ボス部屋は、おかわり自由 2
ダンジョンは、広大だ。
巨大な、ショッピングモールが開けそうだ。
全天候型ドームとも言うべき、広大なる空間も、たくさんある。洞窟はどこまでも続き、地下水脈に海にと、終わりが分からないことも少なくない。ただでさえ、迷い込めば命がないという迷宮なのだ。
オマケに、モンスターまでいる、危険ゾーンである。
突撃したレックは、涙目だ。
「いきなり、3匹ッスかっ」
ボスの、登場だ。
最初にたどり着く広大な空間には、ただでさえ、所狭しとザコの皆様がおいでである。キラーマンティスと言う殺人カマキリの他に、お庭の石や鉢植えを動かせば、必ずいる皆様もそろっている。巨大ダンゴムシに、ゲジゲジやそのほか、たくさんだ。
しかも、3メートルから5メートルという、ボスといってもよさそうなサイズである。この手のモンスターは、せいぜい50センチから2メートルなのだ。
ボスのサイズは、お察しだ。
大蛇のように、巨大ムカデが鎌首をもたげている。先日は、アーマー・5の皆様が撃破し、レックがトドメを刺したボスである。
どうやら、ボス部屋はお代わり自由のようだ。
「レーザーが使えれば、簡単だろうけど………」
オマケに、触手をぬめらせた巨大ナメクジの、登場だ。
しかも、2匹だ。
ビームジャベリンを構えて、レックは2歩、3歩と下がった。レーザーが禁止の、縛りプレイの最中である。
水風船に、ヌメヌメがへばりついて、レックは青ざめる。
「………SAN値、もう、ムリ………」
ギャグマンがでは、ここで気を失って、ぬちょぬちょの餌食だ。
リアルな今は、命のピンチだ。アーマー・5が助けに来てくれるだろうが、もちろん、そのような無様はしない。
レックは、叫んだ。
「やってやんよぉ~っ」
ヤケだった。
デタラメに、ビームジャベリンを振り回す。もはや、技も何も、あったものではない。前世を含めて、薙刀や剣術と無縁のレックである。
当たればいいのだ。
ボスのついでに、ザコの皆様も、切り裂かれていく。紫や緑や黄色やそのほか、色々が水風船バリアに、べっとりと色合いをカラフルに染めていく。
倒すほどに、レックの周囲はカラフルになる。
それが分かるのは、魔法の強化のおかげである。洞窟の暗闇でも、それなりにはっきりと見えるのだ。じっくりと観察すれば、SAN値がピンチだ。
見なければ、本気でピンチだ。
「さ、再生?」
ボスのナメクジさんが、再生した。
触手攻撃を迎え撃つように、まずは切り裂いたはずだった。
しゅるり――と、復活していた。
プリネウラだったか、すぐに再生する生物は、前世の知識が教えてくれる。もはや、色々合わさった巨大ナメクジさんは、何でもアリだった。
風船バリアも、はじけた。
「げっ――」
触手が、一斉に襲ってきたのだ。その威力は、巨大な鞭の攻撃だ。サイズが丸太であれば、岩が砕ける威力である。
油断していれば、反応が遅れていたかもしれない。レックは、あわてて風船バリアを張りなおした。
6つの水風船による、複合バリアなのだ、一つや二つ、水風船がはじけた程度では、恐怖に値しないのだが………
「スラッシュさえ、できれば………」
ビームジャベリンを振り回しつつ、むしろ薙刀と思いつつ、レックはつぶやいた。
薙刀の攻撃範囲は、振り回す範囲である。それも、常識外れの10メートルサイズである。
少しムカデの人が頭を下げると、すかっと、空振りだ。致命傷を与えたい、頭をつぶしたいレックとしては、腹立たしいものだ。
見物のお姉さん達は、どのような感想を抱くのだろうか。
魔力によって、聴力も強化されているレックである。すこし、耳を傾けてみた。
ディスられていると、覚悟をしつつ………
「うわぁ~………せめて、一撃でボスの頭を切り裂くとか、切り落とすとかしてほしいわね~………」
「そうだにゃぁ~、ずるずるぞわぞわ………夢に見そうだにゃぁ~」
「オレさぁ、ちょっと先に外の空気吸ってきていい?相棒を自由に走らせてやりたいんだよ」
「おれっちも付き合うぜ。ドワーフは洞窟ってイメージがあるけど、イメージだけだから。ただの山岳の妖精だから」
「あぁ~、もうっ、ボウヤはなんであんなチマチマ………勇者なら、もっと突撃しなってのよ~………あたしはゴメンだけどさぁ~」
「相変わらず、きついなぁ~………ピンチで成長するのを見るんが、醍醐味やのになぁ~」
ディスられていた。
応援の言葉であればと、甘い期待を寄せたのは、甘かった。せめて、討伐のヒントになることを言ってほしいレックである。
見事に、見物だった。
レックがピンチを迎え、新たな力を覚醒させる。そのような、漫画のような展開がお望みのようだ。
もちろん、レーザーは禁止である。
ビームジャベリンへと、そうして行き着いたわけだが………
思いついた。
「そうだ、アリスの姉さんが、たしか――」
マジック・アイテムを取り出した。
見事に、レックの前でスラッシュを出したアイテムである。
魔法のビームのサーベル専門のアイテムとして、使い勝手はとてもよい。魔力を高めるだけで、ビームサーベルが生まれるのだ。
暴発に、注意なだけだ。
「無双するだけなら――」
すでに、6メートルの長さの如意棒の先に、さらに長いビームサーベルが生み出されている。実は才能があるのではと、うぬぼれた、新たな力だった。
長いほどに、敵に届きやすい。風船バリアの内側からの、安全対策だ。
しかし、1本だけだ。
では、2本なら?
「うわぁ~………これかぁ~」
暴発の予感に、手が震えた。
魔力を込めるほどに、サーベルは巨大になる。単純ゆえに分かりやすい、注がれた魔力に応じて、ビームサーベルが巨大化するのだ。
マジカル・ウェポンとの違いだ。
使用者の魔力次第で、いくらでも使い方が変わる、必要な魔力もたくさんで、選べる攻撃方法も、たくさんだ。
暴発の危険も、忘れてはいけない。ヒーローアニメの巨大サーベルのように、巨大になった。剣と言うよりも、丸太サイズである。
長さ10メートルの、光る丸太である。
ラウネーラちゃんが、飛びついた。
「あぁ~、あれ、いい。やっぱり、あれがいいんだにゃぁ~」
「ちょ、ラウネーラ、ロボするんじゃないわよ。前世で天才だったって言っても、この世界はあんたの前世じゃないんだから」
エルフちゃんたちが、なにか言い合っている。
聞き耳の余裕はない、レックは暴走を抑えつつ、ボスにめがけて走り出した。
水風船は、巨大な水風船である。一部を圧縮、平たくしても良い、攻撃がそれだけ、届きやすくなるのだ。
もちろん、敵の攻撃は届かないが――
残骸を、忘れていた。
「「「「「あぁ~」」」」」
転んだ。
ぬめぬめの、内臓だか血肉だか、カラフルな色々に足を取られてしまったのだ。テンプレと言うには情けない。自爆だけは、勘弁だ。
それは、フラグだと自らに突っ込みつつ、恐る恐る、見上げた。
「………フラグった?」
悪魔の偶然だった。
それは、どちらから見た表現だろうか。巨大ビームサーベルは、ナメクジたちを横一文字に、スラッシュしていた。
そして、突き出した如意棒は、すこし距離をとっていた巨大ムカデの頭を貫いていた。
丸太サイズのおかげだ、モンスターの証である、クリスタルを消し飛ばしていたようだ。本来は、最も価値のある部位であるのだが、仕方ない。
もちろん、弱点である。ずるずると、巨大なナメクジが崩れていく。無限再生モンスターの討伐には、お約束だ。
コアを壊せば、再生しないのだ。
「えっと………しょうり?」
とりあえず、勝利はした。
見物の皆様のブーイングは、無視であった。




