出番です、アーマー5
レックの前世は、叫んだ。
忘れてた――と
お約束であり、テンプレであり、むしろ、システムという事態は予想して然るべきであったのに、忘れていた――と、頭を抱えていた。
ボスクラスのザコが、あふれ出ていた。
「システム………かぁ~」
ボスとの戦いにおいて、ザコの大群は、セットである。
アイテムを補充させるための、システムとも言う。強敵を相手に、弾丸が、回復アイテムが、すぐになくなるのだ。前世などは、頼む、早くザコを出してくださいと願ったものだ。
イージーモードで、願ったものだ。
ヒントがあったにもかかわらず、レックは、すっかりと見落としていたのだ。そう、デパートの印象の表示にあったではないか
『地下2階:食料エリア』――
猫マッチョは、包丁を手に、微笑んだ。
「へへ、食料エリアって、あっただろ。お前が昼メシのオークを狩った部屋だが………あそこはな、モンスターが湧き出すところなんだよ」
闘志に満ちた、あるいは料理人魂に火がついたような瞳だった。
大きな包丁で、肩をとん、とん――と、叩いて、まっすぐと食材たちを見ていた。オークに、狼に、イノシシに、全てが巨大なモンスターであった。
さすがは、封印の神殿に住まった料理人である。見た目も雰囲気も、そしてヤバさも、魔王のお城という神殿に住まうメンバーは、並ではないのだ。
「門番の役割は終った、なら、本来の姿に戻るのみ」
「おもてなし、してあげましょう」
「久々に、相棒の出番ってか?」
門番の細マッチョに、料理人の猫マッチョに、かつての勇者?のメイドさんに、そして、暴走族スタイルのタツヒコの兄貴も加わった。
木刀を、握っていた。
大物臭のするセリフで、封印の神殿の皆様が、前に出た。
レックも、前に出た。
「へへ、おれっちのレーザーで、サクサクやってやるッスよ。ですので、皆さんは魔王のお人を――」
ドサクサ紛れに、レックも前に出た。
腕が鳴るぜ――
そんな空気を出しまくって、腕をゆっくりと回しながら、前に出た。このまま、サクサクとボスの皆さんを討伐、忙しいアピールをするつもりであった。
魔王様の相手など、ゴメンであった。
転生者であっても、主人公気分であっても、便利に勝利の方程式は存在しないらしい。無理ゲーは、遠慮したいわけだ。
両肩を、つかまれた。
振り向く必要もない、いつものエルフちゃんたちである。
「ちょっとぉ~、勇者(笑)さまの相手は、あっちでしょっ?」
「さっさと行くんだにゃ~っ」
金と銀のツインテールちゃんが、お姉さんぶっていた。
まるで、お手伝いをサボる弟に言うような言い方だ。まさに、言い方――と、叫びたくなる言い方だ。
死ぬ思いをするんです。そんな言い方はないでしょう――と………
言えるわけがない、見た目12歳のお子様は、見た目だけだ。
セーラー服のみにスカートが風になびいて、パイロットスーツの腰から伸びる猫尻尾も、ふらふらと泳いでいる。魔法の力は便利だ、ホンモノの猫のカギ尻尾を演出していて、細かいことだ。
生きた年月は、レックどころか、人類が及ばないロリバ――ではない、エルフちゃんたちである。
レックは、涙目だ。
いや、ボロボロと、恐怖にこぼれていた。
「ちょ、ロボの出番でいいじゃないッスか、もう、エルフの国でみた5体合体のグレート様の出番っしょ?」
びしっと、指をさした。
100メートルを超える、3つ首の魔王様なのだ。レックはぽんぽんと投げ飛ばされ、魔王様への攻撃として使われているが、当たる前に、吹き飛ばされているのだ。
ボールは、友達――いいや、友達がバレーボールだといわんばかりに、レシーブとサーブと、ぽんぽんと、魔王様とエルフちゃんは、レックを飛ばしあっていた。
スーパー・ロボットの出番なのだ。
「ほら、コハル姉さんも言っていたじゃないッスか。ダンジョンの町で、ロボの出番は、魔王の復活までって………ほらほら、ご復活ですよ?」
傍目には、12歳の女の子に泣きつく、情けない15歳の兄貴である。
熱血アニメなら、ここで『バカヤロー』――と、コーチやら、司令やらが殴って、主人公に勇気を奮い立たせるシーンであろう。
残念、ここは現実である。
主人公などいない、少なくとも、自分は主人公ではないと、レックは信じている。もう、情けなく強いお姉さまにすがろうと言う気分だった。
本当に、残念である。それは、レックのみが抱いている、願いであった。
皆様が、レックを見ていた。
とぉ~っても、いい笑顔だ。あるいは、優しい笑顔に、わかっているさ――と言う、経験者が物語る瞳も混じっている。
勇者(笑)の、先輩のおっさんである。
両サイドのエルフちゃんたちは、もちろん、楽しそうに微笑んでいる。
手拍子が、始まった。
メイドのヨシオ兄さんが、前世パワーを吐き出した。
「勇者(笑)の、ちょっといいとこ見てみたい」
勇者(笑)コールである。
リズムに乗った、手拍子のセットである。
前世の浪人生は、あとずさった。禁止令が広まってほしい、ムチャを扇動する禁止ワードである。
やめてくれ、あおらないでくれと、青い顔であとずさっていた。
勇者(笑)コールは、連鎖した。
「「「「「「勇者(笑)の、ちょっといいとこ見てみたい」」」」」」
合唱が、始まった。
「「「「「「いっけ、いっけ、いっけ、いっけ――」」」」」」
皆さんで、仲良く手拍子で、はやし立てる。お調子者であれば、そのままヘコヘコと頭を下げながら、魔王様の下へと突撃だろうか。
メイドのヨシオ兄さんに吹き飛ばされている、けっこう、歩かねばなるまい。
勝てる手のないレックは、本当にピンチであった。
「マッチの、ファイアーもムリだったんッス………ピストンしても、バーストって言うよりもね、あの、オレ――」
“真の力”の正体は、アイテム・ボックスの暴発だった
高められた圧力が一部解放され、木片か木の葉か分からないが、圧縮された空気で燃え上がり、そのファイアーが、ローストしたのだ。
先ほどは、理屈を理解したうえのバーストだった。
暴発の偶然と、制御した一撃では、威力が数段上回るはずだ。エルフの国での修行において、かなり攻撃の訓練をつんだのだ。
ハードモードの実戦の、連続だったのだ。
相手が、魔王様になっただけだ。
まったく、通じなかっただけだ。
「初めて、バーストをしたんでしょ?」
「今度は、もっとバーストできるはずにゃ~」
「私のハリケーンは、あそこまでのようです………ふっ――」
エルフちゃんたちは相変わらずとして、ヨシオ兄さんの『ふっ――』が、とっても気になるレックである。
先ほども、吹き飛ばされたわけだ。もはや、切り札が通用しない絶望のエンディングであれば、希望はスーパー・ロボットでいいではないか。
待たせた――と、登場してくれても、いいではないか。
レックを両サイドから抱きしめて、ささやいていた。
「さっきは命のピンチで、目覚めたんだもんね。だったら――」
「そうだにゃ~、リベンジだにゃぁ~っ」
デジャブと思う時間もない、射出体勢、完了だった。
返事は、必要ないのだ。
だからレックは、叫んでしまった。
「あんたら、それでも人間かぁあああああ――」
はやしたてるエルフちゃんたちに、手拍子の姉さん達にと、よく見たシュチュエーションで、経験したパターンだ。
そう、エルフに、ケンタウロスに、ドワーフに、エンジェルに、マーメイドと言う姉さん達の5人組が、アーマー・5《ファイブ》である。
人間が、一人も混じっていない美少女5人組である。
姉さん達は、にっこりと笑った。
「オレ、ケンタウロス」
「おれっち、ドワーフ」
「あたし、エンジェル」
「うち、マーメイドや」
そして真打登場とばかりに、コハル姉さんが中央へと躍り出た。
「そして私はエルフ――」
人間ではない姉さん達は、ケータイを構えた。
アーマー・5の、変身だ。




