ダンジョンの町と、あふれ出し 3
本日も、いい天気だ。
ダンジョンの町の岩場では、ピクニックシートが広げられている。入り口が遠くに見えて、徒歩で20分から30分と言うところだ。
岩山の中腹が、ダンジョンの入り口である。斜面は緩やかであり、ちょっとした運動にも最適なのだ。
ピクニックシートに向けて、レックは恐る恐ると、口を開く。
「………おれ、討伐中なんッスけど――」
お祭りだった。
ダンジョンの町が、眼下に見える、ここは岩山の中腹である。皆様、ちょっとしたイベントの感覚で、集まっていた。
レストランや宿のマスターに、手下と言う猫耳の皆様をはじめ、もちろん、ウサギ耳のバニーガール軍団もいる。
アーマー・5の皆様も、お先にピクニックシートで、リラックスだ。
レックは、とりあえず前を向いた。
「トルネードぉ~」
言いつつ、威力は上級魔法と言うトルネードだ。モンスターの大群は、危険な鉄球と言うダンゴムシもろとも、吹き飛んでいく。
一部、100メートルも離れていない距離にまで、鉄球ダンゴムシが転がっていた。ごろごろと転がる速度は、そして巨大ゆえに目の錯覚で、危なかった。
なのに、ピクニックであった。
「ほらほら~、よそ見しないの~」
「そうだにゃ~、ホコリが入るにゃぁ~」
エルフちゃんたちは、サンドイッチをつまんでいた。
中身はなんだろう、チラッと見た限り、エビフライの尻尾が見えた。この世界の流通は、意外と発展している。バイクにアイテム袋にと、色々あるのだ。
海の幸も、手に入るのだ。
「ツイン・トルネードッ」
レックは、叫んだ。
水球は6つである。3つでトルネードを生み出せるため、ツインも出来るのだ。ちょっと疲れるというか、チャージの隙が怖いために控えていたが、出し惜しんでもいられなかった。
さもないと――
「ほら、油断――」
「だにゃぁ~」
エルフちゃんたちが、なにかをした。
レックもすごいのだが、もっとすごいのが、エルフちゃんたちである。巨大なバリアが、展開されていた。
ツイン・トルネードで広範囲をなぎ払ったはずだが、取りこぼしがあったようだ。
ズゴン、ズゴン――と、ぶつかっていた。
「………うわぁ~」
ダンゴムシは、飛び跳ねることを覚えていたようだ。
上空から、まっすぐとレックたちへ向かって、落下していた。それだけではない、レックのレーザーの影響で、少々、岩石のオマケが転がっていた。
ダンジョンとは、洞窟の迷宮である。この岩場においては、鉱山の中腹と言うところから、徐々に地下へと広がっていく。
入り口は、中腹なのだ。
湧き出した付近を砕けば、土砂崩れだ。
レックは、振り向きざまに、腰を90度だ。
「姉さん達、あっざ~す」
前世もご一緒に、お辞儀をしていた。
レックの脳内の出来事であるが、気分はご一緒に、お礼を申し上げていた。
エルフたちは、ついでに色々を魔法で砕いたり、貫いたりしていた。水鉄砲限定のレックと異なり、エルフちゃんたちは、様々な魔法を使えるのだ。
マジカル・ウェポンは、お遊びだ。
ショット系の輝きが数百ほど、色々と撒き散らされていた。小さなスクリューも加わって、下級魔法ながら、攻撃範囲と貫通力は、レックのレーザーに劣らない。
きらめく星の瞬きが、きらめいた。その数は、数百と言う、もう、全滅させたのではないかと言う輝きだった。
戦いの途中であるが、もはや、終盤だ。
姉さん達ベテランは、こうした事態に備えるために、後ろで控えているのだ。レックはキャパオーバーを自覚しつつ、さすがだと、腰が低い。
「ぅお~、さっすが、姉さん達」
レックの油断と言うより、本当に、キャパオーバーである。
探知魔法の範囲は目視より狭く、それでも、範囲内であれば、モンスターの数や大きさ程度は分かるのだが、その程度だ。
エルフと比べることなど、恐れ多いのだ。
サンドイッチを片手に、エルフちゃんたちが命じた。
「ほらほら、まだ来るわよ?」
「トカゲの丸焼きだにゃぁ~」
ボスが、やってきた。
レックが以前戦った岩ドラゴン――と名づけた、ロック・サラマンダーと同系だろうか、ごつごつとした、岩石のようなトカゲが迫ってきた。
テクノ師団のバルカン砲撃を受けても暴れるだけで、レックの突撃後、トドメは上空からの『ラウネーラきぃいいいっく』――という岩ドラゴンだった。
30メートルはあったと思う、トルネードを連射しても、傷をつけるまでに時間がかかったものだ。
どうやら、同類らしい。
「ツイン・トルネードっ」
またも、叫んだ。
岩ドラゴンのサイズは、尻尾だけで20メートルを超えていた、数十メートルサイズの巨大モンスターだった。
分類としては、ロック・サラマンダーとも言うべきという。ホンモノのドラゴンの皆様を前にすれば、分かるらしい。
まだドラゴンを見たことがないレックには、十分、ドラゴンと呼ぶべきモンスターだった。
レックは、固まった。
「ごっ、ご兄弟ッスか」
一匹だけでは、なかったようだ。
トルネードでひるんだところに、土煙が収まったところに、にゅるりと、巨大なご兄弟が顔を出した。
前回の大発生では、たった一匹にも苦戦をした岩ドラゴンが、サイズはやや劣るものの、追加で3匹現れた。
どうせ、レーザーで楽勝と言う気分だったレックは、気持ちを改めた。
「あふれ出し………やっぱ、ピンチじゃん」
水球たちを、配置につかせた。
背後には、コハル姉さんとラウネーラちゃんと言うエルフがいる。見物人の皆様は、ここまでピンチと思っていなかったのなら、運が悪かったと思ってほしい。
広域バリアを展開した。
「スキル・水風船っ」
レンズのバリアでは、2メートルに満たない。レックだけでは十分で、遠距離攻撃に限定すれば、必要ないと踏んでいた。
岩ドラゴンが相手なら、柔軟性のある水風船だ。相手を近寄らせないバリアとしては、強固なレンズよりも、こちらが上だ。
2メートルもなかった直径が、10倍に膨らんだ。
このまま、レーザーも出来る。
「レーザー、乱舞」
狙いなどない、乱射だった。
将来的には、某・宇宙世紀のように、自分から遠くはなれた場所に水球を送り、レーザーを全方位で集中砲火させたいものだ。
前世の浪人生は、その光景を目に浮かべて、遠くを見ていた。
現実は、SFアニメというより、パニック映画だった。
「つづいて~、ツイン・トルネードっ」
レックは、大忙しだった。




