ダンジョンの町の、武器ショップ
ダンジョンの町は、とてもにぎやかな町だと言う。
今の静けさからは、とてもそうは思えない。冒険者であふれるはずだが、人数は少ない。大発生の時期はダンジョンのモンスターが巨大化、大発生してしまうためだ。
並みの冒険者には、危険すぎるためだ。
武器ショップを前に、レックは思った。
「人手不足………?」
レックは、エルフちゃんたちによって、空のお散歩をさせられた。
武器ショップ――と、看板に書かれていた。アイテムを整備してもらおうと、扉を叩こうとしたのだが、お店の人が現れたのだが………
ロボットが、現れた。
「イラッシャイマセ――」
どう見てもロボットと言う、しかも、オイルをさしてくれ――と言いたげな、ギシギシと言うぎこちない動きの、むしろブリキの人形だった。
レックは、ツッコミをいれた。
「ロボットかよっ」
どう見ても、懐かしきSF漫画に登場する、おんぼろロボットだ。蒸気機関で動いているのだろうか、煙がぷしゅ~――と吹き出る煙突が、頭にある。
むしろ、ギャグである。
お店の人も、ちゃんといた。
「なんだ、こんなシケたところに何の用だ――」
頑固ジジイが、現れた。
「おぉ、コハルにラウネーラにドッド――じゃない、アリスちゃんも………いや、久しぶりだ」
癖のある赤毛の、赤鬼だった。
体格は、魔女っ子マッチョのアリスちゃんと、良い勝負だ。本名はドッドという、山賊スタイルであれば、ドッドのお頭と呼ばれただろう。
しかしアリスちゃんは、心は永遠の女子中学生なのだ。
「久しぶりって、町にしばらくいるって、挨拶したばっかじゃないの~」
「メンテよろ~」
「客だにゃぁ~」
「………って事だ、世話になるぜ」
全員、お知り合いのようだ、
さすがは、ハイレベルな冒険者である。かつては勇者(笑)と呼ばれていたテクノ師団の隊長殿とも、気安く挨拶をしていた。
バニーガールのお姉さんとのセットも、何十年も変わらないのだろう。何か言いたげに口を開いて、押し黙るのは、大人なのだ。
初対面は、レックだけだ。
「それでボウズは………そうか、お前が新たな勇者(笑)様ってことか」
自己紹介の前に、結論された。
さすがは、武器ショップの店長様だ。店番に、看板ロボットを出すしゃれっ気のある御仁は、勇者(笑)にも詳しいようだ。
勇者のあとに、必ず『(笑)』をつけるのが、この世界のマナーらしい。勇者とは、人類最強の存在であり、希望の象徴である。
ただし、人類に限った話だ。
エルフの皆様には、ちょうど良い旅芸人である。頻度は、数年に一度であれば、ありがたみは、旅芸人だ。
実力もまた、エルフにとっては旅芸人であるため、慢心することなく精進できるのが、この世界のいいところだろう。
べっこべこに、プライドが生まれる前からへし折れるのだ。
金と銀のポニーテールちゃんが、そろって自慢した。
「ワシが育てた」
「にゃぁ~」
誰がネタを提供したのか、その問いには意味がない。
そして、弟子と言う言葉は正しい、エルフの国では、散々お世話になったレックである。半ば強制的ながら、住まいに魔法の練習に、もちろんコスプレもだ。
小物のレックは、腰をかがめた。
「へへへ、お初にお目にかかりやす、あっしは、レックと言う、しがない冒険者で――」
小物パワーは、本日も調子が良い。特に、お初にお目にかかる相手には、第一印象が大切だ。
冒険者になる前から、村人Aだった当時から、もちろん人生経験は積んでいる。小物パワーと下っ端パワーがタッグを組んで、レックと言う冒険者の出来上がりだ。
前世の浪人生が、体育すわりで涙を浮かべているが、無視である。レックの脳内イメージに過ぎない。
「ちょっと、レック、届かない」
「しゃがむんだにゃぁ~」
腰を低くしていたので、エルフちゃんたちが、レックの髪の毛をいじり始めた。
もちろん、レックが逆らうはずもない。もっとしゃがめとシャツを引っ張るままに、地面に正座のレックである。
武器ショップのオヤジも、ツッコミを入れてくれない。そういう関係だと、察してくれたようだ。
本日は金と銀のロングポニーテールのエルフちゃんたちだ。レックも、おそろいのポニーテールとなっただけだ。
髪の毛も、このまま半年ほど伸ばせば、ショートポニーから、ミドルポニーにランク・アップするだろう。
馬の姉さんが、腕を組んでいた。
「まぁ、こういうことだ。ちょっと前から、おれたちとダンジョンしてんだよ。町のピンチには、駆けつけないとな?」
レックに代わり、話を進めてくれた。
かっこいいヒーローのセリフに聞こえたが、姉さん達にとっては、お楽しみの大暴れタイムではないのかと、レックは思った。
もちろん、思っただけである。
「本来のレーザー?っていうの、おれっちの豆戦車といい勝負らしいけど、洞窟だからね、射程がすごいらしいよ?」
ドワーフちゃんが、大きな身振りで会話に参加してきた。サスペンダーの半ズボンか、あるいはキャロットスカートだろうか、気緑色のカラーが可愛らしい。
見た目は最年少であるが、実年齢は不明である。
「落盤だからって封印なのよね。それでも、ダンジョンでの実力も上がっているわ。あたしたちと比べたら、イマイチだけど」
「まぁ、うちらと違って経験もないみたいやし、男を見せたっぽい場面も、そこそこあったやん………そこそこは」
エンジェル姉さんとマーメイド姉さんも会話に加わってきて、場が混沌としてきたところであった。
魔女っ子さんが、助け舟を出してくれた。
「はいはい、おしゃべりは喫茶店でね?そろそろ、アイテムを預けちゃいましょ?」
魔女っ子アリスちゃんの言葉を合図に、皆様、アイテムを取り出し始めた。馬の姉さんはホバーUFOの突撃だが、マグナム・リボルバーをお持ちのようだ。
コハル姉さんは、もちろんヘビー・マシンガンである。ただ、エンジェルの姉さんが取り出した武器に比べると、普通に見える。
ガトリングガンが、迫力だ。
「あたしの相棒、あずけたわよ?」
6つの砲身が回転する、ヘリやジープに搭載すべき迫力だ。
それを、天使の羽のエンジェル姉さんが翼をパタパタさせて、空中からばら撒くのだ。がははは――と、ガトリングする迫力は、まさに死の天使である。
ばらまく弾丸の数も、コハル姉さんの比ではないだろう。ツイン・ハンドでヘビー・マシンガンを乱射しても、発射速度が異なるはずだ。
そういえば――と、レックが疑問を抱いた。
「弾切れしてないッスよね………コハル姉さんもだけど――」
思わず、口を出た疑問だった。
小物パワーが通常運転のレックであるが、今のセリフは、前世の影響が強い。弾丸が詰まっているボックスのサイズから、前世の知識が疑問を抱いたのだ。
ヘビー・マシンガンやガトリングガンは、恐ろしく弾丸をばら撒いていく。見た目どおりなら、100発から400発程度しか撃てないはずだ。
エルフちゃんたちが、ため息をついた。
「レックは封印魔法とか、アイテム・ボックスとか、色々見てるのになぁ~………」
「しかたないにゃぁ~、ほんと、しかたないにゃぁ~」
お子様を馬鹿にする、お子様のため息だった。
やれやれだぜ――というセリフが聞こえた気がする。コハル姉さんがケータイを、ラウネーラちゃんはロボが封印された宝石を、それぞれ見せびらかすようにしていた。
レックのアイテム・ボックスと同じ能力を持つ宝石だ。
そして、レックはバイクを持っている。普段は宝石に封印されている、そういったアイテムであると、思い出した。
何千発も乱射する武器庫は、宝石が答えらしい。当然ながら、アーマー・5の皆様もお持ちである。
ジャラジャラと、宝石やクリスタルなど、封印アイテムを取り出していた。
「おれは、相棒が封印されてるコレ」
「おれっちは、弾薬倉庫って呼んでるぜ?」
「あたしはもちろん、リンク済みよ?」
「うちら、そやないと弾切れは秒で終るで?」
ファンタジー・ウェポンであるため、秘密があった。
クリスタルの輝きが、答えである。自動的に、弾丸が溜め込まれた宝石から転送されていく、魔法の弾薬庫とでも言うべきアイテムがセットだった。
何分間も、ガガガガガ――と、乱射できるのも納得だ。
「便利よねぇ~、魔王だって封印しちゃうし」
「ロボも、いつもいっしょだにゃぁ~」
「へっ、おれたちがいれば――」
「手が足りないときだっけ?倒せないけど封印って、わけわからん」
「ベル坊のときは――いや、やっつけた?」
「いっぱいいるからな~、懐かしいわ。ひゃっは~、祭りだぜ――だったかしら」
アーマー・5の皆様は、封印魔法で思い出話に花が咲いたが、さらっと、とんでもない会話が飛び出した気がした。
レックは、ぎょっ――として、おっさんたちを見た。
「………魔王って、えっと、マジな方の?」
新たなる、フラグだった。




