ダンジョンの町と、あふれ出し 2
やわらかな金髪のショート・ポニーテールをなびかせて、レックは腕を組んだ。
「減らんな」
格好をつけただけだ。
久々にレーザーを放ったが、数百、もしかすると数千のモンスターのあふれ出しは、まったく衰えを見せなかった。
ダンジョンの町に訪れて、2週間ほどが経過した。
突撃したのは5回で、いずれも浅い階層だった。ボス部屋と言うモンスターがたくさんと、10メートルサイズのボスが少々の危険ゾーンとの、往復だった。
どうやら、挑発が目的だったようだ。
おっさんも、挑発していた。
「へいへいへい、ぴっちゃー、ばしっといこうぜ、ばしっと」
「あら、ベルちゃん。それって、前世の言葉?」
レックの後ろでは、フレンドリー・ファイアーをゴメンこうむる先輩達が、ヤジを飛ばしていた。
テクノ師団の隊長殿と、愛人?のウサギ耳さんが、仲良くしている。愛犬のジョセフィーヌちゃんも、バウバウと吠えて、レックを応援していた。
間違えても、こちらに駆け出さないように、リードをしっかりと手にしてほしい。思えば、首輪をしていたのかと、記憶が曖昧だ。
レックは、叫んだ。
「レーザーっ、ワイドモードっ」
言ってみただけだ。
ワイドモードなど、習得していない。最近は、レーザーの修行も、していない。6つの水球から、バランスよく広範囲をなぎ払うだけである。
例えるなら、キロ単位のビームジャベリンを、縦横無尽にスラッシュしているような攻撃だ。ダンジョン内部では、確かに自殺行為である。余波を食らった岩山が、ガラガラと、うなり声を揚げていた。
ごろごろと、岩も転がっている。
「やべ、町のほうに行かないかな………」
巻き添えで、何割かモンスターが押しつぶされたようだ。
町まで転がらないように、ちょっと注意が必要だった。スフィア・バリアを拡大させた水風船でも、さすがにキロ単位の幅に広げることは出来ない。
エルフちゃんたちは、ポニーテールをなびかせて、腕を組んでいた。
「うむ、レックに任せて正解じゃった」
「さすがは、勇者(笑)だにゃぁ~」
金髪とプラチナブロンドと言う銀のポニーテールさんが、偉そうだった。
わざと老人しゃべりの、師匠気取りのエルフちゃんだが、実年齢は、人間では到達できない年齢を生きたベテランさんだ。
もちろん、実年齢を疑問に思うことは、命取りだ。
目の前のモンスター軍団より、背後のエルフちゃんたちのほうが、よほど危険な悪魔と言う美少女だ。
ちょっと、背中に冷たいものを感じつつ、レックは乱射を続けた。
「続けて、いくぜっ――」
本領、発揮である。
レックのような攻撃魔法を扱える冒険者は、ごく限られている。その意味で、レックがシルバー・ランクの<中級>に、半ば強制的にランク・アップさせられたのは、当然である。
バランスが、悪いだけだ。
ダンジョンの日々で味わったような、距離や範囲を意識した討伐において、かなり経験不足と、威力の不足があるだけだ。
デタラメに攻撃を乱射してよい場所では、生き生きとしていた。
ケンタウロスたちが、興奮していた。
「おおおお~、映像で見てたけど、すっげぇ~」
「だろ、レックはよ、すげぇんだよ」
いつの間にか、馬モードだ。
バイクで走ったばかりであるため、次は、自分達の馬で走るつもりだったのだろうか。あるいは、魔法攻撃では、ケンタウロスの姿のほうが有利なのだろうか。
いがみ合っていた馬の人たちだが、仲良くなってくれて、良かったと思うレックである。なぜか、ロボットモードのバイクの人が、ホバーUFOの隣で腕を組んでいるが、疑問に思うほど、暇ではない。
レックのレーザーを警戒してか、ダンジョンの入り口から湧き出した団体様は、広範囲に広がり始めた。
レックは、両手を大きく広げた。
「逃がさぬっ」
何かを、気取っていた。
達人であろうか、あるいは、賢者様だろうか。レックの頭の中では、ゲームのBGMが大音量のはずだ。
あるいは、熱血なアニソンかもしれない。6つの水球を横に並べて、あふれ出るモンスターたちを一箇所に集めるように、なぎ払う。
長く縛りプレイだったため、ザコの大群がミンチの様子は、心地よかった。
レックは、つぶやいた。
「防ぎやがった………」
10メートを超える、ボスクラスの皆様だ。
エルフの国でも、確かに10メートルサイズのオークのボス3兄弟は、数秒程度なら、かすり傷でしかなかった。
もちろん、想定の範囲内である。
ダンゴムシなど、下手をすれば、ボスクラスの防御力を持つ。ごろごろと、10メートルのダンゴムシ3兄弟が現れても、不思議はなかった。
数が、多いだけだ。
「ほぉ~、山崩れだな、まるで」
「やぁね~、せいぜい20でしょ?」
熟練カップルが、のんきである。町が大変と言う災害であっても、さすがはベテランと言うところか。
バウバウと、愛しのジョセフィーヌちゃんも、同意していた。
レックは、腰をひねった。
正拳突きの、ポーズである。
「トルネードっ」
叫んだ。
気分は、必殺技だ。
威力も、必殺技である。3つのレーザーがスクリューしながら合わさり、一本の巨大な槍となって、鉄球ダンゴムシ軍団を、蹴散らした。
数十メートルのボスでも、致命的だ。
「へぇ~、トルネード系かな?」
「そのまんまかいな………まぁ、オリジナルっぽいけど?」
エンジェルさんと、マーメイドさんも興味を抱いている。見た目はレックと同年代か、少し年上のお姉さんに見えるが、実際には不明だ。
経験もたくさんあり、そのため、レックのオリジナル魔法が珍しいのだろう。
コーヒーの香りも漂って………
「あのぉ~」
レックは、振り向いた。
気付けば、コーヒーの香りが漂っていたのだ。それどころか、食欲をそそるスープの香りまで、色々だ。
トマトスープや、コーンスープであろうこと事と、小さな鍋が頑張っている。ピクニックシートが広げられ、サンドイッチが姿を現していそうだ。
そう思って振り向いたのだが――
「よぉ、ボウズ………見に来たぜ」
「ほぉ~、いい魔法、もってるじゃねぇか」
猫耳のおじ様たちが、コーヒーカップを掲げていた。
レックたちの行きつけのレストランのバーテンダー猫おじ様に、宿泊しているホテルの支配人の猫おじ様だ。
手下だろう、猫耳の従者達が、形態コンロで小さな鍋を暖め、スープにコーヒーにと、レストランのメニューが並んでいた。
ウサギ耳の姉さん達も、お手伝いをしていた。
「あぁ~、気にしないで、続けて、続けて」
「そうそう、名物だから」
「復活祝い?みたいな?」
今も、ダンジョンから、モンスターが続々と現れている。
なのに、ウサギ耳さんや、猫耳さんや、気付けばレックの知らない皆様まで集まっていた。
気分は、ピクニックだ。




