脱出 魔王のお城 3
ばるるるん――と、エンジンの音がする。
レース場というお部屋に、所狭しと、響き渡る。上の階では、魔王様の大暴れが、地響きで、破壊の真っ最中だ。
お部屋の入口はつぶれ、レース場のお部屋の入口もまた、つぶれていた。
ゲームなどでは、お約束である。
逃げるための手段が消え去り、瓦礫を登って脱出、あぁ、こんな裏口があったのか――など、新たな発見が嬉しいのだ。
レックは、バイクに乗っていた。
「ちょ、まさかっ――」
上の階にて、確かに言っていた。バイクで逃げようか――という、冗談みたいな、本気の会話があったのだ。
馬のおっさんは、笑っていた。
「いやぁ~、せっかくのレース場だからなぁ~………」
「レック、ちょうど壁に穴があいてるだろ………へへ、どれだけ飛べるか、勝負か?」
馬の姉さんも、かっこよく笑っていた。
二足歩行ロボットになれる、大型バイクのおっさんに、UFOモードから、一輪バイクに変形の姉さんは、《《外》》を見ていた。
魔王様の大暴れの影響は、お部屋の入口をつぶしたが、新たなる脱出口を用意していたのだ。
《《外》》の景色は、とっても久しぶりの気分だ。
レックは、つぶやいた。
「………マジっすか?」
ここは、地上何メートルなのだろう。レース場だけあって、ややすり鉢上になっている。スピードを上げてジャンプすれば、滑走路の役割で、さぞ、遠くまでジャンプできるだろう。
着地さえ考えなければ、本当に――
「って、ヤバイっす。死ぬッス」
レックは、即座にツッコミを入れた。
バイクを出せ――この言葉によって、レックは反射的に、相棒のエーセフを出したのだ。山道でも岩場でも安心の、そしてレックにあわせた小型のバイクである。
バリアまであるため、転んだとしても傷一つ負わない、ややSFなバイクである。
限度があるに、決まっている。
「ここ、レース場なんッスよ、下には食堂やら………ぁあ~」
振動が、近づいている気がする。
それは、決して気のせいではない。魔王様が、復活を始めているのだ。腕だけで、とても巨大な全体像は、考えたくもない。
エルフちゃんたちは、残酷だった。
「ねぇ、誰が一番だと思う?」
「ん~、加速だと、一番軽いレックだと思うにゃ~」
「いやぁ~、パワーだろ、あたしは、おっさんに賭けるかな~」
「おれっちは、レックかな。やっぱ、一番小さいから」
「いやいや、同じアーマー・5のメンバーやろ――まぁ、うちは、おっちゃんに賭けるけど?」
皆様も、ひどかった。
魔女っ子マッチョは、実は常識人だと思っていたが――
「レックちゃ~ん、早く準備しなさ~い」
出口付近で、スタンバイOKだった。
レースクイーンのつもりなのだろう、魔女っ子ステッキを大きく広げて、しかも、輝いていた。
赤い輝きである、あれが黄色となり、緑になればスタートなのだろう。
残る希望は、メイドさんだが――
「ドロシーちゃんは、レックに賭けるのか?」
「えぇ、いざと言うときにやるのが、勇者(笑)ですから………」
「そっか~、しかし、ベルバートの例があるからなぁ~、ファイアーソードなんて、結局は――」
猫耳のマッチョな食堂のおじ様と、僧侶ファイターのような、門番の細マッチョも、ここにいた。
すでに、魔王の城は崩壊を始めている、ここにいてもしかたがないのは分かるが、と言うか、いつ、やってきたのだろう、不思議である。
そんな疑問を胸に抱いて、レックは叫んだ。
「飛べってか? おれっちに、ここから飛べって言うんッスか?」
小物パワーも、下っ端パワーも、タッグを組んでヤケになっていた。
皆さんがそろって、背中を押してくれるのだ。さぁさぁ、出番だ、出番だ――と、一番大きく背中を押してくれるのは、上から現れた腕である。
《《4本》》ほど、現れた。
「げ――腕の人、増えてる」
まだ、天井の隙間から見えたに過ぎない。
さらに上のお部屋では、まだ、下半身すら姿を現していないのだろう。上半身だけで、お部屋を這い回っているに違いない。両手?で、地面に手をついたというところだ。
それだけで、この破壊だった。
「いや、エルフの国を考えれば――」
100メートルを超える大木が、乱立していた。枝葉の間をジャンプして進むのが日常であったのだ、地上50メートルを超える高さをジャンピングが普通で、なら、ここもその程度の高さではないのか。
なら、落ちても大丈夫というか、ビビる必要は、ないのではないか。
レックはそう思おうとして――
「あっ――」
ジャンプした。
いや、指・ぱっちん――である。
なぜ、だれも警告をしてくれなかったのか、レックは、悲鳴を上げた。
「とるんぇええええええどっ――」
トルネードを、放った。
もし、バイクにまたがっていなかったら、レックの風船バリアだけであれば、危なかったかもしれない。
とっさにトルネードを放ったのは、とっさだったが………
馬のおっさんは、叫んだ。
「なにっ、フライングだとっ?」
「ちょっ、待ちやがれっ!」
馬の人たちは、とてもよい性格をしておいでだ。
レックが弾き飛ばされた心配よりも、先を越されたことに、お怒りなのだ。そして、魔女っ子マッチョと言えば――
「もぉ~、しょうがないわね~」
マジカル・ステッキを振り下ろしていた。
赤く輝いていた魔法の輝きは、いきなり、青になっていた。
ゴー――である。
「負けるかぁああああ」
「うぉおおおおおっ」
馬のおっさんと、馬の姉さんは、共に叫んだ。
タイヤが2つの大型バイクと、巨大なタイヤの中に運転席のあるものホイールと言うか、一輪バイクと言うか、馬の人たちのレースは、まだ、決着していないのだ。
そんな様子を、レックはぼんやりと見つめていた。
「そっか、トルネードで、加速がついたんだ………」
バイクの走りは、すでに関係ない。
レックが、多少は運転に慣れてきたといっても、指・ぱっちんと言うロケットスタートの経験など、あるわけがない。
また、魔王の指も、レックにロケットスタートをさせるために、はじいたのではないだろう。ただ、タコの足のようにうねっているだけで、その中の一本が、たまたま、指ぱっちんしただけなのだ。
太陽が、まぶしかった。
「あぁ、外か………ふっ、久しぶりの太陽は、まぶしいぜ――」
地上60メートルほどの上空を滑空しつつ、レックは見上げていた。
吹き飛ばされたタイミングで、全てをあきらめ、まっすぐ見上げたのは、空だった。
ゆっくりと、回転を始めていた。
ここは、封印の神殿である。
魔王を封印するためとあって、とても雰囲気が出る、深い森の中であった。緑が青々と言うより、どす黒く周囲に満ちているのだ。
魔王の城から、どれだけ距離をとったのか、レックはふと思った。
「エーセフ、無事か?」
指ぱっちんを直撃なのだ、バリアがあるとはいえ、ちょっと不安だった。
地面までの距離は、縮まっていた。




