レックと、ビームサーベル
マジカル・ウェポン
魔法の力が強くない冒険者にとって、希望のアイテムだ。
使い捨ての弾丸は、古くは、マジック・クリスタルを加工した、使い捨てのアイテムだったと言う。
現在、その仕組みを効率化され、ガンアクションが実現された。
ハンドガンやショットガンにスナイパーライフルなど、レックも近距離から長距離までと、様々なマジカル・ウェポンを手にしていたが………
短いステッキを手に、つぶやいた。
「忘れてた………武器ショップのおっちゃんのオススメを」
購入したものの、アイテム・ボックスで眠り続けていた武器を手に、岩場にたたずんでいた。
魔法の練習場である、周囲には、使用中と言う警告ランプがある。万が一の暴走に、見学者が巻き込まれないための措置である。
レックは魔力を込めながら、スイッチを押した。
「光れっ、ビームサーベルっ」
まるで、某・宇宙世紀に登場する武器である。
基本、シューティングのレックは、使う機会がなかった。接近されれば、終わりだったためだ。どのようなモンスターであれ、たったの一撃で倒されるザコだと自覚のあったレックは、安全な道を選んだわけだ。
今は、スフィア・バリアもあれば、拡大した広範囲バリアの水風船もある。接近される恐怖に打ち勝てば、使えない武器ではない。
適当に、ぶんぶんと振り回す。
懐中電灯を振り回すように、すこし、チカチカと余韻が残る。
「触れるだけで倒せる武器………小さな魔力で攻撃し続ける武器………か」
ビームの剣が生み出された。
触れるだけで、鉄の扉を溶かすサーベルである。火気厳禁で、しかし、射程は剣の届く範囲と、室内でも扱える武器である。
レーザー禁止のダンジョン攻略には、ありがたい選択肢だ。
「これで、オレはまだ戦えるっ」
アーマー・5の助けで生還して、数日。レックは新たな武器の必要性を痛感、忘れていた武器を手にして、浸っていた。
駄々っ子の声が、襲ってきた。
「ねぇ、ボクだけ仲間はずれって、どういうことだにゃぁ~」
猫モードが続くエルフちゃんが、レックの背中にのしかかってきた。
プラチナブロンドのポニーテールが、本当に尻尾のようで可愛らしい。パイロットスーツの尻尾も、そろそろビニールコードから猫の毛並みに変化しそうだ。
見た目12歳であるため、許されるファッションである。
「ちょ、あぶないっすよ?」
いや、サーベルの輝きなど気にしない、触れても火傷すらしないのだろう。レックをオモチャにするエルフちゃんが、じゃれ付いてきた。
セーラー服が、追って来た。
「ラウネーラ、あんたが暴れたら、レックのレーザーどころじゃないからよっ」
金髪のツインテールちゃんが、お姉さんぶった。
子供同士のケンカに見えるが、実年齢は不明である。そして実力は、少々調子に乗ったレックがうなだれる、エルフである。
洞窟で暴れれば、即座に封鎖のレベルである。そのため、マジカル・ウェポンシリーズを基本とした攻撃スタイルに限定されている。
ラウネーラちゃんの場合は、スーパー・ロボットであるため、進入禁止だ。一人、仲間はずれであるのだ。確かに、お子様が駄々をこねても、仕方がない。
しかし、レックは言いたかった。
「あのぉ~………姉さん達、魔法の練習中なんで――」
もちろん、小物パワーでお伺いだ。
魔法の練習中は、とても危険である。そんなことは口にするほうが失礼な、実力はレックごとき小物が足元に及ばないエルフちゃんたちだ。
自称で始まったお師匠様ごっこも、本当にレックの面倒を見ているため、逆らえないエルフ様だ。
素手で、サーベルをつかんできた。
「レックは、何をピカピカしてるんだにゃぁ~」
「そんなオモチャじゃ、ザコくらいしか倒せないよ――だって、届かないもの?」
新たな力が、さっそくディスられた。
前世の浪人生は、そうだった~――と、頭を抱えてのけぞっていた。サーベルの長さは、サーベルの長さしかないのだ。
バリアの厚みを通り越して、果たして、ダメージを与えられるのだろうか。スフィア・バリアが楕円のレンズ形状といっても、厚みがある。こちらの攻撃は素通りして、モンスターの攻撃を防ぐ便利バリアなのだが………
なお、モンスターをたやすく切り裂くサーベルは、エルフちゃんたちには素手で握っても問題ないらしい。
つかんだまま、面白そうだ。
涙目で、エルフちゃんたちを見つめる。
「………やっぱ、レーザーだめっすか?」
「だめ、落盤よ」
「ボクだって、ダメなんだにゃぁ~っ」
手詰まりだった。
レックが手にした力では、ダンジョン攻略ができないという宣言であった。
アーマー・5と共にもぐった、ダンジョン攻略一日目は、レックがピンチで終った。
そもそも、助っ人であるアーマー・5《ファイブ》がいたからこそ、レックは突撃を許されたのだ。
風船バリアがあるため、生き残ることは出来るという安心も、理由であった。
ただ、勇者としてダンジョンの調査を引き受けたのはレックなのだ。アーマー・5ではなく、レックが中心となるべきなのだ。
依頼を引き受けた冒険者としての、プライドだった。
責任というよりも、プライドなのだ。
「あの、もうちょっと威力を調整できるアイテムって、ありやせんか?」
「でもねぇ~、マジック・アイテムを使っても、細かな調整が出来なかったんでしょ、ベル坊みたいに」
「なつかしいにゃぁ~、最後には魔力を全力で注ぎ込んで、破裂させてたにゃぁ~」
仲良しエルフである。
機嫌が悪かったラウネーラちゃんも、かつての勇者の話題に参加していた。もちろん、レックがこの世界で最初に出会った転生者である、テクノ師団の隊長殿のことだ。
ベル坊こと、本名がベルバートだと知ったのは、最近のことだ。
レックはもちろん、気安く呼ぶつもりはない。おっさんと呼ぶことは定着していることであるし、ベルバート殿――と呼ぶのも、コレジャナイ気分と違和感だ。
失敗談の暴露が、続いていた。
「剣じゃないから悪いんだぁ~って、魔法の剣を買ったんだけどさぁ~」
「炎を出すたびに、ぶっ壊れたんだにゃぁ~」
必殺技の『大火炎パンチ』で、オラオラオラ――と、巨大モンスターを殴り倒すおっさんだ。修行に耐えかねて、爆発したシーンが目に浮かぶようだ。
ビームサーベルの輝きを見つめて、つぶやいた。
「あ、弱まってきて――」
電池切れ寸前のライトのようだ。
そして、消えた。
懐中電灯だと思えば、とても短い輝きの時間であった。まさか、面白半分にエルフちゃんたちが剣を握り締めたことが、理由ではないだろうか。
ビームを撃ち続けるというなら、長く持ったとも言える。そういえば――と、レックは説明書を取り出した。
この世界には、印刷技術が存在している。活版印刷をうろ覚えで再現して、莫大な富を得るパターンは、ムリである。
レックがチートを思いついて、思いつくたびに断念したイベントの一つであった。
じっくりと、説明書を見つめていた。
「えっとぉ~――電池切れ、注意」
ギャグだった。
マジカル・ウェポンシリーズはビームを撃つために、マガジンが必要である。弾切れになれば、撃てないのだ。
思えば当然である、魔力が少なくとも攻撃力を得られる。それがマジカル・ウェポンシリーズなのだ。本人の魔力が少なく済むのは、魔法の弾丸のおかげなのだ。
ビームサーベルは、電池で動くようだ。
スイッチを切り、説明書どおりに握っていた底の部分をくるくると回す。まるで、懐中電灯から電池を取り出すしぐさである。
レックは、突っ込みたい衝動を抑え切れそうにない。
「………単三――って、そのまんまかよぉおおおお」
単三と、書いてあった。
わざわざ、漢字で書かれていた。
この世界の人々には通じない文字である、異世界ファンタジーでお約束の、脳内変換のおかげで、この世界の文字が普通に読める。
この世界で生まれ育ち、得た知識に加え、前世の知識がある状況だ。自然と、感覚として異世界の文字が理解できるだけだ。
「せめて、クリスタルにして欲しかった………」
電池、買ってこなきゃ――
前世の浪人生が、コンビニ袋を手にしていた。もちろん、レックが受け取ることは出来ない、レックの頭の中の寸劇である。
ただ、なにか答えを得たようだ。
「電池がなければ、おれが電池なら………」
如意棒を、手にしていた。




