに転生してたらなぁ~――」
どこから持ち出したのだろうか、アイテム袋に封印の宝石に、候補はいくらでもある。横長のテーブルに、ややSFの撮影機材が空中に浮かび、もちろんマイクもセットである。ボードには、猫マッチョがメモを片手に、新たな賭け事の内容を記し始めていた。
タツヒコの兄貴のセリフが、ちょっと気にかかるが………
レックは、見つめていた。
「あぁ~………実況中継――ッスか」
カメラの準備は、いいようだ。
巨大な瞳が、レックを見つめていた。バスケットボールほどの大きさで、巨大な瞳のカメラさんである。
なんと、バリアの力もあるらしい。なら、ちょっと手伝ってほしい気分になったが、この人たちには、そんな暇がないのだ。
レックの勇ましき姿を、勇姿を録画する使命があるのだ。
メイドさんが、マイクを手に取った。
「えぇ~、実況のドロシーです。さきほど、76番地の魔王様が復活なさいました。対するは、新たなる勇者(笑)レックでございます」
実況準備、完了だ。
カメラマンの細マッチョに、音声の猫マッチョに、多少もたついていても、いつも練習していたのだろう。
タツヒコの兄貴も、もちろんお手伝いだ。
状況を報告する義務があるだろう。説明が続き、そして、賭け事の解説まで始まった。
レックは、ぼんやりと実況を眺めていた。この、静かな時間は長くない、きっとまた、エルフちゃんたちに、放り投げられるのだ。
ヨシオの兄貴によって、ハリケーンされた魔王様の場所までは、遠いだろう。力いっぱい、場合によってはトルネードもセットで、吹き飛ばされるに違いない。
そう思っていたが――
「げっ――」
「あ~、獲物たちがぁ~」
「コハル、ここでそのセリフかにゃ」
廃墟が、爆発した。
「ワシの、城がぁあああああああああああ」
マッチョなジジイが、現れた。




