表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
15/262

マグナムは、火を噴かない


 金髪のポニーテールさんが、雄たけびを上げていた。


「ぉ~ら、オラオラオラオラオラオラオラぁ~っ!」


 ゼファーリアの姉さんは、上機嫌だった。

 ファイターであるために、なぐる、ると、とっても激しい。ボスの登場で、真っ先に突撃した、元気いっぱいのお姉さんだ。


 生け贄は、ゴブリンのボスだった。


 1メートルと少々のザコモンスターなのだが、 3メートルほどの巨体だ。さすがは、ボスだ。

 それに、横幅も巨大で、武器も手にしていたのだが………


 一方的に、たこ殴りされていた。


「ほらほら、どうした、どうしたぁあああ、オラオラオラオラオラオラオラぁ~っ!」


 瞬発力に優れ、魔力を爆発的に上げる、突撃タイプのファイターだった。巨大なモンスターが相手でも、まったく苦にならない、オラオラオラ――だった。


 ゴブさん、涙目だった。


 その上空では、赤い閃光せんこうが、鳥のモンスターを襲っていた。

 上空の鳥のモンスターは、おかげで逃げることも、攻撃を仕掛けることもできていない。それでも、攻撃が当たることはない、悔しそうに、ゴードンの旦那は、わめく。


「ぬんっ、ぬんっ………おのれ、ちょこまかとっ!」


 剣士ゴードンの攻撃は、剣による衝撃であった。


 赤い甲冑は、剣にも装着され、遠距離攻撃が出来るようになったらしい。ヒーローアニメであれば、武器のパワーアップと、剣の必殺技は、クライマックスだ。

 ご都合主義で、剣を振り下ろすと、ご丁寧に真っ二つになってくれるのだ。拘束する魔法も併用していれば、違ったのだろうが………


「ゴードン、けん制でいいって、言ったでしょ?ほら、近づいてくるわよ~」


 カルミー姉さんは、のんびりとしていた。それほど、ゴードンの旦那を信頼しているのだろう。魔力を高めている間は、無防備になるのだが、危機感は見られず、のんびりとしていた。


「マグナム………」


 レックは、いつでも攻撃できるように警戒しつつ、それでも、仲間の戦いを見守るだけだった。

 ガルフの兄さんからの忠告だった。

 

 ボス戦の前に、改めて言われたのだ。


『――とりあえず撃つな、同士討ち注意だぞ。目の前に来るまで、我慢だぞっ』


 パーティーではガンマンとして、そして、レックにリボルバーの使い方を教えてくれた、ガンマンの先輩でもある。


 レックは、ガルフの兄さんの忠告を、素直に守った。何かしたいと、勝手に動くことはパーティーの足を引っ張ることになる。


 登場したボスクラスのモンスターは、4体であった。ボスのゴブリンの人と、スライムのボスの人が、色違いで、そして上空からは鳥も現れたのだ。


 スライムのボスは、ゴードンの旦那によって、最初に真っ二つ。続いて、けん制として、上空の鳥の人にむかって、魔法の剣をり回していたのだ。

 ゴブリンのボスの人は、ゼファーリアの姉さんが突撃、残るスライムのボスは、誰の獲物か。


 ガンマンの、出番である。


「でかいだけのスライムなら、ただのまとだ。ゼファーリアの動きは読めないから、レック………悪いが、我慢してくれよ?」


 スライムのボスに向けて、両手のハンドガンを連射していた。

 威力は高くない、レックがメインにしていた、リボルバーと同じである。ゴブリンやスライムといったザコ相手であれば、それでも十分だ。


 ボス相手では、威力が不足なのだ。


 なのに、スライムのボスの中央が、どんどんえぐれて、コアまで、あと少しだ。

 ザコなら、どこを撃っても、その衝撃で吹き飛んで終わる。グミと言うか、ゴムボールと言うか、剣でも、銃でも、一撃を当てれば倒せる、ザコなのだ。

 巨大であるため、攻撃が通りにくいだけだ。


 しかも――


「げっ、姉さん?」


 レックは、思わず悲鳴を上げそうになった。連射している嵐の中に、金髪のポニーテールの影が見えたのだ。

 えを食らう、レックが忠告された、同士討ちと言う悲劇が起こってしまう。いくらファイターの防御力が高くとも、ハンドガンの嵐の前に、危険すぎる。


 ………微妙なタイミングで、ゼファーリアの姉さんから、銃弾がそれていく。姉さんの動きにあわせているのだろう。

 驚くことなく、ガルフの兄さんは、あきれる。


「ほらな、ほらな………ゼファーリアは、体勢を立て直すとき、後ろに飛び下がるんだけどよ………大勢を相手に出来るんだけどよ………な、援護って、大変だろ?」


 すっごく、同意見だった。


 もしも、レックがリボルバーを放っていれば、危険だ。スライムにしか集中できない今のレックでは、ムリだ。ゼファーリアの姉さんが飛び下がった、その予兆を察知しつつ、援護射撃を続けることなど、神業だ。


 レックは、待ちぼうけだ。


「出番………」


 つまらなそうに、レックはそれでも攻撃態勢を維持していると、魔力の反応に、身がすくんだ。


 とっさに、魔法の中央、カルミー姉さんを見る。

 にっこりと、微笑んだ。


「はぁ~い、おまたせぇ~………逃げて?」


 とっさに、レックは目を閉じた。

 このパーティーと過ごした回数は、それなりだ。必ず守るようにと、色々と教えられた。そして経験でも、学んだ。

 魔法の発動に、至近距離ではとくに、目を閉じて、身をかがめろと。


 そして………


「レック、もういいよ、ほら………」


 血ぬれの、ファイターの姉さんが、後ろにいた。

 ゴブさんの返り血に、ぬれていた。


 レックは、見上げた。


「うわぁ~………」


 きりきり舞いに、舞い落ちる。

 巨大な鳥さんが、舞い落ちる。その様子を、レックはのんびりとながめていた。


「うぅ~ん………中級魔法で、ほら、簡単」


 魔法使いのお姉さんが、いい仕事をしたという、笑みを浮かべていた。

 威力は、目の前で放たれれば、思わず地面にしゃがみこみたくなるほど、ハデで、恐ろしいものだった。


 巨大な竜巻だ


 ご丁寧に、石ころや木片を舞い上げ、ミキサーすると言う凶悪な魔法だ。竜巻の内側は、弾丸の嵐だといわれる。数百発の弾丸に襲われ続け、飛ぶことも出来なくなったモンスターの鳥は、無残にも墜落した。


 中級魔法では、強力な部類に入る、チャージのための時間が必要だと、ゴードンの旦那に時間稼ぎを命じただけの、威力はあった。


「ボスって言っても、ザコかったね?ガルフでも倒せたから」

「なんだよ、一ヶ所に何十発も当てるって、すげぇんだぜ?」

「は~い、はいはい、ケンカしないのぉ~………」


 巨大なスライムも、ゴブリンのボスの人も、無残な亡骸なきがらをさらしていた。

 中級魔法でなければ倒せない、ボスである。レックだけならば、命がなかっただろう。転生のショックで、一度は助かった命だが、奇跡はなかなか、起こらないものだ。


 そんなボスを、ズタボロにしてしまう。これが、シルバーランク冒険者なのだ。


 レックのマグナムは、パワーアップした魔力は、役立つことはなかった。しかし、それでいい。レックの役割は、別にある。

 自らのみを守る、それだけでも、十分な戦力である。


 そして――


「じゃぁ~、レックちゃん、あとはお願いね?」


 カルミー姉さんが、にっこり笑顔で命じた。


「待て待て、万が一に備えて、コアを取っておけ………レックのアイテムボックスは、凍結とか、拘束能力とか、ないんだろ?」


「はい、空気も、アイテムを収納するときに、少し入るくらいですけど………しぶといやつなら、多分生きていますね?」


「あぁ、封印された魔物が、弱くなるって………あれ?」

「一種の封印魔法だからな………っていうか、状態を維持したままの封印だったら、弱体化できないからな」

「逆に、体力を戻すありえないことも、起こるらしいけどね?」


 にこやかな話の中、ゴードンの旦那を中心に、とりあえずコアだけは回収、別途アイテム袋へと回収していく。

 マジック・クリスタルとも、コアとも呼ばれる、モンスターの体内で生成された、力の源だ。ここを破壊すれば、多くは命を失うか、ザコレベルに弱体化する。

 血みどろの海では、復活はないだろう。


「レックでも、この数を収納………って、パワーアップしてるもんね?いやぁ、子供の成長って、早いなぁ~」

「オバハンか、しかし、同感だな。レックの魔力値で何百キロも運べてたのは、すごい才能だったわけだ。それが、いまではパワーアップで………何トンだっけ?」


 オバハン

 女性に向けて、口にしてはいけない単語である。学ばないガンマンのガルフは、地面のシミとなった。

 レックは無言で、モンスターの残骸を回収していく。骨や皮など、色々と役立つのだ。このまま森の土にするのもいいが、肥料その他、使えない部位は、断末魔くらいなものだ。


「ホント、このまま正式にパーティーを組んでほしいくらいね?」

「まぁ、まぁ、無理強いはしないことだ」


 約一名、地面のシミとなっているが、しばらくは休めるだろう。のんびりしているように見えて、皆さん経験のある冒険者なのだ。しっかりと周囲を警戒しているに違いない、地面のシミになっていても、きっと大丈夫だ。


 レックは一人で黙々と、残骸を回収していくのみである。


 しかし――


 レックは、はるかなる高みを、振り返る。ブロンズから見た、シルバーの皆様の輝きである。


「魔法………使えてたらなぁ………」


 魔力だけは、それなりに増えたのだ。マグナムに気を取られすぎたが、レックの魔力があれば、マグナム並み、あるいはそれ以上の攻撃魔法も、簡単に扱えるはずなのだ。

 それこそ、ボスを一撃の攻撃は、転生ショックで発動済みだ。


 ならば………


「修行編、スタートだ」


 静かに、燃えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ