ダンジョンと、ピンチ
チートがしたい。
異世界から転生したのだ。何度も現実を目の当たりにしたレックであっても、分かっていても、思ってしまうのだ。
主人公、キタ――と
そして、主人公であるからこそ、トラブルに巻き込まれる。国王さえ主人公を頼ってくるのだ。
そうしてダンジョンに訪れたレックは、サブマシンガンを両手に、叫んだ。
「助けてくだせぇ~っ」
モンスターの団体様が、目の前だ。
ワラワラと、レックのバリアにたくさん張り付いている。それも、洞窟の有象無象という巨大団子虫や巨大カゲジゲジや色々が、レックの精神を削っていた。
お庭の大きな石や植木鉢を動かすと蠢いている、ヤツラである。
ダンジョン攻略のために、レックはダンジョンの町を訪れていた。そして、下見として数日の宿泊に、バイクや武器の練習に余念がなかった。
調子に乗ってバイクを転がして、自分も転んだ日の午後、やっと入り口から少しもぐってみたのだが………
「あぁ、バリアに張り付いてもぅ、何の罰ゲームっすか」
ピンチだった。
バリアがあっても、ピンチだった。
ダンジョンの中は暗く狭い洞窟だと思っていたら、商店街が丸ごと入っても余裕がある広大さであった。いいや、それにしても広すぎる、ダンジョンの中は、全天候型のドームと言ってもいい規模で、巨大だ。
モンスターも、巨大であった。
「もう、レーザーいいっしょ、こんだけ広いんだから、多少は――」
「だめよ、あんたのレーザー、射程がキロ単位なんだからさ、余裕で大事故だよ?」
コハル姉さんが、容赦ない。
紺色セーラー服に、黄金のツインテールのコハル姉さんは、お師匠様を気取っていた。実際に魔法の手ほどきをしてくれたが、威力を抑えた攻撃が出来ないとは、なんともバランスの悪いことだ。
結局、武器はサブマシンガンだ。如意棒はそれなりの威力を持つが、まだまだ実戦では怖いのだ。
危険だと、気付いたのだ。
そう、気付いてしまったのだ。こちらの攻撃が届くということは、相手もこちらを捕らえたも同然だと。如意棒を伸ばして攻撃すれば、即効で、モンスターの大群に捕らえられてしまうと。逆に、レックが振り回されてしまうと気付いたのだ。
ハイレベルな攻撃力を持っても、経験はザコなレックは、そのために助っ人に期待した。ランチタイムで話題に上った人々も、到着しているのだ。
コハル姉さんの隣に並ぶ皆様へと、お願いした。
「あの、助っ人の皆さん、そろそろ、そろそろぉおおおお」
猫のおじ様が語っていた。
ヤツラは、すごい――と
ランチタイムのことだった、猫のおじ様が、教えてくれた。コハル姉さんの電話の相手の情報を、教えてくれたのだ。
バーテンダースタイルとは、情報屋さんのテンプレを守ってくれていて、ちょっとうれしかったレックである。
そして、教えてくれた。
コハル姉さんとなじみの冒険者グループで、高レベルだという。
だが――
「レック君、ガンバ~」
「ば~」
「ガンガンいきなさいよ」
「必殺技、まだかいな」
無常だった。
ハイレベルな冒険者グループで、危険な場所を好む命知らずの皆様だという。しかも、全員が少女のような外見だというのだ。ちょっと、ドキドキしたレックは、やはり男子である。
今も、心臓がドキドキして止まらない。
「おた、おたすけええええ」
レックは、モンスターの大群を前に、涙目だ。
新人を補佐するということで、まだ準備が不安のレックへと向けて、到着早々に、言ってくれたのだ。
任せろと、安心して、突撃しろと。
その結果が、置いてけぼりである。こうなれば、あのセリフを言わざるを得まいと、レックは決心した。
レックは、恨み言を口にした。
「あんたら、それでも人間か――」
口にした。
即座に、大声でお返事があった。
「おれ、ケンタウロス」
「おれっち、ドワーフ」
「あたし、エンジェル」
「うち、マーメイドや」
「見て分かるでしょ、エルフよっ」
仲良しパーティーは、見事に連携していた。
いつの間にか連絡しあっていたのだろう、お約束のポーズである。もちろん、コハル姉さんもご一緒の、人間ではない5人組だ。
そして、全員が人間ではないための、お約束のセリフだった。
日本人がもたらしたに違いない、熱血なセリフである『あんたら、それでも人間か』という、ギャグである。
本来の意味合いとしては、自分を見捨てた冒険者仲間に向ける、恨み言だろうか。本当に見捨てられる状況では、冗談にもならない。
お約束は守ったのだ、冗談はほどほどに、そろそろ助けて欲しかった。
「――ってことで、そろそろ本当に………」
ダンジョンのお約束として、どんどんとモンスターが登場だ。
サイズは、さすがはモンスターの大発生の時期だといえる。入り口付近の、最初の大きな空間で登場にしては巨大だ。
事前のレクチャーの通りだ。普段は、1メートル程度のモンスターが数倍のサイズになるのだと、しかも、湧き出る頻度と大群が、悪夢だという。
本当に、悪夢だった。
「いやぁ、あんたが今の勇者(笑)だろ?邪魔しちゃ悪いって、おれ、ちゃんと気を使ってんだぜ?」
背の高い、スレンダーなケンタウロスのお姉さんが腕を組んで笑っていた。
「へっへ~、おれっちもそう思うぜ、勇者(笑)様の活躍をちゃんと見てやるって」
10歳に満たないように見える、半ズボンスタイルのドワーフの姉さんが豪快だ。
ロリっ子なのか………あるいは、成人していないお子様であるのか、種族の違いは、神秘である。エルフの国でであったおじ様のドワーフより若いのかすら、分からない。もちろんレックは、年齢を聞く無礼を働くつもりはない。
「そうよ、しっかりしなさいよね」
「せやで、遠慮せんと、どーんといったれぇ~」
そして、この世界で初めて見る種族の、エンジェルとマーメイドである。一度に新たに二つもの種族との遭遇は、興奮したものだ。
これぞ、ファンタジーであると。
だが………
「え、遠慮はいらないんで、オレっちがレーザーしちゃうと、洞窟が、洞窟がぁあ――」
言いながら、リロードをする。
足元のマガジンを数える気力は失せている。感覚で、そろそろ残りが心もとないと分かる。次に取り出すのはハンドガンだ。
あるいは、ついに如意棒の出番なのか。6メートルに伸ばして、魔力を込めて叩きつけても、一匹が限度だ。すぐに如意棒を持つレックのほうが振り回されるに違いない。そんな予感を振り払うほど、如意棒でのバトルを練習していない。バイクで逃げるにも、やはり練習不足だ。
長く、相棒エーセフを放置していたツケというか、出番はなかなかなかった運のせいだというか………
おや、運のなさが現れた。
「げっ、巨大モンスターっ?」
巨大だった。
目の前のゲジゲジやミミズやダンゴ虫やカマキリの皆様も、1~3メートルサイズの巨体である。雑魚モンスターと言えなくはない、あくまで単体の場合だ。
10メートルサイズのモンスターは、レックがレーザーを放たねばならない強敵である。レックの持つマジカル・ウェポンシリーズの火力では、とても歯が立ちそうもない装甲だ。
きっと、戦車レベルだ。
「う~ん、並みのマジカル・ウェポンじゃ、ムリかな?」
「いやぁ~、隙間に打ち込めば………」
「だめよ、ボウヤにその技術はなさそうだし――」
「なら、うちらの出番………かな?」
「そういうこと………じゃぁ、みんなっ」
どこかで見たポーズである、まさかと思って振り向くと、コハル姉さんが、懐かしいポーズを決めていた。
もちろん、手にはケータイがある。
いいや、5人、みんなだ。
「いくわよっ」
「おうっ」
「いくぜっ」
「いいわよっ」
「ええで」
5人が、輝いた。
手にするケータイも、輝いた。
そして、叫んだ。
「「「「「ルーン・テクニカルパワー、アーム・ああぁああっぷ」」」」」
久々の、ルーンでテクニカルなパワーが、アームアップするらしい。
みんなで仲良く、変身だ




