ダンジョンの町と、あふれ出し 4
ピクニックシートの群れを背後に、レックは主人公を気取った。
「近づかせるものか、近づかせるものか」
なにやら、乗り移っていた。
レーザーをいくら乱射しても、ダンジョンからあふれ出す有象無象は、減る様子はない。あふれ出しは、大発生と同じく、数百、数千、あるいはそれ以上と言う規模のようだ。
ボスなどは、30メートルを超える、岩ドラゴンだ
しかも、ご兄弟を引き連れて、暴れている。鉄球のような巨大ダンゴムシなどは、すでにレックの攻撃を逃れて、接近していたのだ。
エルフたちのバリアがなければ、まずかった。
上を、指差していた。
「レック~、上見て、上~」
「乱舞は、上も乱舞するにゃぁ~」
巨大コウモリも、忘れていた。
言われるままに、乱舞のレーザーは、即座に上も乱舞した。幸いにして、レーザーは効果を発揮した。でたらめな乱射に巻き込まれて、いくつかは落下をはじめた。
ずしゃ――と、10メートルも離れていないところに、落下した。
ぱっと見た印象であるが、胴体だけでも、人間サイズのコウモリだった。洞窟といえば、コウモリと言うことを忘れていた。
ダンジョンの中であれば、水風船の結界内部から、全方位を守った状態での乱射で、何とかなったかもしれない。
お外では、厄介だった。
ポーションを、取り出した。
「そ、そろそろ………ちゃ~じ」
独特の風味が、レックの喉を潤す。
頭から、ちょぼちょぼとぶっ掛けられることが多いが、本来は栄養ドリンクのように飲み干すのが、ポーションである。
コハル姉さんのお手製の、上級ポーションだった。
「前も、飲みながらだったもんな………」
マヨネーズ伯爵からの依頼で、大発生の現場に連行されたのが、懐かしい。馬の人とロボットの人とご一緒に、一つ、二つと、モンスターの集結箇所を全滅させたものだ。
トドメは、岩ドラゴンだった。
そして上空では、隊長殿がオラオラオラ――していたのだ。
地上からでも姿がはっきりと見えた、ファイアー・バードだった。おっさんが飛行能力を持っていたのか不明である、ヘリから飛び出し、モンスターの背中かどこかにしがみついて、オラオラオラ――を、していたのかもしれない。
地上なので、ちょっと、手助けしてほしかったが――
「ほい、スクリュー」
「ついで、スクリュー~」
エンジェル姉さんと、マーメイド姉さんが、なにかをした。
お願いをする間もなく、暇だったかのように、魔法の攻撃で、広範囲をかき回していた。上空の皆様は、ひとたまりもないだろう。
コーヒーを片手に、優雅である。上空から、岩の隙間から、スクリューやスクリューが、色々が上下からモンスターを釘付けにした。空気や水の渦は、5つや6つではない、桁が一つ上で、影響する範囲は、岩山の全体だ。
上空のモンスターが、きりきり舞いに、舞い踊る。
「おれっちも、ちょっと手伝おうかな」
ドワーフちゃんが、一肌脱ぐポーズで、腕をまくった。
サスペンダー付きの半ズボンは、キャロットパンツと言うべきかもしれない、歩くたびに、ズシズシと、振動が増している。見た目からは考えられない、すでにトン単位の重量を感じた。
怪力の持ち主なのか。
ドワーフちゃんを中心に、周囲の岩が集まり、何かに変身し始めた。
ドワーフと言うより、ノームかもしれない、いくつかの要素が混ざっているのが、この世界である。あるいは、この世界の知識が転生によって異世界へと流れ、イメージが分裂したのかもしれない。
ノームも、ドワーフも、同じ種族の、違う一面と言うことだ。
「きょ、巨人?」
4メートルを超える、岩の巨人が現れた。
2メートルを超えれば、巨人と言ってもいいだろう。
国境の町のギルドマスターという地獄の鬼や、エルフの国の解体職人コンビの兄貴達も、地獄の門番と言う、2メートルオーバーのマッチョたちだった。
優雅で、エレガントなエルフと言うイメージを、ぶち壊されたものだ。
魔女っ子アリスちゃんも、忘れてはいけない。前世は90年代女子中学生だったという、転生して、おっさんになったトランスマッチョだ。
「ふふふ、トロールって言うのかしら、ジャイアントでも、ゴーレムでも、色々、一緒くたになってて、不思議よね~」
かつては少年であったか、この際、どちらでもいい。マッチョに目覚めて、鍛えて、鍛えて、しかし、心は永遠の女子中学生なのだ。
2メートルオーバーの、マッチョであるだけだ。
きゃるるん――と、魔法の杖を、取り出した。
「コハルちゃんたちに、負けられないわ?」
星マークの、輝きだった。
魔女っ子アニメの攻撃魔法なのだろうか、本当に、ヒトデと言うカラフルな星がブーメランとなって、大群となって、モンスターたちをスラッシュしていた。
しかも、爆発していた。
前世の浪人生は、叫んだ。
た~まや~――と
そのためではないだろうが、岩ドラゴンが、風船にかじりついていた。
「おっと、トルネード、トルネード――?」
必要なかった。
射線に、巨大な岩石ゴーレムが現れた。
「おれっち、にょろにょろはパスだけど、トカゲならっ――」
殴り飛ばした。
ラウネーラちゃんのスーパー・ロボットほどでなくとも、威力は岩石パンチである。巨大モンスターを、吹き飛ばしていた。
前世のイメージでは、ビルの解体現場の、あの鉄球である。
威力は、大砲クラスだろう。並みのモンスターでは、一撃だ。
派手なアクションが、いたるところで暴走中だ。
「すっげぇ~、さっすが、ベテラン」
主人公気分から、見物人気分のレックだった。
ドワーフに、エンジェルにマーメイドに、もちろんエルフも含めた5人は、魔法攻撃は、えげつなかった。
いや、アーマー・5ではあと一人、馬の姉さんを忘れていた。
「あたしの走りを、見せてやる」
「へっ、いっちょ前に――」
ゴルックのおっさんも、お付き合い下さるようだ。
2人のケンタウロスが、走り出した。おっさんは、馬キックでザコの皆様を撃滅した姿を、レックは覚えている。
バイクがロボットに変身、戦うよりも強かったのだ。
では、馬の姉さんは?
「ひぃ~、ひゃっほぉおおおおっ」
輝いていた。
錯覚だろうか、馬の部分から翼が生えて、ケンタウロスと言うより、ペガサスとなって、突撃をかましていた。
そして、錯覚だった。
翼のように見えたのは、残像だ、両手一杯にナタを持って、突撃の勢いでスラッシュをしておいでだった。
前に立ちはだかるものは馬キックを、横に居並ぶ有象無象は、スラッシュされていくのだ。
乱戦になりつつあり、レーザーが封じられたレックは、見つめていた。
「あれ………出番は?」
レックが振り向くと、バーテンダーたちが、立ち上がった。
「ちょっと、包丁の切れ味をみてみるか」
「腕が落ちてないといいな、兄弟」
猫のおじさまたちが、包丁を手に、暗殺者モードだった。
気付けば、町の皆様も集まっていた。武器ショップのオヤジは、バズーカでも取り出すのか。
おしい、大砲だった。
「………海賊っすか?」
パイレーツの髭オヤジが持ち出しそうな、ひもを引っ張って発射する、中世の大砲であった。
まさか、この世界で始めての火薬が登場するのか。
それも、違った。
「センサー・セット・レディー・OK?」
ブリキの人が、なにかしていた。
ぎこちない動きの、油をさしてください――と、お願いされそうな姿はそのままに、大砲と鉄パイプのようなチューブが、つながっていた。
SFコメディーに登場するキャラクターのように、一部が、やたら高性能なブリキの人が、照準を合わせていた。
オヤジが、命じた。
「目標・上空のボスコウモリ――はなてぇえええ」
拡散タイプだった。
乱戦であるため、巻き添えのない上空へ向けて、ファイアーしていた。
岩ゴーレムモードのドワーフちゃんを筆頭に、猫耳軍団とウサギ耳軍団など、町の皆様は、続々と乱戦に参加していた。
改めて、レックはつぶやいた。
「あのぉ~………出番は?」
ピクニックが、大乱戦だった。




