ダンジョンの町の、あふれ出し 1
ゲームなどのダンジョンには、モンスターが特定の場所から動かない、縄張りのようなシステムがあった。動物のように、モンスターにも縄張り本能があれば、ありえなくない。
また、この世界のモンスターは、魔力に引き付けられる習性がある。おいしいエサとして、認識されるらしい。本来は町を守る結界が、大発生では逆に、モンスターの大群を引き寄せてしまうのだ。
ただし、《《ある程度》》の規模が必要であるため、《《ある程度》》になる前に数を減らすのが、テクノ師団をはじめとする、凄腕の皆様の役割だ。
レックは、見つめていた。
「うわぁ~………あふれ出ちゃってるよ」
岩場からでも、はっきりと分かった。地面を不気味に揺らして、覚えのある振動が、遠くからの有象無象の鳴き声が、教えてくれる。
大発生だと。
庭のプランターや鉢や石を動かすと出てくる、ダンゴムシにゲジゲジに、色々な皆様は、すでに慣れた相手である。
お初にお目にかかる、巨大なボスサイズの皆様が、たくさんだ。まるで、エルフの国のオーク軍団のように、皆様巨大であった。
いいや、オーガ軍団との戦いにも匹敵する。10メートルサイズが、数え切れない。
ちょっとうれしい、トカゲや蛇など、見慣れたモンスターだ。肉として食べるにも、虫さん軍団よりも、抵抗が少ないのだ。
巨大な蛇やトカゲや、空を飛ぶコウモリまで存在していた、今まで出会わなかったのは、それぞれの縄張りのためだ。
そして、レックが最初のボス部屋しか、攻略していなかったためだ。
通常は、部屋のモンスターをやっつければ、しばらく湧き出てこない。そのために休憩して、そして次へ向かう。その繰り返しだという。
数も、10か20程度であり、グループで最深部まで到達することも出来る。
普通ならば――だ
大発生の時期は、湧き出るペースが異常であり、強さもハードである。洞窟では落盤事故と言う威力でなければ対処できないため、あえて湧き出させるのだ。
「と、いうことで………レックはレーザー解禁ね?」
「おめでとうだにゃぁ~、縛りプレイは、お休みだにゃぁ~」
久々の、レーザーだ。
よだれまみれだが、レーザーだ。
エルフちゃんたちの言葉を受けて、ジョセフィーヌちゃんはレックを、べちゃぁ――と、解放してくれた。
よろよろと、立ち上がった。
「っ~す~」
主人公の出番である。
そんな意欲が、この状況で沸き起こるのだろうか。魔力を封じる、不思議なよだれだと言われても、レックは信じただろう。
目の前の振動を放置して、まずは宿でシャワーでも浴びたい気分だ。宿に戻るのが贅沢なら、どこかで水浴びをしたいものだ。
水に、囲まれた。
「ちょぼ、ぶぶあばっ??」
よだれのため、うまく言葉が出てこない。
それだけではない、魔法の力に囲まれていると感じた。レックとて、魔法を使う少年なのだ。自らに魔法の効果が発動しているくらいは、感じ取れる。
レックの水風船とはまったく異なる、泡風呂のような空間に、包まれた。
数秒後――
「たぁ~………はぁ、はぁ………」
た、助かった――
レックは言葉にしようとして、緊張と驚きで、ひざをついていた。そして、助かったという感想を持つには、大げさと言うリフレッシュだ。
ひとっ風呂浴びたい――
そんなレックの気持ちを汲み取ってくれたような、ひとっ風呂のあとのような、すっきりとした気分だった。
マーメイドさんが、お魚モードで笑っていた。
「サービスや」
ダークグリーンのロングヘアーをさらさらとさせて、マーメイドのお姉さんが、マーメイドモードで笑っていた。
岩場に座る姿は、まさにマーメイドだ。ここが海辺のような錯覚も覚える、本人を中心に、水の空間が広がっていた。
ジェスチャーで、銭よこせポーズでなかったなら、最高だった。
「あざ~っす」
感謝の言葉が、微妙だった。
深々とお辞儀をしているのか、うなだれているのか、それは、レックにしか分からない。とりあえず、モンスターの大発生に対処しなければと――
ふと、顔を上げる。
「と、皆さん、武器――」
レックは、手ぶらだった。
魔法攻撃があるからと、ついでだからと、リボルバーにマグナムに、最近使わなくなったショットガンやスナイパー・ライフルまでを、メンテナンスに提出したのだ。
皆様も、同じはずだ。
アーマー・5の皆様は、どのようにして戦うのか。
変身して、近代的なアーマーでトリガーハッピーのお姉さん達は、本来の力で戦うとでも言うのか。
ちょっと、見てみたいレックだったが………
「あたしさぁ~、巻き添えは勘弁なんだよねぇ~」
「うちら、聞いてるから。レックくん、レーザーの範囲、すっごいんやってねぇ?」
ニコニコと、エンジェル姉さんとマーメイド姉さんが、笑っていた。
一人でやれという、暗黙の命令だった。
いや、ドワーフちゃんは、豆戦車を預けていない。なら、援護してくれるのだろうか、レックは、小さな望みを賭けて、ドワーフちゃんを見た。
数千を超える大軍を、たった一人で対処する。
出来なくないのが、微妙だった。
「出来なくなんだろ?」
心を、読まれていた。
サボりたい気分もある、久々のレーザーのチャンスでもある。それでも、ベテランの皆様がおいでなのに、なぜ、一人なのか。
両肩を、ぽん――と、叩かれた。
「修行じゃ、レック」
「修行だにゃぁ~」
金と銀のポニーテールが、風に揺れていた。
モンスターの大群が接近中だ。
レックを目指して、接近中だ。まだ、レーザーで挑発していないのに、なんとも勘の良いことだ。
レックは、周りを見渡す。
「あぁ~、エルフレベル………魔力を感じ取ったのか」
アーマー・5のメンバーに、+ラウネーラちゃんやテクノ師団の隊長殿や、愛人?のクリスティーナ姉さんや、もちろん魔女っ子マッチョのアリスちゃんに、ケンタウロスのおっさんもいる。
バウバウと吠えるジョセフィーヌちゃんも忘れてはならない、クリスティーナ姉さんの実力は不明であるが、レックを含めて10人?の冒険者がいるのだ。
魔力の密度は、高いだろう。
レックは、叫んだ。
「レーザーっ」
久々だった。




