お祭りの、ダンジョンの町 5
シルエットは、トカゲであった。
サイズは、ドラゴンと呼ぶことに戸惑いがない30メートルは超えている。岩石フェイスと言う面構えは、ただのウロコではない、岩石が張り付いたようなお顔なのだ。
しかも、全身に強固な鎧のように、岩石なのだ。
馬の姉さんが、指差していた。
「オレやおっさんは大丈夫だけどな、並みの冒険者じゃ、一撃でアウトなんだ」
指を刺した先では、ひゃっはぁ~――をしていた皆様が撤退中だ。さすがに、30メートルサイズのモンスターを相手には、分が悪かったようだ。
故に、ダンジョンの町から離れて、出稼ぎに行っていたという。それなのにケンカを売るとは、さすが、ダンジョンの町の冒険者だ。
ロック・サラマンダーと呼ばれている、炎ではなく、小石や砂粒を勢い良く噴出して、防御をえげつなく削ぎとるのだ。
「――ってことで、よろしくな、勇者(笑)さま」
どうやら、馬の姉さん達が足止めをしていたが、トドメには少し、及ばないらしい。そして、大規模な魔法は、巻き添え被害が大変だ。
レックは、自分を指差した。
「オレ………?」
ムチャ振りだった。
つい先ほど、トルネードキックで1匹を倒したばかりである。マヨネーズ伯爵に依頼されて向かった先でも、1匹だけだった、ラスボスという岩ドラゴンである。
4匹も現れて、やっと、1匹を倒したのだ。
残り3匹が、こっちを見ていた。
「あの、他の皆さんは――」
ピクニックゾーンを、振り返る。
残るアーマー・5の皆様は、どこにいるのか。
コハル姉さんは、バリアのお仕事がある。エビフライサンドの次は、ビーフサンドと、サンドイッチの食べ比べにも忙しいのだ。
では、ラウネーラちゃんは?
レックが見つめていると、同じく、ビーフサンドに手を伸ばしていた。長くスーパー・ロボットをお預けなので、うずうずしていると思ったのだが………
頭の中に、声が響いた。
“クスクス………期待したってダメよ、ラウネーラが暴れたらどうなるか、レックも分かってるでしょ?”
“そうだにゃ~、魔王の復活まで、お預けって言われたんだにゃ~”
久々の、魔法の声だった。
叫ぶより、魔法の声を届けるほうが、確実であるためだ。普段はケータイを自慢するお子様であるが、ケータイがない時代は、このようにして遠くの人物と会話をしていたという。
当然、魔力を持つ人物に限定される。
そして、レックはあきらめる。巻き添えで吹っ飛ばされた記憶が、よみがえったのだ。
気づけば、見知らぬ天井と言うシーンを、思い出したのだ。
レックは、あきらめた。
「へい、勇者(笑)レック、がんばりやす」
ここでスーパー・ロボットが大暴れをすれば、どうなるのだろうか。確実に勝利できると同時に、大変だ。
巻き添え被害が、大変だ。
なにか、大変なセリフを聞き逃した気がするが………
「――魔王の復活?」
魔王の復活まで、お預け――
ラウネーラちゃんは、確か、そのように言わなかったか。思いっきりの、フラグである。レックは即座に聞きただしたく、巨大な尻尾が、視界をさえぎる。今は、岩ドラゴンが、大変だ。
馬の姉さんが、とっさにジャンプした。
「おいおい、なにビビってるんだよ、勇者(笑)さま?」
馬の姉さんは、笑っていた。
30メートルオーバーの巨大は、気付けばレックの至近距離だ。
実際には、まだ尻尾が届く距離ではないが、30メートルの巨体は、それだけで脅威であった。
間違いなく、レック一人で勝てる相手ではない。馬の人がどのような援護をしてくれるとしても、手が足りるとは思えない。
そこへ、ぬ~――と、巨大な影が、現れた。
「ほらほら、みんな待ってるわよ?」
とんがり帽子の、魔女っ子の陰が、現れた。
乱射しながら、余裕だった。
魔女っ子マッチョの、アリスちゃんである。パンチだけでモンスターを倒せそうな巨漢であるが、心は永遠の女子中学生のお姉さんである。
前世が日本人の女子中学生らしく、そして、知識も豊富なのだ。お話ついでに、魔法のステッキで、魔法攻撃をしていた。
レックがうらやむ、複数の魔法の、同時使用であった。オリジナルらしい、ヒトデ形状の星のカッターが飛び回り、さらに爆発して、ザコを蹴散らしていく。
岩ドラゴンが一斉に襲ってこなかったのは、皆様が、足止めをしていたからだろう。倒してしまっても、かまわないのだろう案件なのだが、皆様、ご遠慮しているらしい。
「勇者(笑)の見せ場を、そんなに作ってもらわなくてもいいのに」
時折、広範囲に魔法が放たれているのも、大きいだろう。小さな竜巻が、空や地上で暴れていた。
マーメイドの姉さんと、エンジェルの姉さんがやってきた。
「あたしがすると、カテゴリー6――だっけ?」
「うちがすると、沈没事故――とか、言われたんや」
レックを見て、腕を組んでいた。
何のことかと思っていると、ハリウッド映画を、思い出す。カテゴリー6と言う単語など、この世界にあるのか。
そう、ハリウッド映画だ。
「レック、ハデにいこうぜ」
「あたしたちが、チャンスを作るからさ」
「せや、男をみせたれ」
姉さん達は、ワクワクしていた。
レックは、楽しんでいるだけと感じた。単独でも、巻き添えを考えなければ岩ドラゴンを倒せるのだと。
レックの力を見たいだけだと。
レックの答えは。
「トルネード、いきまぁあああっすっ」
熱血で、お返事だった。




