表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
156/262

レックは、やっちまった


 じょぼぼぼぼ――と、甘ったるいドリンクが、レックの顔をぬらしている。

 甘ったるい香りと、呼吸をするたびに意識がすっきりとしてくる爽快感と、安心感が、思い出す。

 コハル姉さんの、特性ポーションであると。お店で手に入れようとすれば、ルペウス金貨が飛んでいく、上級ポーションであると。


 レックは、起き上がった。


「ま、魔王――だぁあああああっ」


 ヤバイと、叫んでいた。

 目の前には、そこには魔王の首があったのだ。そして徐々に思い出してくる、シャボン玉対決をしていたのだと。魔王が放つ深い緑色の炎と、レックの水風船が、互いを消しあっていたのだと。


 巨大な首は、気付けば消えていた。見回すと、あきれたようなお姉さん達が、レックを見ていた。

 コハル姉さんは、腰に手を当てた。


「………ポーションくらい、自分で飲めるようになろうよ?」


 あきれたような、物言いだった。

 薬が嫌いな弟へと向けた、お姉さんのお言葉である。見た目は12歳であるため、背伸びでお姉さんぶる様子が可愛らしい。

 実年齢は、おそらく人間の生きる年月を超えているのだろう。そんなことは、口にするだけでピンチだ。


 レックは、首を回した。


「………あれ、魔王様は? 炎は?」


 レックは、無事だった。

 部屋も、無事だった。


 それは、分かる。首を回して、周囲を見回しているのだ。それでも、周囲も無事であることは、生き残ったのだと、実感させる。


 緑色の炎は、触れるだけで溶かされる恐怖があった。

 水風船が、ドロドロと溶けて、はじけて、消えていったのだ。自分が触れれば、同じ目にあうと、恐怖だった。


 エルフちゃんが、実況を再会した。


「えぇ~、実況のコハルです。勇者(笑)のシャボン玉と魔王様の炎の対決は、ドローと言う結果になりました」

「ボクは、生き残ったが勝ちだと思うにゃ~、コハルは、弟子に厳しいにゃ~」

「ただ、新たな力に目覚めてほしかったみんなは、残念でした――にゃ~」


 ボクっ娘のラウネーラちゃんに引き続いて、クールな見た目のメイドさんまで、猫しゃべりに感染していた。このまま、異世界はお猫様に支配されていくのだろうか。本名はドロシーと言うお姉さんは、ノリがいいようだ。


 レックは、つぶやいた。


「あの、魔王様は――」


 魔王の首は、消えていた。

 まさか、転生初日と同じく、我知らずの内に倒してしまったのだろうか。そんなことがあっても、おかしくはない。転生した主人公なのだ。


 答えは、メイドさんが教えてくれた。


「だいぶ劣化しているけどね、やっぱり、封印の神殿なのよ………先人の知恵の、恐ろしいことよ」


 やや、中二の混じった言い方であったが、ヨシオ兄さんこと、本名ドロシー姉さんは、ちらほらと、指を刺していた。

 天井に、壁に、そして台座と、いたるところに宝石がちりばめられていた。クリスタルの輝きである、エネルギーを循環させたり、バリアを発生させたりと言う、この世界の技術である。


 もっともふさわしい言葉は、なんだろう。


「宇宙船みたいでしょ?」


 ちかちか光る、すこし古いSF映画に出てくる、とにかく光ってればいいんじゃね?――という、動力室であった。

 あるいは、司令室だ。


 中央に、巨大なクリスタルが複数、半透明のドーナッツ形状の置物か、飾りか、オブジェか………

 とにかく、ややSFと言う印象のお部屋だった。


 レックは、指刺した。


「あのぉ~………ひび割れたり、砕けたりしてるのって――」

「うん、封印が劣化してるわけ。まぁ、サブは入れ替えるだけでいいからね、ここに住み込んで、定期メンテで、クリスタルを入れ替えるの」


 つまり、バリア発生装置と言うことだ。

 あるいは、エネルギー吸収装置である。封じられた魔王様が暴れようとすれば、その力を吸い取り、あるいは攻撃を防ぎ、改めて封印するのだ。

 限界を超えれば壊れ、砕けてしまうため、クリスタルは定期的に入れ替える必要があるという。

 レックは、起き上がった。


「押すな――ってボタンとか、ありそうッスね?」


 フラグだと、口にしてから気づいた。

 ややSFというお部屋だったのだ。ならば、お約束として、自爆ボタンがあっても不思議はなかった。


 前世の浪人生などは、やめろ、それはフラグだぁああ――と、あわてて手を伸ばしている。もちろん、レックの心の中の風景であり、誰にも影響しない。


 エルフちゃんたちは、見つめていた。


「これのこと?」

「あ、ホントにあったにゃ~」


『押すな』――と、でっかいスイッチがあった。

 押してくれといわんばかりに、でっかい赤いスイッチであった。本当に押してはいけないのなら、せめてガラスケースの中にいてほしかった。

 もちろん、ガラスケースにはカギも必須だ。


 子供でも、手が届く場所にあるのは、狙っているとしか思えなかった。


「これ、押すの?」

「にゃ~」


 同時に、指を伸ばしていた。


 メイドさんは、やれやれ――と、首をふっていた。


「ダメダメ、そこは主人公がうっかり押しちゃうパターンっしょ?」


 ヨシオ兄さんと言う、前世が顔を出しているようだ。

 レックは、もちろん、そんなお約束をするわけがない。むしろ、ヨシオ兄さんが押しそうだ。

 なにより、興味津々のエルフちゃんたちが、押しそうだ。


 レックは、ダッシュした。


「ちょっ、らめぇええええ」


 フラグは、ここで回収される。

 緊張の連続で、その緊張が消えた足腰は、どのような態度を取るのか。とっさに走れば、どのような反応をしてくれるのか。


 手を伸ばしたまま、レックは突撃した。


『押すな』――と言うスイッチは、待ち構えていたのだ。主人公が押してくれるのを、この部屋に、勇者(笑)が来てくれるのを。


 メイドさんは、微笑んだ。


「ふふ………さすが勇者(笑)」


 レックは、やっちまった。

 朱色のスイッチを、ぽちっと、押していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ