いらっしゃい、封印の神殿へ
深い森の中に、レックは立ち尽くしていた。
いいや、魔境と言うべき森だった。エルフの森のように広大で、人間ごときが生活できる気配のない、森の中だった。すぐ後ろに、巨大モンスターが顔を見せても、レックは驚かない。
見上げて、つぶやいた。
「マジだったよ、魔王の城………」
転移魔法の輝きが収まり、恐る恐ると目を開けると、目の前だった。
王様の都でも、魔王の城――と、冗談を抜かしておいでで、デザインもまた、とげとげしく、かっこいい魔王の城だった。
レックは、雄たけびを上げた。
「ちっきしょ~………転生者だ、絶対、転生した日本人のしわざだぁあああっ」
岩山を、とげとげしく削り、レンガブロックも溶岩で溶かしたように、そして、常に暗雲が渦巻いていそうな、悲鳴や、叫び声が聞こえてくるデザインだった。
王様のお城の場合は、さすがに街中である、一部のデザインに過ぎない。
こちらは、オリジナルだった。
おっさんが、腕を組んでいた。
「いやぁ~………BGMが聞こえてきそうだぜ」
RPGやファンタジーでおなじみの魔王の城は、かなり昔から存在する。おっさんの前世が90年代、あるいは80年代であっても、通用するはずだ。
エルフちゃんが、ツッコミをいれた。
「お城じゃなくて、封印の神殿なの。デザインは………分かるでしょ?」
「かっこいいんだにゃぁ~、さすが、勇者(笑)だにゃぁ~」
本日はツインテールの気分らしい、金と銀のツインテールが、腕を組んでいた。
レックは、うなだれていた。
「ヤバイんだよな、魔王なんて呼ばれる、封印しか出来ないヤツをさ、封印している、ヤバイ場所なんだよな………」
なのに、やらかしていたのだ。
むしろ、封印が弱まったのは、このデザインのせいではないのか、気分を出しすぎたことが原因ではないかと、レックは本気で思い始めた。
レックは、転生者である。
しかし、この世界で生まれた15歳の少年でもある。常識として、そして、事前説明として、ヤバイと、知らされていた。
人間では、手が出せない――
魔王という名称は、転生した日本人が名づけたに違いない。それほど、ヤバイということでもある。倒すあてがなく、町を覆いつくす結界を使い、封印する。
いつか復活するが、倒す当てがない場合には、それしか出来ないのだ。
おっさんが、レックの肩を叩いていた。
「ゲームだと、クライマックスだな、勇者(笑)さま」
笑っていた。
勇者パーティーでは、先輩の戦士か、あるいは賢者と言う役割かもしれない。
魔法使いがエルフちゃんたちで、ファイターや色々は、アーマー・5の皆様がおいでである。
マスコットキャラになるだろう、愛しのジョセフィーヌちゃんは、隊長殿の愛人?のウサギ耳のマダムと共に、ダンジョンでお留守番だ。
順当なゲームなら、ダンジョンの攻略の後に、魔王の城へ続く道が開けたり、モンを開けるカギが手に入ったり、あるいはパワーアップしたり………
レックは、立ち上がった。
「ゲームなら、エリアごととか、エピソードごとに終わりッスけど………ダンジョン、結局クリアしてないですよ………パワーアップアイテムとか、魔王を倒すアイテムとかも、旅の仲間は――」
「増えたじゃねぇか、アーマー・5っていえば、ダンジョンが専属って思われてるけどよ、色んなヤバイとこに出没するってのが、正しいわけだ」
「………大発生とか、魔王とかッスか?」
ダンジョンでの大発生は、終った。
王様から依頼されたのは、ダンジョンの調査である。倒してしまっても良いのだろう――案件という厄介ごとでも、終ったのだ。
エルフたちだけではない、アーマー・5のほかに、ケンタウロスのおっさんに、テクノ師団の隊長殿に………
ダンジョンの町の、ひゃっは~――という皆様と共に、あふれ出しという災害は、収束へ向かった。
落盤の恐怖を考えずに、ひゃっは~――できる場所までのおびき出しが、役目とも言えた。さらに、勇者(笑)でなければ手が出ない岩ドラゴン4兄弟も討伐、勇者(笑)の役目は、終わったのだ。
なのに、連行されていた。
今度の敵は、魔王だ――ということで、転移したのだ。
人の住まっている様子はない、だからこそ、立派なお城が不気味なのだ。近くに、哀れにも村々があり、搾取されているのか。
ファンタジーアニメやゲームやその他、哀れな犠牲者の声を聞いて、勇者は奮い立つというものだが………
レックは、指をさしていた。
とりあえず、ツッコミを入れたかったのだ。
「まずは、説明を――『うぇるかむ』………って、あのネオンサインの説明をっ」
『うぇるかむ』――と、怪しいお店のごとく、ネオンサインが輝いていた。ダンジョンの入り口でも、ウサギ耳のお姉さん達が出迎えていた、あのネオンサインである。
魔王のお城は、とても不気味なイメージに成功していたのに、台無しである。
エルフちゃんたちは、笑っていた。
「だって、魔王のお城だし………入り口、分からないとダメでしょ?」
「そうだにゃ~、入り口は、あそこだけなんだにゃぁ~」
どうやら、ご存知のようだ。
まさかと言う予感が、レックを振るわせる。
「あのぉ~………来たことがあるんでやんすか?」
小物パワーに頼る必要はない、レックは腰を低くして、フラグを必死に踏み倒そうとしていた。口にする必要すらない、考えが浮かぶだけで、ヤバイのだ。
フラグるのだ。
どこも、同じようなつくりである――
そんな可能性が、ふと、浮かんだのだ。
「え~っと、どんな魔王だっけ………予言されてた7体のうちの、どれかだよね?」
「封印されてる数だけなら、100くらい?」
「大発生の季節だと、結構ぶれるにゃぁ~」
エルフたちは、ポチポチとケータイをいじっていた。
レックは、震えた。
気兼ねなく、ポチポチと、ケータイをいじっているエルフちゃんで会ったが、セリフが、絶望であった。
予言されてた7体――
封印されてる数だけなら、100くらい?――
それは、目の前にある魔王の封印が、100ほどあるということだ。よく、今までの勇者達は、放置したものだと思う。
勇者なら、たとえ(笑)がついていようと、人間の中では最強クラスのはずなので、何とかしてほしいものだ。
レックは、震えながら、手を上げた。
「マジで、マジで魔王っすか?」
往生際の悪いことだ。だが、『ビックリ』――という看板を持って、実は、ただの別荘でした――というオチを、期待しているのだ。
本当に、魔王と呼ばれる存在とバトルなど、ちょっと待ってほしい、心の準備をさせてほしいという気分なのだ。
そこへ、どこからとも鳴く、声が響いた。
「――勇者よ、待っていたぞっ!」
どこかで見た、UFOが、現れた。
王様、再び――である




