ダンジョンの町の、いつもの時間
ダンジョンに、行ってみないか――
このお誘いに、主人公のテンプレがキタ~――と喜んでOKしたお調子者の少年が、レックである。
前世の影響も、忘れてはならない。
国王との謁見を終えた後の、カツ丼を食べながらのご依頼であった。
王城へと、呼び出された。その目的は、モンスターの大発生を押さえ込んだ、その功績を称えるというもの。
だが、大人たちは分かっていた。隊長のおっさんをはじめ、呼び出しを食らった大人たちは、裏側をご存知だった。
面倒ごとであると、語っていた。
レックとしては、主人公のテンプレである。偉い人からのご依頼であると、裏側があると知りつつも、すこしワクワクしていた。
現実は、うんざりだった。
「リロード、終了………次は、メンテ、メンテ――」
リロードを終えたマガジンたちを、アイテム・ボックスへと収納した。
次は、本体だ。
ダンジョンの町に到着して、2週間がすぎた。しかし、5回の突撃のほかは、こうした準備期間である。魔法の練習や、射撃の練習に、反省会もある。
燃える展開の連続などない、モンスターが大発生をする、その全てを討伐と言うよりも、あふれる前の数減らしと言う危険かつ、地味な作業の連続だった。
準備期間も、大切だ。
ゲームと異なり、リセットボタンが存在しないのだ。武器の整備も、魔法の練習も、とても大切なのだ。ゲームのように、回復ポーションがあるだけ、ありがたいと思う。ファンタジーと言う世界なのだ。
整備キットを、取り出した。
「ファンタジーなのに、ビームガン、なのに魔法の銃で、マジカル・ウェポン――」
呪文のように、レックはつぶやく。
素人でも覚えられる、親切な説明書を取り出した。分解してオイルでぬぐう作業は、映画やアニメで見たことがある、銃の分解シーンである。
ただし、魔法のビームガンだ。
弾丸の中身は、火薬の変わりに、魔法の薬が詰まっている。引き金を引くと、わずかな魔力が注ぎ込まれる。たったそれだけで、ビームが放てる、便利ウェポンであった。
多くの冒険者にとっては、命を預ける相棒だ。
使い続けると、銃の中に薬品がへばりついてしまうため、定期メンテが推奨されている。魔法の反応が悪くなり、下手をすれば暴発の危険があるためだ。
退屈そうなエルフが、気になった。
「あのぉ~、コハル姉さんは、自分で整備してるんでやんしょか?」
もちろん、下っ端風味は忘れない。
だらけた空気が、殺伐としたダンジョン生活ではほほえましい、ごろごろしているエルフちゃんの装備は、ヘビー・マシンガンなのだ。
自分で整備をしているのだろうかと、気になったのだ。
ケータイをポチポチ触っていたエルフちゃんは、こちらを見ないままに答えてくれた。
「メンテの人~」
「コハルは、あとから行くんだにゃぁ~」
ラウネーラちゃんと、頭を引っ付けて操作していた。
動画の撮影の確認中だ、見た目はケータイでも、機能はややSFだ。立体映像が浮かんでいた。
だらけておいでだ。
そして、説明も不足であったが、すぐにレックは理解した。メンテの専門化がおいでなのだと。
プロであれば、任せて安心だと。
なお、プラチナブロンドのラウネーラちゃんの装備は、スーパー・ロボットである。特殊すぎて、エルフの国の整備工場?でなければ、メンテが出来ないらしい。
正義の味方も、大変なようだ。
レックは、窓から外を眺めた。
「メンテのお店………か」
たまには、いいか――と
素人が、説明書どおりに薬品を布でこすっても、限度がある。ちゃんとした整備も必要だろうと、たまには専門家に任せることも大切だ。
エルフちゃんたちが、立ち上がった。エルフの長い耳は、飾りではない。レックの気持ちが外へと向いたと、感じたようだ。
「ショッピングよ、レック」
「お買い物だにゃぁ~」
水色のセーラー服をはためかせたコハル姉さんと、紺色のパイロットスーツ+猫耳ファッションのラウネーラちゃんが、仲良くレックを引っ張った。
本日のヘアスタイルは、おそろいのポニーテールである。金と銀の尻尾がレックの顔に当たってしまうが、気にするエルフではない。
レックも、文句を言うはずがない。
「まぁ、弾丸を補充する予定だったから………」
足元の色々を、アイテム・ボックスへと収納しながら立ち上がる。とても便利な能力であり、レックが最初に手にした能力だ。
両手はエルフに引っ張られているが、お片付けは完了だ。
見た目だけなら、女の子が二人、レックの手を引っ張っている状況だ。
ここで、ひゃっほぉ~――と、飛び上がることが出来ないのが、ちょっと悲しい。お買い物デートはテンプレであるものの、レックに取ってエルフたちは、エルフなのだ。
窓から、出発だ。
「ちょっ、わわぁぁあああっ――」
たちまち、町を見下ろす上空だ。
ダンジョンの町は、西部劇風味である。部屋の中でも靴を履く、それは、モンスターの発生地が近いためかもしれない。
窓から出ても、安心だ。
「おた、おたぁあああ~」
悲鳴を上げながら、レックは思った。
そろそろ、慣れるべきだろうか。いや、むしろ自分の力でジャンプ移動が出来るようになっても、いいのではないか。
魔力だけは、人間としては上位のはずだ。魔力を込める瞬間出力は、エルフ並のレックである。
それだけで、魔法が使えれば苦労はない、身体強化も同じく、せっかくの武器も、振り回すだけと言うレックであった。
お店の前に、到着だ。
「とぉ~ちゃ~く」
「と~ちゃくだにゃ」
しゅたっ――っと、エルフちゃんたちは、静かに降り立った。レックは勢いのまま地面にひしゃげたカエル状態となるのも、いつものことだ。
じょろろろろ――と、ポーションを頭からぶっ掛けられるのも、いつものことだ。
笑い声も、いつものことだ。
「あら、早かったわね?」
魔女っ子マッチョが、目印のようだ。
お店のお引越しではないだろう、アリスの姉さんは『マヨネーズ伯爵』の都にお店を構えている、引退した冒険者だ。
待ち合わせをしていたのだろうか、レックたちを見て、微笑んだ。
テクノ師団の隊長殿も、待ちかねていた。
「あぁ~、エルフだからな~」
「あら、ベルちゃんったら、私達も、ジャンプは得意よ?」
愛人?のクリスティーナ姉さんも、ご一緒だ。
そして、ダンジョンの入り口を守るバニーガール軍団の長老らしい。ウサギ耳はぴょこぴょこ、バニースーツは年季を感じさせる、足はムキムキに、おなかの年齢は強引に押し込んでボンレスハム状態だ。
時の流れは残酷だと、見せ付けるバニーガールである。
お犬様も、うれしそうに吠えていた。
「はいはい、ジョセフィーヌちゃんもね?」
「だ、そうだぞ、レック――遊んでやってくれ」
はっ、はっ、はっ――と、乗用車サイズのブルドックが、バウバウと吠えていた。魔力によって生み出されたオリジナルモンスターで、よだれをたらして、レックを狙っている。
食べるためでないと、祈りたい。
「オレも、本気を出せばあれくらい――」
「ムリするんじゃねぇ~よ、鹿じゃあるまいし」
「あたしたちは飛べますし?」
「湖やったら、うちも飛べるで?」
魔女っ子マッチョさんを筆頭に、隊長殿とウサギのクリスティーナ姉さんと、そしてアーマー・5と、勢ぞろいだった。




