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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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魔王の腕と、メイドさん


 レックは、ジャベリンを構えていた。

 何もない、広いお部屋へと案内され、目に映った“それ”を見て、思わず構えたのだ。室内であるため、ジャベリンを選択したあたり、ダンジョンの経験が生きている。


 巨大な腕が、目の前だった。


「こ、これ………これって、まさか魔王の――」


 レース場の上の、さらに上の部屋へと案内されると、待ち構えていた。


 思えば、昼食までは、楽しかった。

 猫マッチョなおじさまによる、オークの解体ショーなどは、どこかで見た、マッチョショーだった。

 そう、エルフの国で、地獄の門番と思ってもいい、兄貴達の魔法と同じである。カット系やスラッシュ系に、色々な魔法を組み合わせていた。


 オークの兜焼かぶとやきは、大好評だった。


「レック、封印がヤバイって、ちゃんと教えたでしょ?」

「そうだにゃ~、ここは、封印の神殿なんだにゃ~」


 エルフちゃんたちが、あきれていた。

 レックはあわて、おびえていたが、エルフちゃんたちは、自然体だった。


 とても高い天井が、フラグだと思った。巨大すぎる建物に、バカみたいに広いお部屋に、その理由は、フラグだと思った。


 巨大モンスターという、フラグだと。


 今回の場合は、魔王フラグだ。

 前世は、語る。なにかのゲームで、プレイしたことがある。とても広大なお部屋に、天井を突き破って、拳が現れるのだ。

 腕だけで、持てる力の全てを尽くして戦ったものだ。


 腕だけで――だ


 メイドさんが、上を向いた。


「寝相の悪いお客様ですね」

「まぁ、封印が解けかかってるからな」


 テクノ師団のおっさんも、のんびりしていた。

 メイドさんは、何気に新キャラだ。門番の細マッチョと言う僧侶ファイターと、食堂の猫マッチョと言うおっさんと、巨大な建物には、まだ住人がいると思っていた。


 3人目のキャラは、メイドさんだった。


 レックは、冷や汗をかいていた。

 大木の根っこのようにも見える。エルフの国では、100メートルを超える木々を伐採したものだ。

 古い木を伐採、建材や燃料や、そして、一部は防具や薬の材料となっていく。そんな大木の根っこが、目の前にある気分だ。

 つい、口にしてしまった。


「エルフの国みたいっすね、大木のサイズが、なんか………」


 それが、いけなかった。

 エルフちゃんたちが、はしゃいだ。


「切り倒したくなっちゃう?………レック、さすが勇者(笑)ね~」

「復活が早まるにゃぁ~、レック、ドリルキックだにゃぁ~っ」


 それは、フラグだ――


 レックは、叫びそうになる。

 そして、叫べない。大声を上げると、バトルがスタートというフラグだ。ラノベでは、お調子者がイタズラを仕掛け、バトルが始まると決まっているのだ。

 レックにそんな度胸など、あるわけがない。


 そう、レックには――


 豆タンクが、走り出した。


「まどろっこしいな~、いっちょ、おれっちが――」


 いつの間にか、取り出したのだろうか、キャタピラさんが、突撃だ。

 お久しぶりである。ダンジョンでは、お世話になった乗り物だ。アーマー・5(ファイブ)のお一人、ドワーフちゃんは見る角度によっては、カエルさんという、むしろ遊園地のゴーカートのようなタンクで、突撃をするお子様なのだ。


 サイズも、子供しか利用できないゴーカートである。ピンクやオレンジ、パステルグリーンの豆戦車が、可愛らしい。

 ドワーフは、大人でも、人間の子供ほどの身長である。まだ大人になっていないだろうドワーフの姉さんは、ランドセルよりも、ハンモックが似合いそうなだ。


 レックは、ダッシュした。


「お待ちくだせぇええええっ」


 させるものか、させるものか――と、自己最高記録で、ドワーフちゃんのタンクへと、突撃をした。

 念のため、水風船で全身を覆う。大砲が火を噴いても、中級魔法程度の威力だ、耐えられるだろう。


 正面から、タンクに両手を差し出して、ちょっと待った――スタイルだ。

 そのままタンクを押し戻してもいい。相手が本気でレックを殺るつもりでなければ、止まるだろう。


 たぶん………


「はぁ、はぁ――ちょ、なに突撃しちゃってるんッスか」

「えぇ~、だってさぁ~、せっかく腕を出してるんだから、踏んづけて目を覚ましてやろうかな~って――あぁ、カノン砲ぶっぱなすか?」


 まさに、勇者だ。

 お子様が、突撃だった。本当に、無邪気にイタズラをするノリで、魔王の復活が秒読みと言うところであった。


 せっかく魔王の人が休んでおられるのだ、あと100年くらい、休んでいてもいいではないか。ヤバイと言うのは気のせいで、解散、旅の始まりだ――エンドでも許されるのではないか。魔王を倒して、世界は平和になったというゲームではないのだ。燃える展開が肩透かしでもいいと、レックは本気で思った。


 レックは忘れていた、アーマー・5(ファイブ)は、まだいるのだ。


「まどろっこしいな~、あたしのガトリングで――」

「ちょいまち、うちのミサイルも補充してるけど、ちゃんと見せ場考えな?」

「おれ、こういう時って、勇者(笑)が、うっかり封印をとくって聞いたけど………」


 アーマー・5(ファイブ)の皆様は、やる気だ。

 ダンジョンの町では、大発生の余波による危険ゾーンの目白押しで、大暴れの日々だったはずだ。クライマックスのキャンプファイアーでは、町の人々がひゃっは~――をしており、まさに世紀末だった。


 まだ、足りないようだ。


 タンクから、ドワーフちゃんが乗り出してきた。


「レック~、おれっちとしては、レックが勇者らしく封印を切り裂いてさぁ~、勇者、いっきまぁ~す――って、そういうのが見たいんだけどさぁ~」


 もう、おとなしく帰りたい気分は、レック一人だけのようだ。それほど、レックの全員である勇者(笑)たちは、やらかしていたのか。


 勇者の出番だ――と


 エルフの皆様には、旅芸人として認識されている。その認識は広がり、人間意外からは『勇者(笑)』と言う呼び名になっている。


 先輩の勇者に、レックは問いかけた。


「あのぉ~………わざと封印を解くのって、アリなんッスか?」


 どこかを、向いていた。

 全力で、レックの質問から逃げる姿勢である。まさか、まさか――と、レックはおっさんを見つめていた。本名はベルバートと言うのだったか、見た目お子様のお姉さん達からは、ベル坊や、ベル君と呼ばれている、かつての勇者(笑)だ。


 レックは、まじめな顔で、おっさんを見つめた。


「やっちゃったんッスか?若さゆえの過ちとかで、やっちまったんッスか………」


 返答は、なかった。

 代わりに、エルフちゃんたちが、両サイドに現れた。


 そろって、答えてくれた。


「「ボウヤだからさ」」


 どうやら、『認めたくないものだな』――と言うことらしい。おっさんにも、若い日があったのだと、さすが、勇者(笑)の先輩だと思っていたところだった。


 レックの背後で、輝きが放たれた。

 後ろを向いていても分かる、轟音も、響いていた。


「………まさか、まさか………」


 どなたかが、やりやがったらしい。いったい誰だろうと、レックが振り向くと、ふわりと、スカートがひらめいていた。

 メイドさんが、優雅に髪の毛を整えながら、笑みを浮かべていた。


「認めたくないものだな――」


 何か、語っていた。


 新キャラのメイドさんは、笑っていた。



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