いらっしゃい、試練の門へ
暗雲が立ち込める、魔王の城が、目の前だ。
ゲームでは、クライマックスだ。
前世の知識に教えられつつ、レックは見上げていた。現実感が伴わない。門番と言うおっさんの案内によって、ついに到着した。
近づくほどに、封印の神殿は巨大だと分かる、徐々に緊張を思い出し………
レックは、ツッコミを入れた。
「台無し………ッス」
『うぇるかむ』――と、ネオンサインが輝いていた。
頑丈な木製の扉は巨大で、ラウネーラちゃんのスーパー・ロボで乗り付けても問題ない、10メートルはありそうだ。
ラウネーラちゃんのロボが5メートル、ドワーフちゃんのゴーレムモードが4メートルほどである。その状態で『うぇるかむ』してもいいのかもしれない。
『鹿』Tシャツのおっさんが、ずずい――と、進み出た。
「ひさしぶりだな、この緊張感………そして、不思議な文字も」
この世界の人間にとっては、謎の言語であろう、『ひらがな』であった。間違いなく、日本人の影響である。痕跡はいたるところにある、『鹿』Tシャツもまた、そうした異文化の一つだ。
読むことが出来る人物が、どれほどいるだろうか。ケンタウロスと言う、馬の人が『鹿』のTシャツなのだ。
『馬』+『鹿』=
答えが分かるのは、日本人の転生者くらいだろう。馬のおっさんが両手をかざすと、力があふれ出た。
馬モードになるときにも、多少は魔力があふれるが、それ以上だ。
レックが一歩下がると、門番のおっさんは、解説してくれた。
「ボウズ、見ておけ、これが試練の門だ」
魔力を注ぐことで、開くという。そして、潜り抜けるだけで、魔力を必要とする。
それも、エルフ並という、膨大な量が必要と言うことで、多くは入り口ではじかれるのだ。
ゴゴゴゴゴ――という効果音が、気分を盛り上げる。
「地獄の門が、開いたぜ」
浸っておいでだ。
細マッチョのおっさんは、中肉中背という、背の高さだけでは平均的で、すぐに埋もれてしまうだろう。
しかし、鍛え抜かれた肉体は、格闘家を思わせる。少林寺とか、お坊様ファイターの印象だ。見た目は置いて、中身は中二に違いない。
セキュリティーは安心としても、レックは言いたかった。
「ヤバイのって、マジで封印されてるんッスよね、こんなの作っちゃって、よかったんッスか?」
ガーゴイルが、襲ってきそうだ。
パスワードをミスれば、襲ってくるアレである、トラップである。レリーフと思っていた巨人や、狼やその他、モンスターの像が、動きそうだ。
遊んでいるとしか、思えなかった。
今、こっちを見た。
「………ゴーレムっすか?」
仰々しい門構えだと思っていたが、たくさんのゴーレムがへばりついた入り口は、本当にゴーレムたちが守っているようだ。
目からビームでも発射しそうだ、赤く光って、見つめていた。
王様は、満足げにうなずいた。
「若き勇者よ、お約束――というやつではないのか?」
「レックよ、お約束は絶対だぜ?」
「クリスタルの導きなのだよ、これは、世界を超えた心理なのだ」
国王のおっさんに、テクノ師団のおっさんに、そして、細マッチョの門番のおっさんにと、それぞれに常識を口にしていた。
常識だぜ――と、口にしていた。
エルフちゃんたちにも、当然の知識らしい、レックの両サイドから、ツッコミを入れてきた。
「一人ずつよ、そうでないと、攻撃されちゃうから」
「ボクたちには通用しないから、安心するにゃ~………すなおに通るにゃ~」
ちょっと、説明が不足であった。
それでも、安心だった。転移ゲートをくぐると、即座に魔王とのバトルという可能性もあったのだ。
国王のおっさんが、偉そうに腕を組んだ。
「私の役目はここまでだ。ダンジョンの試練を乗り越えた若者よ、新たなる勇者(笑)よ、頼むぞ」
「――ってことだ、レック」
「うむ、新たなる勇者(笑)よ、その勇気が試されるときが、今ぞっ!」
テクノ師団のおっさんに、門番のおっさんも、指を刺した。
3人のおっさんに促されて、レックは進む。攻略を請け負った記憶はないが、もはや、進む以外の選択肢はなかった。
そうしている間に、エルフちゃんたちに、魔女っ子マッチョに、アーマー・5の姉さん達にと、次々と門をくぐる。
ダンジョンの町から引き続き、最強のメンバーが通り抜ける。
扉の向こうから、アーマー・5が呼んでいた。
「なんだよ、ビビんなよ、勇者(笑)さま」
「安心しなよ、おれっちもいるし」
「あたしたちも、そこそこ魔王って、倒してるからね~、 一人、一体くらい?」
「いやぁ~、それはちょっと――2体くらいやろ」
説明書も、攻略本も、暴露情報もすべて、目の前のおっさんや、姉さん達がお持ちであるのだ。
初見プレイのレックのみ、ビビっているだけだ。
そして、アーマー・5の姉さん達は、そこそこ魔王を討伐してきたようだ。見た目の姿と、実際の年齢は誤差があるお姉さん達だ。長年の経験は、魔王の討伐の経験にも、比例するようだ。
100を超える魔王が封印されており、7体の魔王の復活が予見されている。レックも、いくつかの魔王と戦うことになりそうだ。
門をくぐっていないのは、レックとテクノ師団のおっさんの2人だ。
門番と国王のおっさんは、ここまでのようだ。
振り向くと、レックは告げた。
「勇者(笑)レック………行ってきます」
言葉を発しつつ、魔力を高めた。水風船を生み出す程度の力だが、思えば、中級魔法を超える出力なのだ。
チートじゃね?――と、前世が首を傾げたが、エルフレベルが扉の向こうから、おいで、おいで――をしている現状、チートの気持ちが、一切しなかった。
ガーゴイルさんたちが、早く来いと、じれている気がする。魔力を高めたまま、レックは進む。
開いたままの扉は、強いバリアのようなもので隔てられている。一定の魔力を放ち続けなければ、はじかれるという。
その上で、ガーゴイルたちが、アタックしてくるのだ。ビームか、物理か、10メートルサイズの巨大な門にへばりついている数は、それだけで脅威だ。
そして、そこまでして守っているのが、封印の神殿だ。
決して、お気楽なアスレチックではない、マジで、ここまで厳重なセキュリティーをしなければならないほど、危険な場所ということだ。
王様のお城よりも、厳重なセキュリティーなのだ。
レックは、振り向いた。
「あはは………くぐっちまった」
もう、内側だ。
ここから戻ることが出来るのだろうか、そんな不安が、瞬く間にレックのザコなハートを、ビビらせる。
死ぬんじゃね?今度は、マジなんじゃね?――と、前世が部屋の中をうろうろとし始めた、狭いぼろアパートで、豆電球のイメージが、わずらわしい。
なんだよ、昭和の一人暮らし演出かよ――
自分で自分にツッコミを入れることで、レックは現実から逃げていた。
現実が、レックの肩を叩いた。
「ほれ、いくぞ」
テクノ師団のおっさんが、指を刺していた。
エルフちゃんやアーマー・5の姉さん達は、すでに進み始めていた。
地下へと進むと思ったが、どうやら、昇るようだ。
「………食堂?」
案内板が、光っていた。
『1F:メインホール』
『2F:食堂』
………
案内板の前から、レックはしばし、動けなかった。
「デパートかよっ」
封印の神殿は、ややデパートだった。




