ステータス先生と、レックの力
広いお部屋の片隅で、レックはひざを抱えていた。
天井までは10メートルほどと、お部屋もとっても広く、それなのに、とても狭く感じる。巨大な根っこのような腕が、大暴れをしたのだ。腕は消えてしまっても、その痕跡は、あちこちに見られる。
コハル姉さんが、お師匠を演じた。
「今こそ、レックの本当の力を、思い出すのじゃ~」
「そうだにゃ~――って、コハル、それってなんだっけ?」
金と銀のツインテールちゃんは、ごっこ遊びで、ただ遊んでいるだけだ。ラウネーラちゃんにいたっては、レックの本当の力など、覚えていない。
かつて説明したか、その暇があったのかは、レックも覚えていない。そのため、改めて告白した。
黒コゲのローストが、答えだと。
「転生した初日………っていうか、きっかけなんッスけどね――」
転生者したその日のことは、忘れようがない。
人生が、大きく変わったのだ。ローストされた、巨大なイノシシのモンスターが横たわっている前で、自分ではない人生がフラッシュバックをしたのだ。
ならばと、レックは《《あの言葉》》を口にしたのだ。
改めて、口にしてみた。
「――ステータスっ」
久しぶりだった。
目を閉じて、しばらく時間を置いて――
「………ぅう~、そうッスよね、ステータス先生は、いないんッスよね――」
むなしさだけが、ただよっていた。ステータスと言う言葉を唱えれば、レックの力の秘密が、明らかとなる。
ラノベその他で、お約束なのだ。
ちょっとした能力でも、とんでもないチートの化ける可能性を秘めている。そんな色々を確認するのが楽しみで、怖いようで………
もし、ステータス先生が存在していたら、黒こげローストの理由が、すぐに分かっただろう。炎属性だとか、エネルギー攻撃だとか………
そんな設定は、存在しなかった。
メイドさんは、レックを見つめていた。
「………マジ、さけんでるよ、ステータスって」
前世のヨシオ兄さんが、ちょっと顔を出していた。
コハル姉さんたちには、分からないだろう。レックと年代が近い転生者のメイドさんは、哀れみの瞳だった。
真名をオーレリアス・アラン・ブラッドレー・ダーク(以下略)という、中二をしているお姉さんからの、哀れみの瞳だった。
ややダメージを受けたレックだったが、エルフちゃんたちが、レックに気を使うはずがない。両方から、レックの腕を引っ張った。
「実戦に勝る修行はない………ゆくぞ、わが弟子よ」
「ゆくんだにゃ~、封印のお部屋は、真上だにゃ~」
強引に、立たされた。
お子様とはいえ、2人がかりであれば、貧弱な15歳のボウヤを立ち上がらせるなど、簡単なことだ。
そのまま空中へと、穴があいた天井へと向かうのは、エルフだけだ。
レックは、叫んだ。
「ちょっ、いきなりぃいいいっ?」
おさらいの暇は、与えてくれなかった。
メイドさんも、突撃だ。
「上の階は、魔王の首でございまぁ~すっ」
ノリノリだった。
というか、メイドさんは空を飛べたようだ。雷属性なのだろう、ぱちぱちと輝いて、空中へと飛び上がっていた。
そして、爆弾を落としたのだ。
『上の階は、魔王の首』――だと
レックは、悲鳴を上げた。
「ちょ、えっ、えぇええええっ――」
聞き間違いであればいいが、ここは魔王が封印された神殿である。そして、腕があれば、その上には首があるのが、常識だ。
エルフちゃんたちに引っ張られながら、隣を飛ぶメイドさんを見つめたが………
メイドさんは、ふと、思いついた。
「黒こげのロースト――、ひょっとして、私と同じ雷系統の力だったりして………電子レンジとか?」
そこは、電子砲など、カッコイイ名前を思いついてほしかったと、レックは思った。頭の中が中二なら、SF設定も、頭にあるはずなのだ。
レックは、うなだれた
「ちょっと、言い方考えてくだせぇ――」
秘めたる力が覚醒した瞬間が、電子レンジとは、大事なシーンが台無しだ。
壮大なバトルシーンが、お料理番組と言う気分なのだ。しかも、料理に失敗して、黒コゲにしちゃったパターンだ
そんな間に、到着だ。
「は~い、とうちゃ~く」
「到着だにゃ~」
エルフちゃんたちは、危なげなく着地した。
その勢いで、レックを放り投げる可能性もあったが、普通の着地であった。ちょっと安心のレックだが、ここは、魔王の腕が生えていた場所だと、緊張を思い出す。
レックのドリル・キックも、直撃していれば、ダメージを与えたかもしれない。届く前に、指ぱっちんで、吹き飛ばされた記憶は、先ほどのものなのだ。
メイドさんは、宣言した。
「上の階、魔王の首、魔王の首でございまぁ~す」
ふざけていた。
デパートの案内のように、宣言していた。下の階は、魔王の腕が生えていたのだ、それでは、上の階には、魔王の首があってもおかしくない。
レックは、ビビリはじめた。
「ちょ、修行って、試練って――」
レックの真の力が、炎なのか、もしかすると雷なのか。
属性が一つだけと言う縛りがないなら、あるいは、選ばれた勇者は、複数の力を持っていてもおかしくない。
そんな気分も吹き飛ぶ、エルフちゃんたちの笑みが、両サイドにあった。
「だってぇ~、実戦に勝る修行はないんでしょ?」
「試練だにゃ~」
とっても、楽しそうだった。




