足元の、大発生
レックは、空を飛んでいた。
「へへへ、魔王様が吹っ飛んで、おれっち、おれっち………」
暴風が、巻き起こったのだ。
直系が100メートルと言う、恐るべき巨大なハリケーンだった。
メイド・ハリケーンと呼んでもよさそうな、とってもすさまじいハリケーンだった。炎と雷のトルネードのあわせ技で、とてつもなく高度な技のはずだ。
魔王様が、吹っ飛んだのだ。
100メートルを超える巨体ですら、その動きを止め、そして、吹き飛ばされたのだ。余波を受ければ、レックごときザコがどうなるか………
飛んでいた。
「ステータス先生………あんたがいれば、今頃、ハリケーンジャンプとか、気流操作とかのスキルを取得して、憧れの飛行能力を手にしていたかも知れやせんね――」
本当に、本日はよく飛ぶ日だと、レックはしみじみと、空を見つめていた。
エルフちゃんたちが、思わず拍手をしたため、両手がお留守になったため、落とされただけではない。
ハリケーンの余波で、吹っ飛んだのだ。
「さっすが、メイドさんッス――………んで、ピーちゃん、お世話になりやす」
30メートルを超えるワイバーンが、やってきた。
レックが吹き飛ばされた姿は、すでに確認済みである。お世話をするのはお姉さんの役目とばかりに、マッチョがやってきた。
とても、とてもありがたい、魔女っ子衣服がはちきれそうなマッチョの姿が見えて、巨大なワイバーンの口が、大きく開いた。
そして――
「………新入り、苦労してるんだな――」
暴走族スタイルのタツヒコの兄貴が、しゃがみこんでいた。
目の前には、レックがだらりとぶら下がっていた。可愛らしい小鳥さんの『ピーちゃん』が、くわえていた。まるで、『ピーちゃん』のオヤツのようだ。
いや、30メートルを超える巨大なワイバーンには、腹の足しにもなるまい。
上級ポーションの香りが、ただよった。
「今日のレックはよく飛ぶわねぇ~」
「飛ばしてるのは、コハルだにゃ~」
「あんたもでしょ?」
「ピンチに覚醒は、お約束だにゃ~っ」
ちょぼちょぼちょぼ――という、小さな小瓶が逆さに、贅沢にぶっ掛けられる、いつもの光景であった。
タツヒコの兄貴は、その光景を見守りながら、つぶやいた。
「………エルフの姉貴たちは、相変わらず、えげつねぇ~な」
年齢から、まだ、エルフちゃんたちの所業に、感じ入るものがあるらしい。おっさん連中や、少女にしか見えないアーマー・5の姉さんたちは、にこやかだ。
金と銀のツインテールちゃんは、宣言した。
「ウケのためよっ」
「ピンチが、勝利を呼ぶんだにゃ~っ」
ムチャだった。
ひざを抱えたレックは、うなだれた。
「無理っす、無理ゲーだったんッスよぉ~」
レックのドリルなら、魔王様のバリアも、敗れたらしい。ただ、当たる前に指・ぱっちんされて、空を飛んでしまうのだ。
『当たらなければ、どうと言うことはない』――とは、なんというアニメのセリフだったのだろうか、今のレックには、とっても響く言葉だった。
「タツヒコちゃんからヒントを言われて、すぐにピンチで目覚めたんでしょ?だったら、今度はもっと――」
「そうだにゃ~、ピンチで逆転してこそ、勇者(笑)だにゃ~」
強引にでも再現させたいのが、女の子である。
――訂正、エルフちゃんである。
もちろん、レックも真の力が目覚めれば、魔王様を単独撃破できるのではないか、そんな、ザコにあるまじき調子に乗った夢を抱いたものだ。
もちろん、夢だ。
むしろ、無謀だ。
おっさんが、やってきた。
「実戦で訓練って………死ぬぞ、普通なら?」
ついに、常識を、ツッコミを入れてくれた。
銀色ショートヘアーのおっさんは、中佐殿――と、レックが心の中でお呼びしたくなるスタイルだった。そして、テクノ師団の隊長殿である。フルフェイスのヘルメットは、アントヘッドと呼びたくなる。
最近は、フルフェイスをお忘れの、簡易アーマースタイルだ。
『大火炎パンチ』で、オラオラオラ――をする、先輩の勇者(笑)さまである。
馬のおっさんは、笑っていた。
「まぁ、普通じゃないからこそ、勇者(笑)様ってよ?」
がっ、はっ、はっ――と、豪快だった。
馬モードでは、見上げる巨体で、2メートル50を超える、3メートルに近いかもしれない。隣では、いつの間にかロボットモードになっていたバイク様も、腕を組んでいた。
うん、うん――と、うなずいて、とても人間くさい。
「成功………してたのかな、あれ」
「おれっちとしては………合格?」
「何で疑問なんだよ。あたしは、ハデでいいと思うけど?」
「けど、レック君のドリルキックより、威力とか低いで? 効率も最悪やし」
アーマー・5の姉さん達の評価も、微妙だった。
エルフちゃんたちの暴走を、楽しそうに見つめていた姉さん達であったが、そろそろ区切りがついたということで、笑い合っていた。
残念だったね――と
ダンジョンでは、とっても活躍していた姉さん達だが、最近は見物の役割が多すぎるのではないか。
レックがそう思っていると、メイドさんが、腕を伸ばしていた。
「忘れてませんか、あの場所のことを………――ヤバイよ?」
指を、指し示していた。
崩れ去った封印の神殿の跡地から、なにかが湧き出していた。
そう、湧き出すという表現である。ぞろぞろと、ドロドロと、なにかがあふれ出てきていた。
どこかで見た記憶がある、昨日ぶりの、ダンジョンの大発生である、あふれ出しとよく似た光景だったのだ。
レックは、叫んだ。
「あっ、あふれ出しだぁあああっ――」
5メートルほどの、通常のボスの皆様が、ワラワラと現れた。
懐かしい巨大スライムさんや、ゴブリンのキングの人が、まるでザコモンスターのように現れた。
まるで、大発生であった。




