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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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いらっしゃい、レース場へ


 この世界には、魔王と言う存在がいる。


 ただ、RPGで見かける魔王とは異なるらしい。

 よく来たな、勇者よ――と、偉そうに座っているおっさんではなく、桁違いの強さのボス・モンスターのことだ。


 バイクを吹かしながら、ケンタウロスのおっさんが笑った。


「魔王を倒せるヤツは、昔から少なかった。そんな中、転生者は強い力を持つことが多くてな、昔から、魔王の討伐に参加していたって話だ」


 ばるるるん――と、今にも走り出しそうだ。


 ダンジョンの町でも、暇があればレースをしていたおっさんだ。魔王の城においても、レース場があれば、走りたいのだ。

 ダンジョンの町では、あまり活躍していなかったと思うのだが………未熟なレックの補佐と言う役割らしい。


 テクノ師団の隊長殿も、同じ役割だ。


「転生者でも、凄腕でも、とにかく数が足りない、移動手段が発展した今でも、それは変わらないんだ。ヘリとか、昔よりはマシらしいが………やっぱり、数が足りない。そこで――」


 隊長殿は、指を刺した。

 レックが手にしている、宝石を指していた。つられて、レックも手の中の宝石を見つめる。


「封印――ってことッスか?」


 バイクは、宝石の中である。レクのアイテム・ボックスや、またはアイテム袋と同じく、封印系統とも呼ばれている。

 荷物運びに、とても便利な能力だ。日常生活に不可欠であり、この世界が忠誠ファンタジーの印象でありながら、流通がすばらしい理由でもある。

 封印技術は、かなり発展しているようだ。


 魔王への対策に、使わないわけがない。

 あるいは、魔王への対策によって、封印技術が発展してきたのかもしれない。どちらが先なのか、とにかく、この世界の皆様は、大昔から大発生と、そして、魔王に頭を悩ませてきたのだ。

 封印の神殿によって、とても長く封じられるという。その間に、余裕のない地域の援助に向かったり、戦いの準備をしたりと、とにかく、時間が稼げるのだ。


 それでも、限度はある。レックは、封印がそろそろ危ないということで、この封印の神殿へと呼ばれたのだ。


 ここは、それだけヤバイ場所なのだが………


「へっ、今度こそ、ケリをつけてやる」

「ふん、小娘が、新しければいいというものでは――」


 馬の人たちは、またも、熱かった。


 当然、バイクを持っているレックも、参加である。地下二階でオークを倒したばかりだが、本当に、余裕が出たものだ。

 猫マッチョによるオーク解体ショーまでの、暇つぶしである。まさに、昼飯前の所業であった。


 レックは、宝石をたたきつけた。


「来い、エーセフっ」


 本来、宝石を地面に叩きつける必要はない。しかし、お約束と言うものなのだ、カッコイイが、優先なのだ。


 見物人の受けも、悪くない。


「レック、すっかりバイク仲間にされちゃったわね」

「ふっ、ボクにも分かるにゃ~、乗り物は、魂を振るわせるんだにゃ~」

「おれっちも、豆戦車出そうかな………」

「いやいや、カエルさんだと、勝負にならないでしょ?」

「う~ん、バイクでのレースやからねぇ~」


 エルフちゃんたちに、アーマー・5(ファイブ)の皆さんに、勝負の行方を見守りつつ、おしゃべりに花が咲く。


 ロボも乗り物と言っていいのなら、ラウネーラちゃんも、スーパー・ロボットを持っている。

 まさか、参加させるわけにはいかない、いくら天井の高さが10メートルと言うふざけた巨大な室内でも、スーパー・ロボットには狭いだろう。


 見る角度によっては、カエルさんに見えるオリジナル豆戦車も、バイクのレースでは、我慢してほしい。

 無差別レースならば、妨害も攻撃もOKのレースなら、さぞ、見ものだろう。


 魔女っ子マッチョが、ステッキを振り上げた。


「それじゃ、3人とも、準備はいいかしら?」


 レースクイーンのつもりだろうか。間違って事後が起こっても、無傷に違いない、あるいは、そのまま走っても、バイクと同じ速さで走れそうだ。

 マッチョな魔女っ子は、あらゆるバトルに対応できそうなのだ。


 レックは、天井を見つめた。


「魔王の復活って………あれ、ヤバイって聞いてたのに――」


 まるで屋外レース場のように広く、明るく、なぜか青空では雲も泳いでいる、荒野のレース場だった。

 とっても、技術がファンタジーだ。ホログラフと言う、ややSFかもしれない。


 馬の人たちは、盛り上がっていた。


「バイクは2輪が一番だ、ロマンって言うやつだよ」

「へっ、それが古いって、教えてやるよ」


 ケンタウロスの姉さんは、ホバー愛車のUFOを、一輪バイクに変身させ、自慢げに吹かしている。

 決着がついても、利便時マッチで、きりがない。本気の対立ではなく、レースを盛り上げるための、掛け声なのだろう。

 温度差のある面々だが、ステッキは、容赦なく振り下ろされた。


 レースの、スタートだ。


 馬の人たちは同時に、レックはやや遅れて、レーンを走る。岩場でも、それなりに走りなれたレックは、それでも、馬の人たちには及ばない。


「………馬が生えてるのに、馬があるのに――」


 巨大な一輪と、『馬』Tシャツの背中を追いかけながら、つぶやいた。本人達の前では口にしないが、ケンタウロスなのだ。

 もはや、封印の神殿でのツッコミは、飽きてきた。バイクのレース場があっても、いいではないか。暇つぶしも、大切なのだ。


 封印の神殿は、たくさんのお部屋がある。1Fのメインホールに始まり、地下では新鮮な食材が手に入る。

 倒すことが前提だが、オーク程度を倒せないような冒険者は、試練の門をくぐることも出来ない。そのため、『食料エリア』と言う、ふざけたプレートがかけられていた。


 他にもたくさんの部屋があり、なぜかレース場まであった。

 元々は、城の兵士のための訓練所のようなものだろう。神殿も、専属の騎士や兵士や、護衛の皆様がいらっしゃる。


 そういえば、封印の神殿と言う割には、兵士やそのほか、あまり人を見ていない。猫マッチョさんが、わざわざ案内をしてくれたほどで、人手不足かもしれない。

 試練の門を潜り抜けられる冒険者や騎士やそのほか、優秀な人材は、とても少ないだろう。

 ずっと、封印の神殿に住まってもいい物好きは、さらに少ないだろう。


 レックは、悲鳴を上げた。


「げっ、トラップ?」


 爆発した。

 ゴーカートが、カメの甲羅やバナナでクラッシュしたり、スリップしたりするゲームを、思い出す。前世などは、星を探せ――と、叫んでいた。


 まずは、キノコかな――と、レックはのんびりと眺めている。


「………リタイアで、いいッスよね?」


 レースは、まだ前半戦も終わっていない。天井の高さは10メートルで、広さも学校の運動場を、いくつも合わせたような、ばかげた広さだ。

 見上げていた巨大な魔王の城は、やはり巨大だった。前世の感覚では、巨大ビル郡を見上げるようなもので、しかし、中世ファンタジーと言う異世界では、100メートル単位の建築物は、多くない。


 王様の都の一部や、エルフの国の一部など………その中でも、もっとも巨大な建物が、封印の神殿である、魔王の城だった。


 フラグだ、フラグなんだ――と、前世はおびえる。巨大な部屋に、モンスターが湧き出す地下の食料エリア。

 なぜ、巨大なものばかりが続くのか………


 大声が、響いていた。


「――おぉ~っと、レック選手、転倒したまま動かない、なにかトラブルか?解説のラウネーラさん、どう思われますか?」

「ふっ、勇者(笑)は、ピンチにこそ、力を発揮するんだにゃ~、まだまだ、これからだにゃ~」


 コハル姉さんが、ノリノリだった。

 そういえば、エルフの国でも、討伐の様子を、カメラ目線していたものだ。そういう技術は、ややSFで、むりやりファンタジー技術で、再現できるのだ。

 ラウネーラちゃんも、とっても、あおってくれている。


 アーマー・5(ファイブ)のお姉さんや、テクノ師団のおっさんなどは、ヤジまで飛ばし始めた。


 男を見せたれ――とか、しっかりしなよ――

 おっさんの、変わってやろうか――というヤジに関しては、心から、変わってもらいたい気持ちだった。


 レックは、立ち上がった。


「めざせ、完走――かな」


 遠くでは、爆発の音が響いている。トラップは、一つや二つではないようだ。果たして、完走できるのか………


 魔王の復活を前にして、レックの目標は、どこかおかしくなっていた。



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