マグナムは、火を噴かない
金髪のポニーテールさんが、雄たけびを上げていた。
「ぉ~ら、オラオラオラオラオラオラオラぁ~っ!」
ゼファーリアの姉さんは、上機嫌だった。
ファイターであるために、殴る、蹴ると、とっても激しい。ボスの登場で、真っ先に突撃した、元気いっぱいのお姉さんだ。
生け贄は、ゴブリンのボスだった。
1メートルと少々のザコモンスターなのだが、 3メートルほどの巨体だ。さすがは、ボスだ。
それに、横幅も巨大で、武器も手にしていたのだが………
一方的に、たこ殴りされていた。
「ほらほら、どうした、どうしたぁあああ、オラオラオラオラオラオラオラぁ~っ!」
瞬発力に優れ、魔力を爆発的に上げる、突撃タイプのファイターだった。巨大なモンスターが相手でも、まったく苦にならない、オラオラオラ――だった。
ゴブさん、涙目だった。
その上空では、赤い閃光が、鳥のモンスターを襲っていた。
上空の鳥のモンスターは、おかげで逃げることも、攻撃を仕掛けることもできていない。それでも、攻撃が当たることはない、悔しそうに、ゴードンの旦那は、わめく。
「ぬんっ、ぬんっ………おのれ、ちょこまかとっ!」
剣士ゴードンの攻撃は、剣による衝撃であった。
赤い甲冑は、剣にも装着され、遠距離攻撃が出来るようになったらしい。ヒーローアニメであれば、武器のパワーアップと、剣の必殺技は、クライマックスだ。
ご都合主義で、剣を振り下ろすと、ご丁寧に真っ二つになってくれるのだ。拘束する魔法も併用していれば、違ったのだろうが………
「ゴードン、けん制でいいって、言ったでしょ?ほら、近づいてくるわよ~」
カルミー姉さんは、のんびりとしていた。それほど、ゴードンの旦那を信頼しているのだろう。魔力を高めている間は、無防備になるのだが、危機感は見られず、のんびりとしていた。
「マグナム………」
レックは、いつでも攻撃できるように警戒しつつ、それでも、仲間の戦いを見守るだけだった。
ガルフの兄さんからの忠告だった。
ボス戦の前に、改めて言われたのだ。
『――とりあえず撃つな、同士討ち注意だぞ。目の前に来るまで、我慢だぞっ』
パーティーではガンマンとして、そして、レックにリボルバーの使い方を教えてくれた、ガンマンの先輩でもある。
レックは、ガルフの兄さんの忠告を、素直に守った。何かしたいと、勝手に動くことはパーティーの足を引っ張ることになる。
登場したボスクラスのモンスターは、4体であった。ボスのゴブリンの人と、スライムのボスの人が、色違いで、そして上空からは鳥も現れたのだ。
スライムのボスは、ゴードンの旦那によって、最初に真っ二つ。続いて、けん制として、上空の鳥の人にむかって、魔法の剣を振り回していたのだ。
ゴブリンのボスの人は、ゼファーリアの姉さんが突撃、残るスライムのボスは、誰の獲物か。
ガンマンの、出番である。
「でかいだけのスライムなら、ただの的だ。ゼファーリアの動きは読めないから、レック………悪いが、我慢してくれよ?」
スライムのボスに向けて、両手のハンドガンを連射していた。
威力は高くない、レックがメインにしていた、リボルバーと同じである。ゴブリンやスライムといったザコ相手であれば、それでも十分だ。
ボス相手では、威力が不足なのだ。
なのに、スライムのボスの中央が、どんどんえぐれて、コアまで、あと少しだ。
ザコなら、どこを撃っても、その衝撃で吹き飛んで終わる。グミと言うか、ゴムボールと言うか、剣でも、銃でも、一撃を当てれば倒せる、ザコなのだ。
巨大であるため、攻撃が通りにくいだけだ。
しかも――
「げっ、姉さん?」
レックは、思わず悲鳴を上げそうになった。連射している嵐の中に、金髪のポニーテールの影が見えたのだ。
巻き添えを食らう、レックが忠告された、同士討ちと言う悲劇が起こってしまう。いくらファイターの防御力が高くとも、ハンドガンの嵐の前に、危険すぎる。
………微妙なタイミングで、ゼファーリアの姉さんから、銃弾がそれていく。姉さんの動きにあわせているのだろう。
驚くことなく、ガルフの兄さんは、あきれる。
「ほらな、ほらな………ゼファーリアは、体勢を立て直すとき、後ろに飛び下がるんだけどよ………大勢を相手に出来るんだけどよ………な、援護って、大変だろ?」
すっごく、同意見だった。
もしも、レックがリボルバーを放っていれば、危険だ。スライムにしか集中できない今のレックでは、ムリだ。ゼファーリアの姉さんが飛び下がった、その予兆を察知しつつ、援護射撃を続けることなど、神業だ。
レックは、待ちぼうけだ。
「出番………」
つまらなそうに、レックはそれでも攻撃態勢を維持していると、魔力の反応に、身がすくんだ。
とっさに、魔法の中央、カルミー姉さんを見る。
にっこりと、微笑んだ。
「はぁ~い、おまたせぇ~………逃げて?」
とっさに、レックは目を閉じた。
このパーティーと過ごした回数は、それなりだ。必ず守るようにと、色々と教えられた。そして経験でも、学んだ。
魔法の発動に、至近距離ではとくに、目を閉じて、身をかがめろと。
そして………
「レック、もういいよ、ほら………」
血ぬれの、ファイターの姉さんが、後ろにいた。
ゴブさんの返り血に、ぬれていた。
レックは、見上げた。
「うわぁ~………」
きりきり舞いに、舞い落ちる。
巨大な鳥さんが、舞い落ちる。その様子を、レックはのんびりと眺めていた。
「うぅ~ん………中級魔法で、ほら、簡単」
魔法使いのお姉さんが、いい仕事をしたという、笑みを浮かべていた。
威力は、目の前で放たれれば、思わず地面にしゃがみこみたくなるほど、ハデで、恐ろしいものだった。
巨大な竜巻だ
ご丁寧に、石ころや木片を舞い上げ、ミキサーすると言う凶悪な魔法だ。竜巻の内側は、弾丸の嵐だといわれる。数百発の弾丸に襲われ続け、飛ぶことも出来なくなったモンスターの鳥は、無残にも墜落した。
中級魔法では、強力な部類に入る、チャージのための時間が必要だと、ゴードンの旦那に時間稼ぎを命じただけの、威力はあった。
「ボスって言っても、ザコかったね?ガルフでも倒せたから」
「なんだよ、一ヶ所に何十発も当てるって、すげぇんだぜ?」
「は~い、はいはい、ケンカしないのぉ~………」
巨大なスライムも、ゴブリンのボスの人も、無残な亡骸をさらしていた。
中級魔法でなければ倒せない、ボスである。レックだけならば、命がなかっただろう。転生のショックで、一度は助かった命だが、奇跡はなかなか、起こらないものだ。
そんなボスを、ズタボロにしてしまう。これが、シルバーランク冒険者なのだ。
レックのマグナムは、パワーアップした魔力は、役立つことはなかった。しかし、それでいい。レックの役割は、別にある。
自らのみを守る、それだけでも、十分な戦力である。
そして――
「じゃぁ~、レックちゃん、あとはお願いね?」
カルミー姉さんが、にっこり笑顔で命じた。
「待て待て、万が一に備えて、コアを取っておけ………レックのアイテムボックスは、凍結とか、拘束能力とか、ないんだろ?」
「はい、空気も、アイテムを収納するときに、少し入るくらいですけど………しぶといやつなら、多分生きていますね?」
「あぁ、封印された魔物が、弱くなるって………あれ?」
「一種の封印魔法だからな………っていうか、状態を維持したままの封印だったら、弱体化できないからな」
「逆に、体力を戻すありえないことも、起こるらしいけどね?」
にこやかな話の中、ゴードンの旦那を中心に、とりあえずコアだけは回収、別途アイテム袋へと回収していく。
マジック・クリスタルとも、コアとも呼ばれる、モンスターの体内で生成された、力の源だ。ここを破壊すれば、多くは命を失うか、ザコレベルに弱体化する。
血みどろの海では、復活はないだろう。
「レックでも、この数を収納………って、パワーアップしてるもんね?いやぁ、子供の成長って、早いなぁ~」
「オバハンか、しかし、同感だな。レックの魔力値で何百キロも運べてたのは、すごい才能だったわけだ。それが、いまではパワーアップで………何トンだっけ?」
オバハン
女性に向けて、口にしてはいけない単語である。学ばないガンマンのガルフは、地面のシミとなった。
レックは無言で、モンスターの残骸を回収していく。骨や皮など、色々と役立つのだ。このまま森の土にするのもいいが、肥料その他、使えない部位は、断末魔くらいなものだ。
「ホント、このまま正式にパーティーを組んでほしいくらいね?」
「まぁ、まぁ、無理強いはしないことだ」
約一名、地面のシミとなっているが、しばらくは休めるだろう。のんびりしているように見えて、皆さん経験のある冒険者なのだ。しっかりと周囲を警戒しているに違いない、地面のシミになっていても、きっと大丈夫だ。
レックは一人で黙々と、残骸を回収していくのみである。
しかし――
レックは、はるかなる高みを、振り返る。ブロンズから見た、シルバーの皆様の輝きである。
「魔法………使えてたらなぁ………」
魔力だけは、それなりに増えたのだ。マグナムに気を取られすぎたが、レックの魔力があれば、マグナム並み、あるいはそれ以上の攻撃魔法も、簡単に扱えるはずなのだ。
それこそ、ボスを一撃の攻撃は、転生ショックで発動済みだ。
ならば………
「修行編、スタートだ」
静かに、燃えていた。




