ダンジョンの町は、オールナイト
ロボットは、人類の夢である。
ロマンと言っても良いし、未来とも、夢とも言っていい、人それぞれに抱く気持ちは違っても、コレだけは確かだ。
憧れだ。
金色のショート・ポニーテールをなびかせて、レックはつぶやいた。
「コハル姉さん、ヤバイっす」
スーパー・ロボットが、現れた。
ダンジョンから徒歩でそこそこのパーティー会場に、現れた。その姿は、並みのモンスターなら一撃と言う力強さを感じさせる、ゴーレムよりも洗練され、そして、様々なパーツが組み合わさって、威圧感も与えている。
レックの前世は、地面にひれ伏していた。アレこそまさに、まさに、スーパー・ロボットだと、我らの、ロボットなのだと………
金髪のポニーテールのエルフちゃんは、震えていた。
「………あのバカ――」
コハル姉さんは、肩を震わせていた。
岩場のあちこちで、キャンプファイアーがまぶしい。夕焼けが岩場を赤く照らし、そしてそろそろ、太陽が沈む時間だと教えている。
ダンジョンからモンスターがあふれ出している。討伐は、オールナイトになるだろう、強さはザコでも、数はパニックだ。
そんなことは、些細な問題になってしまった、岩場に、スーパー・ロボットが現れたのだ。
ラウネーラちゃんはノリノリだった。
「魔王の復活まで、ボクらは待てない、そう、ボクらの夢は、スーパー・ロボットなんだ。みんなの、ロボットなんだぁあああああっ」
「「「「「「ぅぉおおおおおおおおっ」」」」」
ラウネーラちゃんが、雄たけびを上げた。
キャンプファイアーの皆さんも、雄たけびを上げた。
皆様、スーパー・ロボットがお好きなようだ。
レックのバイクのように、スーパー・ロボットが封じられていた宝石を隠していたのだろう。パイロットスーツには、ポケットが見当たらない。どこに隠してあったというのか、取り出していた。
スーパー・ロボットが、空中に浮かんでいた。
コハル姉さんが、飛び出した。
「待ちなさい、ここで出しちゃだめって言ったでしょ、魔王の復活まで待ちなさい」
「えぇ~、だって、みんなもボクのスーパー・ロボットを楽しみに――」
さすがは、エルフだ。
レックが反応できるわけもない、気付けば10メートルほど離れた場所に、姿を現していた。
瞬間移動と言うのだろうか、しゅた――と、いつの間にか現れる謎の、答えだ。
そのまま、ピクニック会場から少し離れた場所まで、連行されていた。
エルフの国でも、宴会場の付近に着陸しようとしたスーパー・ロボットは、安全な距離まで連行されていた。
どうやら、よくある光景のようだ。
レックは、見つめていた。
「みなさん、動じてませんね………いきなりロボが出たのに――っていうか、バリアはいいんッスか?」
姿を見たのは、お久しぶりのレックだった。
ダンジョンの中では、禁止の落盤事故の原因である、巨体だった。
もっとも、巨体だけが原因ではない、攻撃魔法の縛りプレイは、レックだけではなかった。アーマー・5の皆様の武装は、マジカル・ウェポンシリーズなのだ。
しかし、ダンジョンからのあふれ出しは、続いている。岩ドラゴンたちは討伐しても、まだ残っているのだ。
レックたちは、遊んでいて、いいのだろうか。
そもそも、バリアは、大丈夫なのだろうか。すでに、解除されている。ダンジョンからのあふれ出しを受け、エルフちゃんたちは、即座にバリアをしていたのだ。
ピクニックシートを、守るためのはずだ。
魔女っ子マッチョが、微笑んだ。
「いいのよ、ヤバイのは終ったから………ほら―—」
指差す先では、ガンマンたちが、ひゃっは~――していた。
気付けば人数が、どんどん増えている。ウサギ耳の皆さんも、飛び跳ねて喜んでいた。まだまだ、ウサギ耳軍団が増えていた。
レックがであったウサギ耳のバニーガール軍団は、居残り組みと言う、少数に過ぎなかったようだ。
バニーガールは、増えていた。
アーマー・5の皆様は、のんびりとスーパー・ロボットを見ていた。
「みんな、スーパー・ロボット好きだよな~………バイクもかっこいいのに―-」
「おれっちも、ゴーレムモードなら………」
「あれを魔力だけで動かして………さらに、5体合体なのよね?」
「あははは~………コハルちゃん、ご機嫌斜めやな。目立たなくなるから、近づくな~って?」
アーマー・5に、ラウネーラちゃんが入っていないのも、納得だ。戦隊モノの前座として、個人のひゃっはーと、クライマックスのスーパー・ロボットとでは、どちらが目立つだろうか。
キャンプファイアーの前の、大騒ぎが物語る。皆様、派手な見世物が大好きな冒険者である。
派手好きなのか、ハイになっているダンジョンの町の皆様も、おおはしゃぎだ。
おっさんが、ジョッキを片手に、笑っていた。
「言ったろ、お祭りだって。ダンジョンの町の連中には、あふれ出しはお祭りなんだ。ほら、射的って知ってるか?射撃大会さ」
「ベルちゃんの世界のお祭りね、どの世界も、同じようなことをしてるのね~」
熟年カップルが、楽しそうに笑う。レックには初めてのお祭りでも、おっさんたちにとっては、恒例行事なのだ。
互いに、若き日の姿が見えているかもしれない、乗用車サイズのジョセフィーヌちゃんも、片腕で抱きしめられる子犬だったこともあるだろう。
バウバウと、レックを狙っていた。
いや、コハル姉さんの落とした骨付き肉の残骸を見つけたようだ、ガリガリと、むさぼり始めた。
コハル姉さんがガジガジしていた骨は、ジョセフィーヌちゃんにプレゼントしたようだ。さすがはエルフのお気に入りのサラマンダーらしい、ジョセフィーヌちゃんも、レックから標的を切り替えてくれた。
心で、コハル姉さんに感謝つつも、レックは遠くを見つめた。
「大発生が、お祭り感覚って………さっすが――」
猫耳軍団やウサギ耳軍団も、並みのボスクラスの3メートルサイズの殺人カマキリ(キラーマンティス)や巨大アリ軍団や色々を倒している。
ピクニックの余興を前に、自分も混ぜろと言う皆様だった。むしろ、客の冒険者たちよりも、実力があるのかもしれない。
もはや、バリアは必要ないのだ。近づく前に、全てが食材に、アイテムの素材になっていく。
西部劇風味のオヤジが、愉快に笑った。
「ここ3ヶ月は赤字だったが………へ、さっそく回収だぜっ」
「むしろ、大儲けだぜ」
「ひゃっはぁ~、だから、ダンジョン暮らしは、やめられないのよっ」
「わりぃな、今夜の相棒は、強欲なんだ――」
巨大なサソリと戦っておいでだったが、倒していた。
一部、中二が混ざっているが、この世界では珍しくない。日本人の転生者が広めたに違いないが、おかしいという感覚がなければ、感染は早いのだ。
トドメは、マグナムだった。
「「「「今日は、ついてるかい?」」」」
そろって、決めセリフだ。
また一匹、巨大なサソリが討伐された。
リボルバータイプのマグナムを構えて、気取っていた。有名な映画のワンシーンらしい、この世界に伝わった文化は、どれほどだろう。
西部劇風味のネタは、レックが知らないだけで、まだあるに違いない。
勝利の皆様は、残骸を前に撮影ポーズに移っていた。
「「「「ナイス、トドメ」」」」
武器を構えたり、空を指差したり、みんなそろって、カメラ目線である。もちろん、カメラマンもいる。
ウサギ耳のバニーガールさんたちは、記録係も兼ねているようだ。おそらくは有料であろうが、討伐費用と素材の売却費用で、まったく気にならないはずだ。
コレが、活気あふれるダンジョンの町の、本来の姿なのだ。
レックは、その様子を見ながら、スープをすすった。
「異文化………まぁ、異世界ファンタジーとしちゃ、アリ………かな?」
この世界の流通は、本当にすばらしい、コハル姉さんはエビフライを食べていたのだ。
レックは、ワカメスープだった。
おっさんが、レックの隣に並んだ。
「まぁ、しっかり見ておくんだな。役目が終った勇者(笑)は、退場するのがお決まりってヤツだからよ」
ビールジョッキを片手にしているが、転生者の先輩としての、テクノ師団の隊長殿のセリフである。
レックは、素直にお返事をした。
「へい、分かってやす………オレっちも、ようやくバイクの一人旅に出られるってね」
コハル姉さんは、ポーション職人である。ラウネーラちゃんは分からないが、王様からの他の見事は、終ったはずだ。
なら、解散ではないのか。
再会はあっても、別れのときではないのか――
そんな、最終回気分のレックだったが、フラグがあるのを、忘れていた。口にしなければいいと思いつつ、気になったのだ。
「ところで~………コハル姉さんたちが言ってたんッスけど――」
――魔王の復活
冗談であってほしい、フラグだった。
赤ら顔のおっさんは、にっこりと微笑んだ。
「フラグってヤツさ――ダンジョンでの戦いは終わった、はい、次ね~――ってか?」
「ほんとうに、忙しいわね~」
ジョッキを片手に、笑っていた。
バニーガールさんも、笑っていた。気づけばおつまみを手にしているので、少し席を外していたのだ。巨大サソリの討伐を見ている間に、いつのまに―—というやつだ。
いつの間にか、愛しのジョセフィーヌちゃんの背中に、色々乗っていた。
エルフちゃんも、乗っていた。
「レック~、子供は早く寝なさいよ?出発は明日だってさ~」
「魔王との対決だにゃぁ~、勇者(笑)の、出番だにゃ~」
コハル姉さんが、ケータイを片手に、手を振っていた。ご一緒にラウネーラちゃんも、手を振っていた。
レックは、しばらく愛想笑いをして――
「ちっきしょぉ~っ、フラグったぁあああああっ――」
月夜に向けて、叫んでいた。




