お祭りの、ダンジョンの町 2
不思議を探して、旅に出る――
転生した、その日に決めたことだ。
レックは、転生者である。前世の記憶と気分を引き継いでいるため、この世界を色々と、見て回りたいのだ。
現実を前にした、現実逃避だった。
「ウェルカム、救世主伝説………か――」
目の前では、モンスターがあふれ出している。
ダンジョンの災害では有名だ。魔力が溜まり、生み出され、溜め込まれたモンスターの皆様が、元気一杯にあふれているのだ。
後ろからは、もっとヤバイ皆様が、接近中だ。
どこかの救世主伝説に出演なさっていたのか、「ひーはー」や、「ひゃっは~」という皆様が、斧を、剣を、銃を、ショットガンを打ち鳴らしながら、やってきた。
バイクに乗って、やってきた。
「みてみて、みんな戻ってきた」
「勇者(笑)の噂が、とどいたのね?」
「みんな、いくわよ?」
ウサギさん達は、レックの元から飛び立った。
迎撃ではない、喜びの声が、期待に胸が大きく高鳴って、うれしそうだ。飯の種が、帰ってきたのだ。
ダンジョンの町である、冒険者の町である。ハードモードすぎて、出稼ぎにお留守だった皆様の、ご帰還だ。
力いっぱい、はねていた。
「「「おかえりなさ~いっ」」」
大きく、垂れ幕も広がった。
パーティー会場にはお約束の、大弾幕である。いつの間に用意したのだろうか、遠くからも分かるように、地上5メートルの高さだ。
書かれていた文字は、予想されたものだった。
『ようこそ、ダンジョンへ』
世紀末の雄たけびの群れへの、呼びかけだった。あらかじめ準備を終えていたらしい、アイテム袋か、封印の宝石から色々と取り出して、大歓迎だった。
恐怖とモテモテと、どちらも味わっていたレックは、すこし残念に思った。恐怖もあったが、きれいなお姉さんに抱きつかれていたのだ。もっと男として度胸がつけば、うれしいのだろうか。
そんなレックの下心は、瞬間に吹き飛ばされた。
スキンヘッドバニーさんが、やってきた。
「勇者(笑)さま、いやぁ~、ご活躍、ありがとう、ありがとう」
レックは、豊満な胸元に抱きしめられた。
先ほどのお姉さんたちとは、比べ物にならない豊かさに包まれて、レックは息が詰まりそうだ。
しかも、動くのだ。
ムキムキと、動くのだ。
全力で感謝の気持ちを伝えていたのだろうが、レックの息の根が止められるまで、秒読みであった。
「ぐる、ぐるじ………」
もだえながら、疑問だった。
いきなり感謝の言葉をかけられても、わけが分からなかった。活躍をしたが、なぜ、レックなのか。
しかも、あふれ出しの途中なのだ。
そこへ、テクノ師団の隊長殿が、やってきた。
「レック、お前の役割は、引き付け………いや、トレインって言うほうが分かりやすいのか、とにかく、エサなわけだ」
「もぉ~、ベルちゃんったら、もっと分かりやすく教えてあげたら?」
隣には、愛人?のウサギさんの、クリスティーナさんもご一緒だ。もちろん、愛しのジョセフィーヌちゃんもいる。
バウバウ――と、レックにじゃれ付こうと、チャンスを狙っていた。
スキンヘッドバニーさんに捕らえられているため、そのチャンスはないだろう。ベルちゃんこと、テクノ師団の隊長殿が、話を続けた。
「普の冒険者には倒せない。そんなレベルのモンスターが続々現れるから、町から遠のいていた――それは聞いてるよな、レック」
「へ、へぇ………」
息も絶え絶えと言う状態であるが、おっさんに返事をした。
その様子を見て、放してやれ――と言うお言葉が、うれしかった。豊満な胸の中から、おかげで解放された。
ムキムキと動きながらの、感謝の果ては、窒息死なのだ。
笑いながら、許してやれ、それだけうれしいのだと教えてくれた。それだけ、スキンヘッドバニーさんが、レックに感謝をしているのだと。
そして、世紀末救世主軍団の、ご帰還の理由でもあった。
勇者(笑)が、ダンジョンの町に現れた――
それで、分かる冒険者には、分かるという。勇者(笑)が活躍すれば、きっと大騒ぎが始まると。
祭りが、始まると。
「勇者(笑)で、祭り………ッスか?」
振動が、すぐ近くだ。
アーマー・5の姉さん達や、ダンジョンの町の皆様が突撃しているが、岩ドラゴンの4兄弟を始め、モンスターたちは、まだまだ元気だ。
エルフちゃんたちのバリアがあるため、まだ余裕があると分かるが、それでも、ビクビクするのは、レックだからだ。
隊長殿をはじめ、皆様は自然体だ。
「レック、戦いは、数だ」
「ふふふ、ただの町じゃない、冒険者の町、ダンジョンの町なのよ?」
熟年カップルは、笑っておいでだった。
ジョセフィーヌちゃんも、バウバウと、ご機嫌よく吠えていた。
ボスが湧いていても、倒せる手だてがあるなら、恐れる必要がない。勇者なら、強敵に喜んで突っ込んでくれるはずという、信頼らしい。
そのために、戻ってきたと言うことだ。
ここは、ダンジョンの町なのだから。危険を愛する冒険者が、たくさん住まう町なのだから。
世紀末軍団が、到着したのだ。
「祭りの、始まりだぁああああっ」
スキンヘッドバニーさんが、吠えた。
バニーガールが、はちきれそうだ、ムキムキと筋肉も暴れて、いつの間に取り出したのか、両手にナタを持って、吠えていた。
ボスでも、倒せるだろう。
「そうさ、祭りなんだ」
「ふふ、お祭りなのよ?」
熟練カップルが、いい笑顔だった。
愛しのジョセフィーヌちゃんも、バウバウと、元気一杯だ。




