ケンタウロスVSケンタウロス
岩場の中心で、レックはたたずんでいた。
「あの~………、魔王の話は――」
遠慮がちだった。
封じられた、魔王の復活。それは、主人公の出番と言うフラグであったが、大したことのない話題として、あっさりと流れていたのだ。
武器ショップを前にした、驚きだった。
便利よねぇ~、魔王だって封印しちゃうし――
コハル姉さんのセリフから、爆弾発言だった。
ひゃっは~、祭りだぜ――の勢いで、おっさんたちがやっつけたこともあるらしいが、たくさんいる印象だ。
メンテの武器を預けてから、レックは恐る恐ると、質問を口にしようとしたのだ。
女子の軍団に男子が一人の扱いなど、レックごときザコが覆すことなど、出来るわけもなかった。
あるいは、気をもたせるために、あえて放置されたのか。
魔法の練習場では、馬の人たちがにらみ合っていた。
「なんだと、小娘がっ」
「やんのか、おっさんっ」
馬の人たちが、熱かった。ケンタウロスと言う種族は、どうやら乗り物に命をかけるらしい。
一人は、いつの間にか現れては消える、バイク愛好家のおっさんだ。テクノ師団の所属であり、異世界からの転生者でもある。相棒のバイクは、ロボットモードで大活躍だ。
そんなゴルックと言うおっさんは、バイク様が傷つけられない限りは、大変付き合いやすい馬の人なのだ。
ケンタウロスモードで、仁王立ちだった。
「ホバーなぞしおって、地面を踏みしめてこそ――」
「へっ、オレは最新型なんだ。あんたこそ、なんでロボットなんだよ。人モードで走る意味、あるのかよ」
禁句を、口にしていたようだ。
相棒は、ホバーUFOである姉さんは、レックが心で思っても、決して口に出せない禁句で挑発していた。あるいは、ただの本音なのか、どちらにしても、さすがである。
スレンダーなケンタウロス姉さんが、おっさん馬と同じく、仁王立ちであった。
馬と言うより、カモシカと言うべき、すらりとした足のお姉さんだ。むしろ、鹿のようなケンタウロスだ。
軍馬のようなおっさんと比べたためだろう、いつか馬の群生地を訪れて、馬を見る目を養いたいものだ。おっさんと小娘は、見た目どおり大人と子供ほどの体格の差があった。
なら、大人のおっさんは、少し大人になってほしいものだが………
「「おれの相棒を馬鹿にするのかっ」」
レベルは、同じだった。
馬の人たちは、乗り物対決で熱くなっていた。
まぁ、趣味を持つ人々とは、そういうものである。決して触れてはならない、譲れないものがあるのだ。
他人事だと、傍観者でいたレックだったが――
「おぉ、ボウズ――」
「ちょっと、こっちきな――」
二人同時に、レックを見た。
間違いなく、面倒なことになるフラグである。残念なのは、フラグだと嘆くより早く、回収されてしまったことだ。
選択肢も、もちろんない。
両肩を、両方から叩かれた。
「行け、わが弟子よ」
「骨は拾ってやるにゃぁ~」
いつものエルフちゃんたちだ。おなじポニーテールなのだから、ともに、馬の人の争いに、巻き込まれてほしいものだ。
あと、骨を拾うという表現など、文化を広めた日本人は、本当に殴ってやりたい気分であった。
とぼとぼと、レックは前へ進んだ。
「あのぉ~、おれっちは何を――」
笑顔が硬くなっていないか、心配だ。
レックは、馬のおっさんとコンビを組んで、モンスター大発生を抑えたことがある。ずいぶん昔に感じる、その作戦ではバイクが活躍したのもだ。
バイク仲間と、思われたらしい。
「バイクをだせ、この小娘に、バイク乗りの心意気って者を教えてやろうじゃないか」
いい笑顔で、腕を組んでいた。
『鹿』Tしゃつが、はちきれそうだ。馬モードになると、上半身もやや大型化するのかもしれない。あるいは、決めポーズであるため、筋肉が盛り上がったのだろうか。
レックは、見上げた。
「………えっと――」
――巻き込まないでください。
そのようにお願いできれば、どれほど良かっただろうか。馬の人たちの間に進み出た時点で、すでに運命はレックの手を離れているのだ。
馬の姉さんの機嫌を損ねるのも怖いのだが………
「出しなよ?」
恐喝かよ――などと、レックが口に出来るわけもない。腕を組んで、レックの出方を見守っている。
おっさんは、すでにロボの人を、バイクモードに変身させていた。どうやら、バイク自慢に参加しろと言うことらしい。
柔らかな金髪ポニーテールをなびかせて、レックは叫んだ。
「来い、エーセフっ」
宝石を取り出し、岩場へと投げつける。
本来、投げる必要なく、宝石に封印されたバイクは姿を現すのだが、これはお約束というものだ。
かっこいいのだ。
「へっ、バイクを知る者は、バイクを知る………あれがバイクだ。ホバーなんてよぉ~」
「何言ってるんだ、むしろ最新は――」
ケンタウロスたちが、目の前でにらみ合っていた。
馬の姉さんも相棒のホバーUFOを出しているが、ケンタウロスモードでは、またがることは出来ない。
しかし、ケンタウロスたちの趣味に口を出せば、大変だ。
姉さんはふんぞり返った。
「じゃぁ、おれのバイクモード、見せてやる………」
えらそうに、教えてやろうと言う、ガキ大将スタイルだ。
レックは、反応することが出来ない。バイクモードとは、いったい何か、となりのUFOを見つめた。
姉さんは、叫んだ。
「これが、コイツのバイクモードだっ」
ぽちっ――と、スイッチを入れた。
ゴーカートサイズのUFOが輝いたかと思えば、変身をはじめたのだ。
瞬きも忘れて、レックは見つめた。
「………SFっすか」
変形した。
オプションなのか、デフォなのか、とにかく変形したのだ。
座席部分はそのままに、リングの部分が巨大化し、半透明なリングに覆われていく。巨大なタイヤの内側に運転席があるような、一輪バイクだ。
前世の浪人生は、モノホイール、キターっ ――と、叫んでいた。
実際に作られたようだ、SF作品では様々な改造が加えられて登場している。ジャイロ効果と言う、わっかの中でわっかが回転して、とにかく、動くらしい。
この世界でも、再現されたらしい。
「エーセフ、お前は変身、しないよな?」
レックは、相棒のバイクの頭を触った。
改造をしまくったバイクに限定されると、信じたい。
バサバサ――と、エンジェルのお姉さんが現れた。
「レディー――」
フラッグを、持っていた。
てかてか輝くレザーがまぶしい、レースクイーンモードの、エンジェルさんだ。
しかもミニスカートとは、分かっておいでだ。ご自分の魅力が男心を惑わすと、女の武器を、分かっておいでだ。
土下座をするお兄さんなら、そのまま見上げるだろう。ザコなレックには、ムリな度胸である。
分かっていて、遊んでいるのだ。
天使の顔をした、まさに悪魔である。
「へっ、覚悟しな、小娘」
「はっ、おっさんこそ」
ばるるん、ばるるん――と、『鹿』Tシャツのおっさんと、一輪バイクの姉さんが、どうもうな笑顔である。
馬の人が二人と、バイク小僧という3人のレースは、秒読みだ。
「………オレも?」
参加は、強制だ。
フラッグが、大きく掲げられた。
バイクを転がして、がけを駆け下りるしか道はない。
エルフの国で100メートルサイズの樹木を飛び回った経験があっても、ヘリから紐なしバンジージャンプでモンスターに突撃した経験があっても、恐怖なのだ。
前世で見た、ヘルメットとプロテクトだけで同じ無茶をするバイクのりの人たちは、本当にすごいと思う。傾斜格が30度どころか、60度や、それよりもおぞましい角度を昇るのだ。まさに、鹿でないのに、無茶だ――という勢いだ。
うなだれながら、レックも相棒のエンジンを盛り上げる。
遠くでも、盛り上がる。
「さぁ~、はった、はった、一発逆転の大口の人はおらへんかぁ~?」
「コハル、エルフは大口狙いなんだろ?エルフらしく、でっかく賭けろよ」
マーメイドさんとドワーフさんが、エルフちゃんを挑発していた。
エルフの会場では、お約束のシーンである。しかし、コハル姉さんが賭け事をする場面は、思えばレックは見ていない。
子供だから、参加が出来ない。
そんな事情であればお怒りを買うと思い、また、意識したこともなかったのだが………
「いやよ、そんな悪い大人になっちゃだめって言われてるんだから~」
「そうだにゃぁ~、お金をドブに捨てるようなものだにゃぁ~」
「レック………哀れなヤツ」
「あら、ジョセフィーヌちゃんはどこかしら?」
保護者状態のテクノ師団の隊長殿と、愛人?の、クリスティーナ姉さんも見物していたが………
バウバウ――という声が、遠くから近づいてきた。
エンジェルが、命じた。
「ごぉおおおっ」
轟音が、岩場を支配した。
バウバウ――というブルドックの声も、元気一杯だった。




