真の力は、やや自爆らしい
主人公の下に、新たなキャラクターが訪れる。
それは、お約束だと、レックは思った。
主人公がピンチになれば、都合よく現れるのだ。ヒントや、新たなる武装を届けてくれる、ありがたいキャラなのだ。
暴走族キャラでも、ありがたいのだ。
ただ、レックは困っていた。
「アイテム・ボックスが答え………って、どういう――」
新キャラの兄貴は、堂々と宣言した。
『アイテム・ボックスが答えなんだよっ!』――と、びしっと決めたのだ。
赤い派手なロングコートに、長い鉢巻に、トドメはコートの裏である。大きく刺繍されている文字は、伝統だ。
四・六・四・急―――と、刺繍されていた。
レックはツッコミを我慢して、そして、考える。
「いや、身近な力がヒントとか、答えとかはお約束ッスけど………あれ?」
分からなかった。
アイテム・ボックスとは、便利な能力だ。原理は不明だが、亜空間らしきものにアイテムを出し入れする、一種の封印魔法とも言われる。封印の宝石には、バイクや武器や色々を収納して持ち運び、やや大きいがアイテム袋も普及している。
黒こげローストと関係があるなど、考えもしなかった。
タツオの兄貴は、自慢げに腕を組んだ。
「まぁ、実際に目の前で爆発しなきゃ、わからないだろうな~………こんだけ雁首そろえて、ヒントすら思いつかないんだからよぅ――」
暴走族スタイルの兄さんは、笑った。
ヨシオ兄さんをはじめ、大先輩の皆様の顔色など、見ていないようだ。さすが不良だと、暴走族スタイルだと、レックは思った。
気づかない兄貴は、続けた。
マジック袋の爆発事故と、同じだ――と
「みろっ」
懐から、なにかを取り出した。
レックより輝く金色ヘアーは、ツンツンと上を向いている。80年代の不良漫画に出てきそうな暴走族の兄貴は、アイテム袋を取り出した。
ただし、破れていた。
まるで、お徳用袋に詰めまくって、限度を超えたような破れ具合だ。縫い目の一部が弱そうだが、皮の部分からも、千切れていた。
レックが口を開こうとすると、兄貴は笑顔を浮かべた。
「わかったか?」
分からなかった。
ケンカを始めそうな笑みは、やめてほしいと思ったレックである。後ろでは、100メートルオーバーの魔王様がおいでなのだ。復活してから、一歩も歩き出していないのが幸いだが、圧力が怖いのだ。
すると、ぱこん――と、兄貴の金色ツンツンスタイルが、いい音をした。
「タツヒコくん、長い」
偽メイドのヨシオ兄さんが、ツッコミを入れた。
見た目は、ロングヘアーの大人なメイドさんの、ドロシー姉さんである。前世をお持ちの、やや中二と言うヨシオ兄さんでもある。
なぜか、スリッパだった。
「ヨシオの兄貴、スリッパはやめろ、せめて、ハリセンを――」
「いいから答えを――って、あぁ、魔法の暴発?」
ズタぼろの、ちぎれたアイテム袋が、答えらしい。
容量を超えて、あるいは制御ができずに暴発したのだろう。それが、黒こげローストの答えという。
しかし、黒コゲは分からなかった。
「レックも、前世が日本人っていうなら、これで――」
「エンジンのポンプと同じです。学校であったでしょ、圧縮した空気が、綿を一瞬で燃やして、爆発的な圧力を生むってやつ――エンジンの中身とか、そんなのです」
兄貴の説明をさえぎって、メイドの姉さんが、かぶせてきた。
タツヒコの兄貴にとっては、よしお兄さんと言う中二のお姉さんは、頭の上がらないお姉さんらしい。
メイドのドロシー姉さんは、説明が長いために、答えをくれたということだ。
ただ、レックは、目を泳がせた。
「あ、あぁ~、そういうのッスね、答えは目の前って、お約束で――」
ごまかした。
前世が日本人なら、分かるだろう――タツヒコの兄貴が言おうとしたことであるが、レックの前世は、冷や汗をかいていた。
分からなかったためだ。
主人公が元々手にしていた力が、答えとなる。
それは、よくある設定であるものの、アイテム・ボックスの暴発や、エンジンのポンプと言う説明では、分からなかったのだ。
前世の浪人生などは、冷や汗をだらだらと流しながら、目の前には『こども百科事典』を開いていた。
実際にあるわけでもなく、もちろん、レックが検索できるわけもない。
タツヒコの兄貴は、解説を続けた。
「アイテム袋を作る職人がいるんだけどよ、作ってるのを見せてもらったんだけど………いやぁ~、ヤバかったぜ、逃げろって言われて、とっさに逃げたとたん――だもんなぁ~」
そして、黒こげだったらしい。
レックの噂を耳にして、イノシシのローストの話と、アイテム袋の暴発という事故を目の前にして、タツヒコの兄貴は、ひらめいたそうだ。
アイテム・ボックスが答えだと。アイテム袋の爆発と同じく、レックのアイテム・ボックスが暴走、ローストだったのが、答えだと。
すごいだろ――と、ふんぞり返っていた。
「――大爆発………オレ、実はヤバかったんだ………」
ぞっとした。
いや、巨大なイノシシのモンスターを前に、選択肢がなかったのだ。しかも、無意識であれば、イノシシの突進で命を失うか、自爆攻撃でローストにするか………
その選択肢は、無意識のうちに終えていた。命のピンチに、主人公の真の力が目覚めて、都合よく生き残るのだ。
そう、生き残った、それで十分だ。
ただ――
「レックくん、それって、自爆?」
ヨシオ兄さんが、可愛らしく、首をかしげた。
わざとらしいしぐさである。あくまで、前世のヨシオ兄さんは、前世に過ぎない。メインは、今の人格であるドロシー姉さんだ。
分かっていても、ドキドキするレックは、お年頃だ。
「へへへ、自爆ッス」
自爆だと知って、自爆が切り札だと言われて、ドキドキだった。




