いらっしゃい、国王陛下
異世界ファンタジーは、中世ヨーロッパのイメージである。
絵本や物語として、あるいは映画として騎士様や王様が登場する年代の、おおよその区分だ。魔法が自然に認識されている、そういった区分でもある。
伝統や言い伝えが、まだ実在の出来事だと思われていた時代だ。
ただ、レックは思った。
「ははは、やっぱ、この世界はややSFだよな――」
UFOが、現れた。
古きよき特撮に登場するような、円盤型UFOが、いつの間にか上空だ。
王様の、お気に入りの乗り物らしい。王様の都への入り口で、待ちわびていた王様の登場シーンでも、UFOだった。
光が、光った。
「久しぶりだな、新たなる勇者よ――」
はしごが下ろされるように、光がまっすぐと、地面まで伸びていた。
その中では、腕を組んだおっさんが浮かんでいた。お召し物はパイロットスーツのおっさんが、王様マントをひらひらさせて、腕を組んでいた。
何らかのフィールドに守られているのだろう、反重力と言うより、魔法に違いない。見た目はSFの色々は、すべて魔法で説明が出来るのだ。
エルフちゃんたちが、反応した。
「ちょっと、なに、かっこうをつけてるのよ、チビのザーサのくせに~」
「そうだにゃぁ~、パイロットスーツには、猫耳と尻尾がお約束になったのだにゃ~」
金と銀のツインテールがひらめいているが、魔法の作用だろうか。コハル姉さんとすれば、目だっていることが悔しいのだろう、いい年をしたおっさんを捕まえて、いまだにチビのザーサと呼んでいた。
エルフにとっては、国王と言うおっさんでも、礼儀は不要らしい。
なお、ラウネーラちゃんのツッコミは、ノーコメントとしたいレックである。おっさんの猫耳と尻尾のスーツは、悪夢である。
魔女っ子マッチョで、おなか一杯なのだ。
地面に降り立ったおっさんは、ずかずかと、レックたちに近づいた。
「なんだ、また、新たなる流行か………わが子は今、ホバーUFOに夢中であるが、また、何をしでかすか――」
おっさんから、父親になっていた。自分のことを棚に上げ、流行を追いかけて暴走する姿に、頭を抱えていた。
全員、ノーコメントであるのは、当然だ。他人事であるのだ。
いや、将来の国王かもしれない少年の暴走は、頭痛の種と言うべきかも知れない。しかし、ザコと言うレックには遠い出来事にしたいのだ。
なにより――
「と、ところで、魔王の復活と聞いたんでやんすが………」
下っ端パワーで、おっさんにお伺いをした。
勝手に口を開くことは失礼で、首ちょんぱ案件だと、レックの前世は悲鳴を上げている。もちろん、ラノベなどで仕入れた知識である。
実際には違うだろう。パイロットスーツで、UFOで登場のおっさんに、今更常識などいらぬのだ。
レックは、そう思っていたが………
「………?」
テクノ師団の隊長殿が、ひざをついていた。
そういえば、前回の謁見でも、そうだった。エルフちゃんたちに毒され、同じ気分で口を開いたのは、まずいのだろうか。
レックは冷や汗をかきながら、国王の顔色を伺う。
「おぉ、そうであったわ。待っておったぞ、勇者よ」
やはり、要らぬ心配だったようだ。
国王のおっさんは、そうだった――と、本題を話はじめた。
「コハル姉――コハルにはケータイで話をしたがな、大発生の余波を受けて、一番ヤバイのが、ここだ」
「ザーサ………姉ちゃん――って呼んでいいよ?」
「そうだにゃ~、ボクのパイロットスーツを着ていた頃と、頭の中はおなじにゃ~」
国王のおっさんが、エルフちゃんたちにディスられた。寿命が人間と異なるエルフにとっては、いつまでも子供なのだろう。
チビと呼ぶことから、幼稚園児あたりからの付き合いかもしれない。しばし、昔馴染みのやり取りを挟んで、改めて説明が始まった。
ヤバイ――と
テクノ師団のおっさんが、付け加えていた。
「前世の知識があるなら、レックにも分かるな。魔王は、ヤバイんだ。転生した日本人が、魔王と名づけて、封印の神殿をこんなデザインにするくらいによ………」
シリアスをぶっていても、手遅れだとレックは思う。
ずいぶんと、余裕に思えるのだ。本当に恐れているのなら、ふざけたデザインや演出の余裕など、あるはずがない。
まぁ、恐れるために、デザインに色々詰め込んだ可能性は、確かにある。現実として存在する恐怖を前にすれば、祈るような気持ちで、デザインしたのかもしれない。
そう、現実なのだ………
王様と言うおっさんが、レックの肩に手を置いた。
「あらたなる勇者(笑)よ、恐れる必要はない、勇者の出番だ――と、歴代の勇者に倣って、突撃してくれればいいのだ………いや、こういうのだったか『頼んだぞ、勇者よ』――と」
おっさんたちは、シリアスを演じていた。
レックは、逃げられないようだ。そっと、上を見つめる。UFOの背後に、店を貫く刃のようにそびえる、巨大なる魔王の城がある。
デザインは、ゲームでおなじみの魔王の城であり、暗雲は、実際に暗雲である。イメージでなく、何らかの作用で、薄暗いのだ。
復活が近い――というセリフが、妙に現実味を帯びてきた。
レックは、涙目になった。
「………マジなんスよね?」
おっさんたちは、笑顔でうなずいた。
「「「たのむぞ、勇者(笑)よ」」」
《《3人》》のおっさんが、笑っていた。
………3人である。レックの知らないおっさんが、腕を組んでいた。おっさんたちは顔見知りのようで、そして、当然のように肩を叩きあっていた。
レックは、恐る恐ると、手を上げた。
「………あのぉ~、どちら様で――」
「門番様だっ」
ふんぞり返っていた。
第三のおっさんは、細マッチョだった。




