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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
127/262

ダンジョンの町の、お宿にて


 開け放たれた窓から、心地よい風が吹いてくる。レックは板敷きの床にどっかりと座って、しばし、浸っていた。


「西部劇かぁ~――」


 窓から見える風景は、西部劇風味であった。

 お部屋も、土足が基本の板敷きである。ギルド提携のお宿も、バーテンダーがいる酒場がカウンターの、二階が客室だった。


 バーテンダーは、もちろん、猫耳のおじ様だ。

 常連となりつつあるレストランのマスターも、猫耳のおじ様で、バーテンダースタイルである。本当に、料理と縁のある獣人であった。

 スタイルは、西部劇で統一されている。寂れているように見えても清潔なのは、こだわりを感じる。


 ハリウッドの人か、日本人で西部劇ファンの転生者がはやらせたに違いない。ガンアクションは、映像の向こうのシューティングゲームだった前世である。実際に手にしたリボルバーは、生きる希望だった。

 どちらにも共通して訪れる不安は、弾切れだった。


 レックは、足元へと視線を戻した。


「さて、リロードは――おや、在庫が………」


 足元には、空のマガジンが並んでいた。

 ビームジャベリンを基本としつつ、接近されるまでは数を減らしたいのが人情だ。ハンドガンやサブマシンガンを乱射していた。当然、戦いの途中でマガジンに弾を込める余裕はない、次の戦いの準備と言うことで、レックはアイテム・ボックスから弾薬の詰まった木箱を取り出していた。


 何箱も買い込んでいたが、そろそろ在庫が不安だった。


 シューティングゲームの爽快感そうかいかんなどは、最初の10匹くらいなものだ。お代わり自由というボス部屋では、アイテムがバラバラと浪費されていった。

 気付けば、最後の木箱であった。


 金と銀のポニーテールちゃんが、レックにのしかかる。


「レック~、そろそろ、ドラムタイプのサブマシンガンにしたら?」

「そうだにゃ~、戦いは数だにゃぁ~」


 コハル姉さんとラウネーラちゃんは、本日はおそろいのポニーテールであった。

 ダンジョンの町では、もちろん部屋を取っている。もはや、贅沢と考えることもなくなった、レックはギルド提携の宿の、個室にいた。

 西部劇風味の、足元は板敷きで、ベッドわきには弾痕のサービスだ。襲撃者がやらかしたという演出だと信じたいレックである。


 襲撃者は、見た目は12歳のエルフちゃんたちだ。レックは、小物パワーでお願いをした。


「あぁ、箱に気をつけてくだせぇ~」


 弾丸を、マガジンに込める作業中である。箱が倒れ、バラバラと散らばれば、とっても面倒なお掃除大会が待っているのだ。


 女子が、部屋にいる。

 本来、それだけで緊張し、ドキドキしてしまう15歳の少年がレックである。前世の浪人生を含めて、女性との日々は悲しく、さびしいものである。そんなザコにとって、女子が目の前はドキドキするハードモードのはずだ。

 だが、エルフは、女子というカテゴリーに含まれることはない。


 なぜなら、エルフなのだ。


 しかも、転生者として覚醒し、初めて目にしたエルフは、ケータイを自慢する90年代女子中学生ファッションであった。


 ケータイが、鳴っていた。


「あっ、もしもしぃ~――うん、わたし、わたしぃ~」


 コハル姉さんは、自慢げにケータイを取り出した。

 金髪のポニーテールをなびかせて、腰に手を当てて満足そうである。本当に、ケータイを使うのがお好きなエルフちゃんだ。


 見た目12歳であるため、ほほえましい。

 この世界でケータイのような通信機を持つ人物は、少ない。前世では誰もが当たり前に持つスマホも、ガラケーも、この世界では当たり前ではないのだ。

 自慢したい気持ちも、当然だ。


「うん、今~?――うん、レックのとこ~」


 ベッドに、どっかりと座った。

 どうやら、長電話になってきた、そのままポテチでもつまみそうだ。


「うん、一階層の大広間――そう、映像送ったでしょ?――うん、うん――」


 本日は水色セーラー服に、もちろん、ミニスカートだ。

 健康的な太ももがまぶしい、床で弾丸を込めていたレックからは無防備だが、コハル姉さんは気にしない。そしてレックも、気にならない。互いに、異性というカテゴリーではないのだ。


 業界ではテンプレも、現実となれば異なる不思議である。


「あんたも知ってるでしょ?準備とか、反省会とかさぁ~――うん、そうそう――えぇ~、ちゃんとしてるってぇ~――てかさぁ、映像は送ったんだしぃ~――」


 電話の相手は、誰だろう。コハル姉さんの声からは、まだ読み取れない。例え王様であっても、近所の悪ガキ扱いのエルフちゃんなのだ、そして、一般の皆様がケータイを持っているわけではなく、電話の相手は全て、重鎮と言うことだ。


 ギルドマスターか、ハイレベルな冒険者か、フラグでという王様なのか………


 いつの間にか、電話が終ったようだ。ぽちっと操作をしたまま、コハル姉さんはケータイを見つめていた。


「あぁ~、まずいかなぁ~?」


 その様子を、退屈していた紫猫モードのエルフちゃんが、猫すわりで見上げていた。


「誰からだったのにゃ~?」


 尻尾が動くのは、どのような仕組みなのか。

 すべて、魔法で解決なのが、この世界らしいところである。SFに見えていて、中身はファンタジー技術と、ファンタジーという素材なのだ。


 ケータイをスカートのポケットに入れながら、にやりと微笑んだ。


「えぇ~、知りたいのぉ~?」


 自分だけが、秘密を知っている。

 そんな、いやらしい微笑である。見た目はかわいい女の子であるために、腹立たしい。自分の可愛らしさを、良くご存知だ。

 レックが強引に迫れば、犯罪だ。


 気にしない猫ちゃんが、突撃した。


「早く教えるにゃぁ~」

「あっ、こら、ケータイつぶれる」


 子供のケンカが、始まった。

 いいや、女の子同士のじゃれあいと呼ぶべきだ。レックとしては、聞きたい内容がさらに遠のいてしまっているのだが、苛立つわけもない。

 ザコとして生きてきたレックは、忍耐もまた、きたえられている。


 おとなしく、マガジンに弾丸を込める作業に戻った。ハンドガンのマガジンは15発であり、サブマシンガンは30発である。何百発も、チマチマと、会話の片手間にチマチマと、時間のかかる作業であった。


 ふと、リボルバーが目に付いた。


「お前の出番は、めっきり減ったな?」


 久々に、リボルバーを手にした。

 すべての武器が弾切れになったときまで、出番はない。しかし、最初に手にした相棒であれば、愛着があるのだ。

 連射で乱射が当たり前になった近頃は、弾切れになっても出番がない。その前にビームジャベリンという如意棒にょいぼうを振り回す、今日この頃なのだ。

 空になったサブマシンガンやハンドガンのマガジンを放置して、しばし、自分の世界に浸っていた。


 エルフたちがいることを、忘れていた。


「なぁ~に気取ってるのよ、レックの癖に」

「そうだにゃぁ~、似合わないにゃぁ~」


 水色セーラー服と、紫のパイロットスーツ猫ちゃんが、ちょっとひどい。

 否定できずに、腹立たしい。コハル姉さんやラウネーラちゃんがポーズを決めれば、かわいいのだ。


 ザコとしては、なにが言える。


「へへへ、最初の相棒なもんで、へへえ」


 リボルバーを手に、紹介していた。

 すでに紹介していたと思う、そして、それは転生したきっかけも一緒である。巨大なイノシシモンスターは、気付けばローストの黒コゲだった。


 そう、黒コゲだったと、レックは思い出す。


「そういえば、黒こげって………忘れてた」


 本当に、忘れていた。

 吐き気を催しながら、食欲をそそる黒コゲの香りが、充満していたのだ。

 生き延びた。

 そして、転生した。


 この感動は、どちらが先だったのか。秘められた力により、目の前の巨大モンスターが、黒コゲのローストになったのだ。

 マジカル・ウェポンではありえない。衝撃波というか、魔法のビームである。木々に直撃しても、火災が起こらない、安心な攻撃力である。


 炎の属性など、ありえない。


「………忘れてた、オレの本当の力は――」


 リボルバーを両手で握り締めて、震えていた。

 レックの本当の力は、封印されているのだ。転生した主人公にお約束のパワーアップが、それは、真の力と言うイベントなのだ。

 そう、フラグだ。


 真の力が、今――


「だめだからね」

落盤らくばんだにゃぁ~」


 エルフちゃんたちが、へし折ってきた。


 真の力が目覚めるのは、今だ――

 そんなフラグは、即座にへし折られた。熱水レーザーと言うレーザーでも、すさまじい攻撃力を誇るレックである。

 本当の力が炎であれば、どれほどの威力になるのか。それは、ラスボスを前にした主人公にお約束の、覚醒である。


 お呼びでは、なかったようだ。ダンジョンでは、事故のもとである。


「ステータス先生、おれっち、寂しいっす」


 リボルバーを抱きしめて、涙がこぼれたレックだった。





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