答えは、ビーム・ジャベリン
ショートポニーテールが、風に揺れる。
レックの髪の毛が少し伸びてきたということで、エルフちゃんたちは、レックの髪の毛で遊ぶことを覚えたようだ。元々、それなりの長さがあったが、遊べるほどになったのは最近だ。
このまま、背中を覆うまで伸ばせば、もっと遊べると楽しげだ。
忘れたことにして、レックは空を見上げた。
「そう、答えは目の前にあったんだ」
浸っていた。
赤紫カラーのステッキを手にして、静かに魔力を通す。生み出された魔力を一箇所に集める、たったそれだけの補助でも、馬鹿に出来ない。
まぁ、普通なら――
「レックはベル坊といっしょで、マジック・アイテムが苦手………っていうか、無謀?」
「けど、ベル君よりはマシだにゃぁ~、まだ、破裂させてないにゃぁ~」
エルフちゃんたちは、レックに付き合って練習場の岩場にいた。
レックのように、エルフレベルの魔力の持ち主の場合、力任せに魔法を生み出すことも出来る。
結果、力任せでアイテムを扱い、壊すようだ。
前例が、ぶっ壊してばかりだったかつてベル坊と呼ばれた少年こと、テクノ師団の隊長殿である。
『大火炎パンチ』で、オラオラオラ――をするおっさんである。
一方、レックは伸びる可能性があるらしい。せめて、ダンジョン攻略に必要な攻撃力を手にしたいものだ。
レックは、誰に言うでもなく、解説を始めた。
「バブル・スプラッシュでわかった。俺は魔法を遠くへ飛ばすのが苦手なんだ。発射の媒体が手元にないと………」
バブル・インパクトは、そのひらめきによって生まれた。ただ、おっさんのようにこぶしに魔力を貯めて、オラオラオラ――をするつもりはない。
怖いのだ。
ビビリのレックは、目の前で爆発を起こすほど、度胸がない。いくらバリアがあっても、怖いのだ。出来れば、離れて爆発させたい。
アームド――と、レックは如意棒を最大の長さに伸ばした。今のレックが操れる最大の長さ、6メートルである。
まだ15歳の少年レックには、長すぎるサイズである。
魔力による身体強化のおかげで、とりあえず扱えるが………
「転生した主人公は、新たな力を手に入れるのだっ」
さらに先端に、魔力の輝きを生み出した。
まるでビームサーベルのように、しかも、とても巨大なサーベルが生み出された。
ジャベリンの、登場だ。
レックが手にした如意棒の先に、ビームサーベルと同等の長さの、光るサーベルが生み出された。
エルフちゃんたちも、満足だ。
「へぇ~、手元にとどめるのは、慣れてきたじゃない」
「ふっ、さすがボクのライバルだにゃぁ~」
「………あんた、ヒーローか猫ちゃんか、どっちかにしなさいよ」
「うん、ボクもそう思うにゃぁ~、バランスが悪いにゃ~」
「………気に入ってるのにゃね?」
「にゃ~………」
にゃ~、にゃぁ~と、エルフちゃんたちが、楽しそうだ。せっかくレックが新たな魔法を、ジャベリンを生み出したというのに、すでに忘れられている。
レックはジャベリンを、空へと掲げた。
「まぁ、いいさ。ヒーローは孤独なんだ」
バブル・インパクトを如意棒の先に生み出すことに成功した。そのまま殴りつけ、爆発力でモンスターを倒すことは出来た。
同じように、ビームサーベルをステッキの先に生み出せば、長く伸びる槍の先端が、とても長い薙刀になるのではないか。
なぎ払えば、バリアの内側からサクサクやれるのではないか。
「ビーム・ジャベリンって、あったんだ。そうだ、某・宇宙世紀が教えてくれた。ビームサーベルと二刀流もしてた」
まだ乾電池がないため、ビームサーベルは不足だが、魔力でビームサーベルを生み出す魔法ができれば………
ぬ~――っと、巨大な影が現れた。
「あらん、アイテムがお望み?」
魔女っ子マッチョが現れた。
マジック・アイテムを扱うお店の店長さんだ。本名はドッドという、山賊スタイルなら、ドッドのお頭と呼ばれて、そちらならイメージそっくりだ。
魔女っ子であるため、迫力満点だ。
ビームサーベルを、手にしていた。
いや、サイズがやや大型で、光る剣のサイズもまた、大型に見える。
「レックちゃんのビームサーベルの原型なの。クリスタルが中にあってね?魔力だけでビームサーベルが生まれるの。基本はサーベル限定だけど………」
魔女っ子マッチョなアリス姉さんは微笑むと、そのサーベルのサイズが、数倍の分厚さに膨れ上がった。
サイズが、自在のようだ。
さらに――
「えいっ――」
振りかぶった。
かわいく、きゃるるんっ――と、スラッシュした。
3メートルほどの光の刃が、ぶわっ――と、風を巻き起こす。しばらくして、目の前の岩場に到達する。
すぱ――と、真っ二つだった。
「すっげぇ~………岩が真っ二つだ」
「さすがアリスちゃんね」
「さすがだにゃぁ~」
轟音が、響いた。
どうやら、中級魔法のスラッシュ系のようである。カット系の上位であり、威力は数メートルサイズのモンスターを一撃に、真っ二つだ。
魔法の剣を掲げ、スラッシュという技は、レックがお世話になったパーティーの剣士のおっさんが、得意としていた。
ゴードンの旦那は、思えばスラッシュを連射するおっさんだったのだ。
ビームサーベルでも、出来るようだ。
「まぁ、そこがマジカル・ウェポンとの違いね?あくまで生み出しやすい媒体ってところでね?魔力次第でサーベルの長さが自在………あぁ、ベルちゃんみたいに魔力を込めすぎると、爆発するから、注意ね?」
にっこりと、笑っていた。
エルフちゃんたちは思い出したように、笑い始めた。
そのときの様子が、レックには良く分かる。炎の剣を生み出したい、その気持ちで魔力の炎が爆発して、アイテムがはじけ飛ぶのだ。
調子に乗りやすいと自覚しているレックは、反面教師の、人生の先輩に感謝をする事にした。
「いやぁ~、そんなフラグみたいなこと、言わないでくだせぇよ~」
新たな方向性が見え始めたことで、レックは油断していた。それは、フラグであったのだ。
おっさんが背後に接近しており、いい度胸してるな――というフラグを、しばしレックは警戒したのだが………
土煙が、走ってきた。
「………なんか、土煙が――」
「近づいてくるわね?」
「ワンちゃんだにゃぁ~」
「あらあら、相変わらず、仲がいいわね?」
ブルドックの鳴き声が、聞こえてきた。
はっ、はっ、はっ――という、うれしそうな声である。
愛しのジョセフィーヌが、レックの気配に引き寄せられたのだろう。夫婦?水入らずでバニーさんとご一緒だったはずのおっさんが、悲鳴を上げていた。
お散歩中のようだ。
「ぎゃぁ~、まて、まて、まてえええええ」
さぞ、スピードが出ているだろう。レックは、魔法でバリアを生み出した。ジョセフィーヌちゃんの突進をまともに食らえば、命がないのだ。
レックはジャベリンを解除し、正面に水球を生み出した。
水風船バリアが、やさしさだった。乗用車サイズの巨大ブルドックなのだ、巨大な水風船にへばりついて、そのまま遊んでくれるだろう。
それが、油断だった。
「げっ――」
消失した。
さすがは、かつて勇者(笑)と呼ばれたおっさんの生み出したブルドックである。レック後時のバリアなど、一瞬で噛み千切った。
すぐにバリアを張りなおすことが出来るが、安全地帯ゆえの、油断があった。
結果――
「ぐぼ、ぼばばびっ………」
レックは、愛しのジョセフィーヌちゃんの口の中で、あがいていた。
エルフちゃんたちは、にっこり見ていた。
「おぉ~、レックよ、食われてしまうとは情けない」
「情けないんだにゃぁ~」
「あらあら、仲良しね?」
お約束だった。




