動き出す、魔王様
フラッシュが、輝いた。
レックの前世が教えてくれる、すぐに、目を閉じろと。とっても目に悪い、強すぎる輝きであると。
カメラのフラッシュでもいい、とにかくまぶしかった。
“真の力”の、輝きだった。
またも吹っ飛ばされてしまったが、何度も経験して、むしろ穏やかな気分だ。とっさに目を閉じたことも手伝っている。他人事気分が、穏やかだった。
レックは、穏やかだった。
「あぁ~、光が見える」
残光が、閉じた目の中でも大暴れだ。
転生した主人公には、しっかりと切り札が用意されていた。レックが転生するきっかけとなった、黒こげローストだ。
命のピンチを切り抜けた、真なる力だ。それが、先ほど発揮された。
ファイアー・バーストが、放たれた。
暴走族スタイルの転生者、タツヒコの兄貴が、ヒントをくれるのだ。敗れたアイテム袋が、カギだと。
理屈などいい。限度を超えた圧力によって袋が破れ、大爆発だったらしい。空気も瞬間的に圧縮されて、黒コゲだったという。
レックがまともに攻撃魔法を使えなかった、魔力値40か、ザコだな――の時代の話だ。
今は、魔力値もエルフに匹敵、上級魔法のトルネードすら、当たり前に放てるシルバー・ランク<中級>の冒険者だ。
心は、いつまでもザコのレックでも、魔力に任せて乗り越えるのは、転生主人公のお約束、チートなのだ。
今の魔力値は、どれほどになっているだろうか………
「ステータス先生、オレっちのレベル、きっと上がってやすよね――」
レックは、ゆっくりと目を開けた。
戦いに敗北した、勇者の気分だ。せめて、最後にはきれいな空を見上げたいと、静かに目を開けた。
メイドさんのスカートが、ゆらめいていた。
「真なる力に目覚めれば、魔王なんて楽勝――そう思っていた時期が、私にもありました」
ヨシオ兄さんが、なにかつぶやいていた。
遠くを見つめて、ご丁寧に、手を目の前で組んで、悲しみを表していた。
20代も半ばを過ぎたメイドのお姉さん、本名はドロシーと言うロングヘアーをなびかせた彼女は、ぱちぱちと、雷の輝きで空中に浮かんでいた。
日本人の青年を前世に持つドロシーお姉さんが、レックに代わって、前世の言い回しを口にしてくださったようだ。
言い方――と、レックの前世が立ち上がろうとする。いや、空中を吹っ飛ばされている途中である、ちょっと、どちらが上空か、森か分からなくなって――
金と銀の、ツインテールが現れた。
「やった~、大もうけだぁ~、さすが、レックだよぅ~」
「うぅ~、バクチは大負けするものだけどぉ~、コハルぅ~、師匠なら、信じてやるんじゃなかったのかにゃぁ~っ」
「もちろん、信じてたわよ?」
「………負けるほうを?」
ミニのセーラー服と、パイロットスーツ(猫耳とシッポ付き)のエルフちゃんたちが、レックの両サイドにしがみついた。
そして、妖精のような羽を輝かせていた。
もちろん、妖精という翻訳も可能だ。エルフとは、イタズラな小人と言う意味を持つ、童話に出てくる、輝く羽を輝かせる小さな妖精でもあるのだ。
森の妖精とは、よく言ったもので………
レックは、うなだれた。
「姉さん達、バクチも、ほどほどに――」
脳裏には、エルフの国の、宴会場が思い出されていた。
巨大モンスターの残骸を食らう、まるで悪魔の群れであった。
大人気というショーは、地獄の門番と言われても納得の、マッチョな兄貴達による、解体ショーだ。細身で長身、とにかく優雅で、美しいエルフと言うイメージが、吹き飛んだショーであった。
賭け事にも精を出されていた。
最近の流行は、新たに生まれた勇者(笑)レックの活躍である。魔力値がどれだけあるのか、あるいは勝利するまでの時間や、モンスターの残骸の状態など、多岐にわたった。
レックの敗北に賭ける、勘弁してほしいバクチ打ちまで存在したのだ。
コハル姉さんは、敗北に賭けていたようだ。
「やっぱりね~、勇者(笑)レックは、そうでなくっちゃ~っ」
機嫌よく、抱きついてきた。
ちょっと嬉しく思うのは、15歳男子の本能である。
15歳の少年レックにとって、12歳の女の子とは、妹のようであり、すこし年下の恋人でもおかしくない年齢である。
前世で例えれば、中学1年生と3年生の年齢差と言ってもいい。誕生日によっては、小学校6年生であろうか、とにかく、それほどおかしな年齢の差ではないのだ。
抱きつかれて、ドキドキしてしまうのは、仕方ないのだ。
レックは、ドキドキだった。
「あぁ、あああああああ――」
悲鳴も、あげていた。
魔王様が、こっちを見ていた。上空にいるため、魔王様の動きが、より分かりやすい、ぼんやりとたたずんでいた巨体が、動き出した。
ドリルキックのときと同じく、注意を引いたようだ。
真の力の攻撃が、すこしは効いたのだろうか、レックは目を閉じていたため、分からない。自らの魔法で目をやられる前に、とっさに閉じたのだ。
真の力は、『ファイアー・ピストン』のごとき理論でバーストする、火柱だ。やっとたどり着いた、ついに日の目を見た真の力は、発揮された。
結果、吹き飛ばされて終った、ザコだった。
「アイテム・ボックスは、誰でも使えるわけじゃないだにゃ~………だから、いけると思ったんだにゃ~………」
「得意な系統だから、すごい威力になるはずだったのよね~………」
賭けの敗北により、ラウネーラちゃんのご機嫌は、よろしくないようだ。つまらなそうに、解説を始めていた。
一方、ご機嫌に抱きついているコハル姉さんは、ご機嫌だ。
落ちるしかないレックは、こうして輝く羽を持つフェアリーモードの姉さん達の助けがなければ、落ちるしかない。のんきな解説も、聞くしかないのだ。
両手に美少女で、ドキドキだ。
「ちょ、にげ、にげ――」
逃げなければ、やられる――そんな気分で、ドキドキと、心臓が爆発しそうだ。魔王様が、レックめがけて、こちらをめがけて、歩き出しているように見えた。
魔王様が、咆哮をあげた。
空気そのものが、殴りかかってくるような威力である。もちろん、全方位をバリア出来るエルフちゃんたちには、通じない。
包帯が、くるくると飛んでいっただけだ。
「………包帯?」
レックは、のんびりと流れる包帯を、見つめていた。
怪我をしているメンバーは、いない。
いても、上級ポーションを子鍋で量産するエルフちゃんが、ここにいるのだ。ミニスカートのセーラー服ファッションに命をかける、見た目12歳のエルフちゃんにかかれば、腕の一本やそこら、生えてくるらしい。
ゲームやラノベと同じなのだと、ちょっと嬉しく、そんな目に遭いたくないレックは、ドキドキだった。
メイドさんが、額に手のひらを乗せて、包帯を解いた左手を天に向けていた。
「あぁ~………ついに左手の封印が………この、オーレリアス・アラン・ブラッドレー・ダーク(以下略)」
真の名前は、長かった。




