お祭りの、ダンジョンの町 3
ダンジョンの町に、人が戻ってきた。
そのきっかけが、勇者が現れたという噂であり、祭りに間に合うようにと、集まっていたのだ。
「「「ひゃはっはぁ~、祭りだぜぇええっ!!」」」
銃声が、とどろいた。
一つ、二つのマジカル・ウェポンから放たれれば、鳴り響いた――という表現で十分である。
とどろいたのだ。
ダンジョンの町と呼ばれる規模なのだ、町と言うほど、冒険者の皆様が集まる危険ゾーンなのだ。
ヤバイ皆様が、ハッスルしていた。
「なんだ、なんだ、ボス、いるじゃん?」
「いいじゃん、いいじゃん、ボス、いこうじゃん?」
「やめとけ、お前のスナイパーじゃ、傷一つつかんぞ?」
「なら、いっせいに狙おうぜ」
「撃とうぜ、撃とうぜ」
バイクを宝石に戻した皆様が、唖然と立ち尽くすレックを通り抜けて、がやがやとマジカル・ウェポンを乱射しながら、歩いていく。
片手に、サンドイッチやスープのカップを持ちながら………
「オレ、いらない?」
レックは、徐々に小さくなる冒険者の集団を、見守っていた。あの勢いで、30メートルを超える岩ドラゴンファミリーを討伐するのではないかと。
なら、なぜ、大発生の時期にダンジョンの町を離れざるを得なかったのか。その答えを、レックは目の当たりにする。
エンジェル姉さんが、辛らつだ。
「あ~あ、さっそくやられて~………マジカル・ウェポンもしょぼいしさ~」
「言ったらあかんって、久々のダンジョンなんやからな?」
マーメイド姉さんは、ちょっと優しい。水の魔法でクッションを作り、吹き飛ばされる前に、巨大モンスターの動きを和らげていた。
エルフちゃんたちが、命じた。
「ほら、レックも突撃するの。勇者(笑)の出番でしょ?」
「トカゲの、丸焼きだにゃぁ~」
丸焼きは、出来そうもない。レックの真の力が炎らしいということは、転生した初日の出来事で推測され、エルフちゃんたちにも話している。
まだ、目覚めていないのだ。
それでも――
「勇者(笑)、いってきや~すっ」
おざなりだ。
魔力をみなぎらせ、水風船をトランポリンにして、ジャンプした。
やったとたん、レックは後悔した。なぜ、調子に乗ってトランポリン・ジャンプをしたのか。
脳内で、いらぬ効果音が流れた。
――スキル・トランポリンジャンプを取得しました。
――称号・無謀ジャンパーを取得しました
レックは、叫んだ。
「おちるぅううううう」
落下中だった。
魔力で強化されたレックのジャンプは、せいぜい垂直3メートルである。エルフたちは100メートルサイズの木々の枝に飛び移る、少なくとも50メートル以上であろう。
トランポリンの強化で、エルフ並だった。
このままでは、地面に激突だ。
岩ドラゴンさんが、お出迎えだ。
エサが飛び込んでくるなら、口を開けるのが、本能だ。
モンスターにとって、魔力の強いものほど、おいしいエサと言うことらしい。故に、レックはエサとして、勇者(笑)として、ダンジョンで暴れたのだ。
狭いダンジョンから、あふれ出るように――
恒例行事であるため、公の発表より早く、冒険者の皆様も集まってきたわけだ。その勢いは、まるで世紀末のようだ。
「ひゅぅ~、さっすが勇者(笑)」
「おぉ~、あれが、今の勇者(笑)かぁ?」
「いっけぇ~、大火炎キック――ってかぁ?」
「ははは、それは、ベルバートだろうが」
豪快な、みなさまだ。
ベテランの中に、隊長殿のかつての姿をご存知のおっさんもおいでだった。なるほど、さすが先代の勇者(笑)だと、レックは思った。
とっさに、叫んだ。
「トルネード・きぃいいいいっくっ!」
レックは、涙目だった。
6つの水球を全て足に集めて、片足を突き出して、突撃だ。
落下中とも言う、しかし、3つで放てるトルネードは、上級魔法の威力である。では、6つでは、どうなるのだろうか。
レックの片足を中心に、6つの水球からジャベリンのように水柱が伸び、まるでドリルのように合わさった。
トルネードと言うより、ドリルだった。
おっさんが、感心していた。
「ほぉ~、レックのやつ、どたんばで新たな技か………ムチャしやがるぜ」
「あらあら、昔のベルちゃんを思い出すわね?」
バウバウと、愛しのジョセフィーヌちゃんも、はしゃいでいる。
なぜ、すでに何百メートルも離れた場所の声が、聞こえるというのか。神経を集中して、魔力も研ぎ澄まされたおかげだろうか。
数秒に満たない間、レックは色々と、覚醒したらしい。前世の浪人生が、大喜びだ。これが走馬灯だ、時間圧縮だという喜びが、やかましい。
岩ドラゴンが向きを変える様子も、しっかりと見えていた。
「マジ?」
よけていた。
口を閉じた、するすると体をしならせて、レックから離れていった。
野性の本能が、食らえば危険なエサだと、判断させたらしい。お口に直撃すれば倒せただろうに、残念なことだ。
振動が、地面をえぐった。
直撃であれば、岩ドラゴンのミンチが出来ていたかもしれない。直系10メートルのクレーターが、生まれていた。雨が降れば、小さな湖となるだろう、直撃を避けても、衝撃は相当なものだ。
レックは、転がっていた。
「あぁあああああ」
転がりながら、叫んでいた。
制御が出来ず、コロコロと、衝撃のままにコロコロと、転がっていた。6つの水球からドリルが生まれ、次は、水風船となって、レックを守っていた。
無意識であろうが、水風船は、万能だった。
見物人の冒険者達は、見送った。
「「「「「あぁ~、あ………」」」」」
残念そうだ。
心配をしていないのは、レックが勇者(笑)だからと、信じたい。
もちろん、レックは無事だと分る、水風船まみれだ。クッション製の高い水風船で体を覆って、どのような姿勢で地面に着地しても、コロコロと安全な着地である。
遊園地の風船ゾーンではしゃぐお子様状態だ。
お子様が、はしゃいだ。
「レック、レック………おれっちも、おれっちもそれ、やりたいっ」
4メートルオーバーのジャイアントが、走ってきた。
4頭身の、岩の小人と言う姿だ。中身はアーマー・5の一人、豆戦車を乗り回すドワーフちゃんだ。
本体はどこにあるのだろう、顔の部分か、中心なのか………
キョロキョロと、なにかを探した。
「――っと、獲物、獲物ぉ~」
倒れていた岩ドラゴンに、馬乗りだ。
レックの攻撃をよけたはずだが、どうやら、無事ではすまなかったようだ。10メートルのクレーターを作る衝撃だったのだ。
そう、ひっくり返っていた。
そして、岩ゴーレムモードのドワーフちゃんが、馬乗りで、オラオラオラ――を、かましていた。
見た目は、巨大モンスターに飛び乗るお子様だ。岩ゴーレムモードでも、岩ドラゴンは30メートルを肥える巨体であるのだ。
なぜか、動きを封じることに、成功していた。
「レック、伸びてるうちに、ほら、トドメ、トドメ」
レックは、かろうじて止まった。
風船のサイズを調整、強引なクッションで、ピクニックエリアまでのご帰還の前に、復活できた。
お料理が台無しになっては、大変なのだ。
エルフちゃんのお怒りが、目に浮かぶのだ。
レックは、ジャンプした。
「おまかせをぉおおおおっ」
ノリノリだ。
ヤケも、一周してしまったようだ。前世の浪人生も叫んでいる、そこだ、トルネードキックだと、叫んでいた。
「とるねえええどっ、きぃいいいいいいいいくっぅ」
気分は、主人公だ。
威力も、主人公だ。




