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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
125/262

ボス部屋は、おかわり自由 2


 ダンジョンは、広大だ。


 巨大な、ショッピングモールが開けそうだ。

 全天候型ドームとも言うべき、広大なる空間も、たくさんある。洞窟はどこまでも続き、地下水脈に海にと、終わりが分からないことも少なくない。ただでさえ、迷い込めば命がないという迷宮なのだ。

 オマケに、モンスターまでいる、危険ゾーンである。


 突撃したレックは、涙目だ。


「いきなり、3匹ッスかっ」


 ボスの、登場だ。


 最初にたどり着く広大な空間には、ただでさえ、所狭しとザコの皆様がおいでである。キラーマンティスと言う殺人カマキリの他に、お庭の石や鉢植えを動かせば、必ずいる皆様もそろっている。巨大ダンゴムシに、ゲジゲジやそのほか、たくさんだ。

 しかも、3メートルから5メートルという、ボスといってもよさそうなサイズである。この手のモンスターは、せいぜい50センチから2メートルなのだ。


 ボスのサイズは、お察しだ。


 大蛇のように、巨大ムカデが鎌首をもたげている。先日は、アーマー・5(ファイブ)の皆様が撃破し、レックがトドメを刺したボスである。


 どうやら、ボス部屋はお代わり自由のようだ。


「レーザーが使えれば、簡単だろうけど………」


 オマケに、触手をぬめらせた巨大ナメクジの、登場だ。


 しかも、2匹だ。

 ビームジャベリンを構えて、レックは2歩、3歩と下がった。レーザーが禁止の、縛りプレイの最中である。

 水風船に、ヌメヌメがへばりついて、レックは青ざめる。


「………SAN値、もう、ムリ………」


 ギャグマンがでは、ここで気を失って、ぬちょぬちょの餌食だ。

 リアルな今は、命のピンチだ。アーマー・5(ファイブ)が助けに来てくれるだろうが、もちろん、そのような無様はしない。


 レックは、叫んだ。


「やってやんよぉ~っ」


 ヤケだった。

 デタラメに、ビームジャベリンを振り回す。もはや、技も何も、あったものではない。前世を含めて、薙刀なぎなたや剣術と無縁のレックである。


 当たればいいのだ。


 ボスのついでに、ザコの皆様も、切り裂かれていく。紫や緑や黄色やそのほか、色々が水風船バリアに、べっとりと色合いをカラフルに染めていく。


 倒すほどに、レックの周囲はカラフルになる。

 それが分かるのは、魔法の強化のおかげである。洞窟の暗闇でも、それなりにはっきりと見えるのだ。じっくりと観察すれば、SAN値がピンチだ。


 見なければ、本気でピンチだ。


「さ、再生?」


 ボスのナメクジさんが、再生した。

 触手攻撃を迎え撃つように、まずは切り裂いたはずだった。

 しゅるり――と、復活していた。

 プリネウラだったか、すぐに再生する生物は、前世の知識が教えてくれる。もはや、色々合わさった巨大ナメクジさんは、何でもアリだった。


 風船バリアも、はじけた。


「げっ――」


 触手が、一斉に襲ってきたのだ。その威力は、巨大な鞭の攻撃だ。サイズが丸太であれば、岩が砕ける威力である。

 油断していれば、反応が遅れていたかもしれない。レックは、あわてて風船バリアを張りなおした。

 6つの水風船による、複合バリアなのだ、一つや二つ、水風船がはじけた程度では、恐怖に値しないのだが………


「スラッシュさえ、できれば………」


 ビームジャベリンを振り回しつつ、むしろ薙刀なぎなたと思いつつ、レックはつぶやいた。

 薙刀なぎなたの攻撃範囲は、振り回す範囲である。それも、常識外れの10メートルサイズである。


 少しムカデの人が頭を下げると、すかっと、空振りだ。致命傷を与えたい、頭をつぶしたいレックとしては、腹立たしいものだ。


 見物のお姉さん達は、どのような感想を抱くのだろうか。

 魔力によって、聴力も強化されているレックである。すこし、耳を傾けてみた。


 ディスられていると、覚悟をしつつ………


「うわぁ~………せめて、一撃でボスの頭を切り裂くとか、切り落とすとかしてほしいわね~………」

「そうだにゃぁ~、ずるずるぞわぞわ………夢に見そうだにゃぁ~」

「オレさぁ、ちょっと先に外の空気吸ってきていい?相棒を自由に走らせてやりたいんだよ」

「おれっちも付き合うぜ。ドワーフは洞窟ってイメージがあるけど、イメージだけだから。ただの山岳の妖精だから」

「あぁ~、もうっ、ボウヤはなんであんなチマチマ………勇者なら、もっと突撃しなってのよ~………あたしはゴメンだけどさぁ~」

「相変わらず、きついなぁ~………ピンチで成長するのを見るんが、醍醐味だいごみやのになぁ~」


 ディスられていた。

 応援の言葉であればと、甘い期待を寄せたのは、甘かった。せめて、討伐のヒントになることを言ってほしいレックである。


 見事に、見物だった。


 レックがピンチを迎え、新たな力を覚醒させる。そのような、漫画のような展開がお望みのようだ。


 もちろん、レーザーは禁止である。

 ビームジャベリンへと、そうして行き着いたわけだが………


 思いついた。


「そうだ、アリスの姉さんが、たしか――」


 マジック・アイテムを取り出した。

 見事に、レックの前でスラッシュを出したアイテムである。

 魔法のビームのサーベル専門のアイテムとして、使い勝手はとてもよい。魔力を高めるだけで、ビームサーベルが生まれるのだ。


 暴発に、注意なだけだ。


「無双するだけなら――」


 すでに、6メートルの長さの如意棒にょいぼうの先に、さらに長いビームサーベルが生み出されている。実は才能があるのではと、うぬぼれた、新たな力だった。

 長いほどに、敵に届きやすい。風船バリアの内側からの、安全対策だ。


 しかし、1本だけだ。


 では、2本なら?


「うわぁ~………これかぁ~」


 暴発の予感に、手が震えた。

 魔力を込めるほどに、サーベルは巨大になる。単純ゆえに分かりやすい、注がれた魔力に応じて、ビームサーベルが巨大化するのだ。

 マジカル・ウェポンとの違いだ。

 使用者の魔力次第で、いくらでも使い方が変わる、必要な魔力もたくさんで、選べる攻撃方法も、たくさんだ。


 暴発の危険も、忘れてはいけない。ヒーローアニメの巨大サーベルのように、巨大になった。剣と言うよりも、丸太サイズである。

 長さ10メートルの、光る丸太である。


 ラウネーラちゃんが、飛びついた。


「あぁ~、あれ、いい。やっぱり、あれがいいんだにゃぁ~」

「ちょ、ラウネーラ、ロボするんじゃないわよ。前世で天才だったって言っても、この世界はあんたの前世じゃないんだから」


 エルフちゃんたちが、なにか言い合っている。

 聞き耳の余裕はない、レックは暴走を抑えつつ、ボスにめがけて走り出した。


 水風船は、巨大な水風船である。一部を圧縮、平たくしても良い、攻撃がそれだけ、届きやすくなるのだ。

 もちろん、敵の攻撃は届かないが――


 残骸を、忘れていた。


「「「「「あぁ~」」」」」


 転んだ。

 ぬめぬめの、内臓だか血肉だか、カラフルな色々に足を取られてしまったのだ。テンプレと言うには情けない。自爆だけは、勘弁だ。


 それは、フラグだと自らに突っ込みつつ、恐る恐る、見上げた。


「………フラグった?」


 悪魔の偶然だった。

 それは、どちらから見た表現だろうか。巨大ビームサーベルは、ナメクジたちを横一文字よこいちもんじに、スラッシュしていた。

 そして、突き出した如意棒にょいぼうは、すこし距離をとっていた巨大ムカデの頭を貫いていた。


 丸太サイズのおかげだ、モンスターの証である、クリスタルを消し飛ばしていたようだ。本来は、最も価値のある部位であるのだが、仕方ない。

 もちろん、弱点である。ずるずると、巨大なナメクジが崩れていく。無限再生モンスターの討伐には、お約束だ。

 コアを壊せば、再生しないのだ。


「えっと………しょうり?」


 とりあえず、勝利はした。


 見物の皆様のブーイングは、無視であった。



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