ボス部屋は、おかわり自由
ビームジャベリンを手に、レックは振るえた。
「サクサクいけるぜっ!」
サクサクだった。
長さを6メートルにした如意棒に、さらにビームサーベルを生み出して、ザクザク、サクサクと、巨大ダンゴムシや巨大カマキリなどを切り裂いていた。
ジャベリンというか、巨大な薙刀である。
数日前、岩場の練習場で思いついた、新たなる力であった。
残念ながら、スラッシュ系はムリであった。それでも、風船バリアに守られながら、安全にサクサク出来る爽快感は、すばらしい。
前回はアーマー・5が活躍した大広間において、無双していた。
「無双だ、これ、無双だっ」
夢想していた。
レックの脳内では、巨大な薙刀を振り回す武者モードで、アイコンが、ダメージやポイントを数え切れなく表示する姿を、夢想していた。
ゲームのようだと、ご機嫌だ。
前回、アーマー・5が倒したモンスターたちは、まるでゲームのように復活していた。素材がとり放題の鉱脈扱いというところは、ラノベその他でお約束。時折、モンスターが大発生する点も、同じらしい。
あふれ出せば、大変だ。
その兆候を調査し、報告するのがレックが受けた依頼である。ついでに、倒してしまってかまわんのだろ――案件とも言う。
3分後………
「そ、そろそろ手伝ってくだせぇ~」
くたくただった。
体力としては問題なく、魔力も問題ない。常に魔力を流し続けなければ、ビームサーベルが維持できない。ただの如意棒であれば、モンスターに、逆につかまれて振り回されて危険だ。
モンスターに当たるのは、とても長くしたビームサーベルのみだ。触れれば倒せるという、一方的な攻撃だ。
ただ、如意棒から延びた一本だけの攻撃である。ジャベリン無双はロマンで、夢であるのだが、だらだらと続けば、疲れてくるのだ。
なぎ払っても、なぎ払っても、モンスターが湧いてくるのだ。
レックは叫んだ。
「あんたら、それでも人間かあああ」
お約束の、セリフであった。
本来の意味を放置した、アーマー・5へと向けた、フリである。人間以外の種族で構成されたパーティーへ向けた、ギャグである。
返ってくるセリフと、セットなのだ。
「おれ、ケンタウロス」
「おれっち、ドワーフ」
「あたし、エンジェル」
「うち、マーメイドやでぇ~」
「もちろん私は、エルフよ」
「ボクもだにゃぁ~」
人間ではない皆さんは、仲良しだ。
本日は、ラウネーラちゃんもご一緒だ。みんな仲良く変身の『アーマー・5』のメンバーではないが、退屈して駄々をこねて、連れてくることになったのだ。
絶対に手出しをしないという約束もセットだ。
アーマー・5が楽しくバトルをしていても、見物は退屈だろうが、とにかく助けてほしかった。
「あ、あの………お約束ってことで、そろそろ――」
レックは右へ左へ、きまぐれに斜め上から下へ向けて、デタラメにジャベリンを振り回していた。
広大な広間で、涙目だ。
見学のお姉さん達は、楽しそうだ。
「いやぁ~、おれたちはお手伝いだしぃ~」
「見張りだしなぁ~」
「そうそう、ボス部屋からモンスターがあふれ出ないようにね?」
「せやでぇ~、男を見せななぁ~?」
レックが巨大なジャベリンで滅多切りに巨大モンスターを討伐するシーンは、どうやらお姉さん達には新鮮らしい。
「さっすが勇者(笑)だよね~、オリジナルを生み出しちゃうもん」
「ふっ、それでこそ勇者(笑)なんだにゃぁ~」
金髪のロングヘアーは、本日はポニーテールの気分のコハル姉さんは、ご機嫌だ。どうやら、ハデでなくとも、オリジナルならそれなりによいらしい。
プラチナブロンドはツインテールの気分のラウネーラ姉さんも、ちゃんとほめてくれている。
いや、某・宇宙世紀はロボットアニメである。本能で、自分好みの気配を感じ取ったのかもしれない。
次回あたり、スーパー・ロボットが装備していそうだ。
ただ、巨体で暴れるため、やはり洞窟では禁止だろう、惜しいことだ。レックは釣竿に振り回される悪ガキのように、ビームジャベリンを振り回し続ける。まるで鞭のようにしなるビームサーベルは、次々とモンスターを切り裂いていた。
切り裂かれた残骸が、山積みだ。
「SAN値が、SAN値がぁああああ」
ピンチだった。
ナメクジタイプのモンスターも、色々と合体したキメラらしいものも、深い海のそこから訪れる混沌のように、這いよってくるのだ。
海でなくとも、はいよってくるのだ。
混沌が、深い海の底から………
「あ、フラグだ――」
レックは、唖然とした。
そして前世の浪人生は、遠くを見ていた。
なぜか防波堤で、麦藁帽子に釣竿スタイルで、はるか水平線を見ていた。
なぜ、海なのだろうか。
なぜ、麦藁帽子なのだろうか。
もちろん、フラグである。見物人のお姉さん達も、騒がしくなってきた。
「おぉ~、すっげぇ振動………」
「オレは、パス?」
「あたし、ああいうのは、ちょっと………」
「うちも………なんやろ、洞窟から出てくるかと思うと………」
洞窟全体が、揺れているようだ。パラパラと、天井から小石が、コケが落ちてきて、バリアモードでなければ、大変だ。
一部のザコは、それだけでつぶされていく。これは、ボスの登場の前フリである。ゲームで言えば、緊迫のBGMもセットで、心臓がドキドキしてくる瞬間である。
前回は、10メートルサイズの巨大ムカデであった。
ゲームによってはワンパターンで、楽しませるシステムならランダムで数が増えたり、さらに強敵になったりする。
巨大ビームジャベリン手に、レックは一歩、二歩と下がっていく。巨大な影から、すこしでも逃げたいのだ。
「レックのジャベリン、効果あるといいわねぇ~」
「そうだにゃぁ~、岩より硬そうだにゃぁ~」
エルフちゃんたちは、やっぱりのんびりとしている。
レックはそれ所ではない、前回はアーマー・5の皆様が協力してくれて、レックは吹き飛ばされて口の中で大爆発というボス戦だった。
巨大ムカデの、復活だ。
10メートルを超えているのに、よくも湧いてくるものだ。ボスも、おかわり自由なのだろうか、もちろん、そんなに甘くはない。巨大ムカデのほかに、新たなボスまで現れた。
ぬらぬらという、ぬめぬめが現れた。
「うわぁ~、近づきたくないわねぇ~」
「ボクは、見学だにゃぁ~」
「おれ、今回はパスかな」
「おれっちも」
「あたし、エンジェルなので――」
「いやいや、マーメイドでもあかんって~」
アーマー・5+ラウネーラちゃんは、戦いたくないようだ。先日は、巨大ムカデを元気一杯に吹き飛ばした皆さんである。
ムカデ意外が、理由である。
「一人で、やれと………?」
巨大ムカデが2匹に、巨大ナメクジ(触手つき)の、登場だ。
深い海の底から這いよってきそうな混沌が、ダンジョンの入り口の大広間に現れた。久々のエサであるレックに引き寄せられたのだろう。
SAN値は、本気でピンチだった。




