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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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ダンジョンの町の、ランチタイム


 もうもうと、湯気が立ち込める。

 肉汁に、甘いソースが食欲をそそる、目玉焼きは、もちろん半熟というデミグラスハンバーグが、レックの目の前で湯気を立てていた。

 その隣には、コーンポタージュも湯気を上げていた。


 クルトンも、浮かんでいた。


「ファミレスの、ハンバーグセット………っすか」


 ハンバーグセットだった。

 ライスもあり、レタスなどは、新鮮な水の滴りに驚きである。ここは、場末の宿という外見のファミレスだった。

 タルが転がり、タルがイスという店内は、清潔だった。


 古びて見えるのは、演出だ。ここが冒険者達の稼ぎ場所として、普段はにぎわっていると教えてくれる。

 目の前の魔女っ子マッチョは、レックを見ていた。


「ほら、熱いうちに」


 マッチョの前には、フルーツパフェがあった。

 2メートルと言う魔女っ子マッチョを前に、とても小さく感じる。


 というか、ソフトクリームにチョコレートに、南国出身らしいフルーツの盛り合わせまでが、この世界の発展を教えてくれる。

 マジカル・バイクの集団が活躍中だ。アイテム袋をたくさんぶら下げて、ぱぱらぱ、ぱぱらぱ――と、爆走しているようだ。


 転生者たちは、本当に仕事をしすぎだ。チートとして役立てそうな知識は、ばかげた魔力と、それによって生み出された富を背景にして、再現している。

 転生者として、レックの強みはなんだろうか。やらかしてくれたおかげで、本当に前世で親しんだ味が、目の前だ。


 レックは、フォークとナイフを手に、宣言した。


「いただきます」


 何の肉なのか、ちょっと聞くのが怖い。

 ここはダンジョンの周囲に自然発生した町である。どこから肉が届くのか、供給源は、山の洞窟なのだ。

 ダンジョンなのだ。


 フォークとナイフを持つ手が、少し惑うのは、そのためだ。


 隣では、エルフちゃんたちがお子様ランチを食べていた。


「レック、ちゃんと食べないと、大きくなれないわよ」

「そうだにゃぁ~、しっかり育つんだにゃぁ~」


 紺色セーラー服に、黄金のツインテールのコハル姉さんは、お姉さんぶっている。そして、紺色猫耳パイロットスーツのラウネーラちゃんは、本日はプラチナブロンドのポニーテールであった。

 最近、猫耳ファッションばかりであるが、ヘアスタイルまで変えるのは珍しい。銀色の輝きの金髪が、犬の尻尾のようだ。


 見た目は12歳であるため、エルフちゃんたちは何をしてもおかしくない。可愛らしく、胸元にお子様エプロンをしていた。

 目の前のお子様ランチは、何と、猫のお顔を模したトレイという、見て分かるお子様ランチであった。


 転生者の先輩は、本当に仕事をしすぎである。

 チキンライスは富士山スタイルで、もちろん爪楊枝つまようじの先には猫の旗が飾られている。

 小さなオムレツにハンバーグに、そしてナポリタンである。


 ケチャップの再現など、どこでトマトを仕入れたのかという話だ。そもそも、お米もどこから………など、もはやツッコミなど追いつかない。


『ミソ将軍』に『ショウユ仙人』に『マヨネーズ伯爵』に………


「あぁ、『ケチャップ大佐』のことか………赤いよな、たしかに」


 おっさんが、口元をケチャップまみれにして、遠くを見ていた。

 お世話をするのは、ボンレスハムなおなかのバニースーツの、バニーさんである。クリスティーナというお名前の、ウサ耳の獣人でおいでだ。そして、異世界を前世にもち、おっさんとは古い仲らしい。


 くっついちゃえよ――


 そんなツッコミを、レックは入れるつもりはなかった。人生、色々なのだ。


「知らなかった、ケチャップ大佐………か」


 レックが知らないことは、たくさんありそうだ。

 ダンジョンは、王の都から、ホバー・馬車で一日の距離にある。大量の素材を都へ運ぶ供給源であると同時に、モンスターがあふれ出せば、即座に王の都の危機という危険をはらんでいる。


 勇者の出番だ。

 下見のため、とりあえず先遣隊としてやってきて、しばらく様子を見ているのが、今の状況である。

 武装を整え、場合によっては協力者と突入だ。テクノ師団のアーマーで武装しているおっさんも、協力してくれるのだろうか………


 レックは、とりあえず単独の突入を想定していた。


「とりあえず、慣れない武器が危なそうなら、シャボン玉で身を守りながら、マジカル・ウェポンで乱射………ッスか?」

「まぁ、ボウズの魔力なら、バリアしながら撃ちまくるのが基本だな。逃げ道を確保できる、全身すっぽりのバリアだろ?」

「でも、レックちゃんの持ってる武器って、せいぜい中級魔法の半分でしょ?市販品ばかりだったら………」

「けどさ、私のマシンガンも、そこそこモンスター倒せるよ?」

「でも、ボスクラスだと、不安だにゃぁ~」

「ふふっ、それを何とかするから勇者じゃないの?」


 作戦会議は、ランチタイムに行われた。

 目指せ、ダンジョン攻略ということで、レックはバイクに如意棒にょいぼうにと練習をしていた。

 調子に乗って転倒事故をしでかして、みなさんとランチタイムとなったわけだ。


 ご一緒するのはエルフのお姉さん達に、魔女っ子マッチョに、テクノ師団の隊長殿と、その愛人?のバニー・ガール様だ。


 年齢はボンレスハムとなっていても、バニー・ガールは、永遠のバニー・ガールなのだ。表では、愛しのジョセフィーヌちゃんが、エサをバクバク食らっているだろう。


 おっさんが代金を持つのだ、たんと食べさせてあげて欲しい。レックはそう思いながら、自分の実力の不安定さに、不安になる。


「威力か………レーザーなら――」

落盤らくばんだな」

「まぁ、生き埋めかしら」

くずれるわよ」

「大変だにゃぁ~」

「困っちゃうわねぇ~」


 困っていた。

 レックの攻撃魔法は、数十メートルサイズのモンスターにも通じる。オリジナルのレーザーと、派生型のトルネードである。


 洞窟では、落盤らくばん事故だ。


 天井が、横穴がくずれて、生き埋めだ。

 威力が強すぎるために、レックの得意技は使うことが出来ない。マジカル・ウェポンシリーズの攻撃力も、ボスクラスが大量発生と言う状況になれば、危険だ。

 残る手段のマジック・アイテムも、レックは使いこなせていない。


 ステッキの先に魔力を集め、そのまま叩きつける方法で、何とか攻撃力を抑えることが出来た。

 そのための如意棒にょいぼうであったが、扱い始めて数日では、とても怖くて、実戦の強敵の遭遇で使い物になるのか、不安なのだ。


 とうとつに、電話のベルが鳴った。


「あ、ごめ~ん、わたしだ」


 コハル姉さんが、うれしそうだ。

 ケータイを持っている人物が、少ないためだ。自慢をしたいお子様心理が、ほほえましい。

 食事中にマナー違反であるが、この世界の場合は、ややマナーが異なる。緊急事態にしか、ベルがならないためだ。


 一応、今のところは………


「あぁ、もしもし、わたし、わたしぃ~」


 コハル姉さんが、自慢げにガラケーを取り出した。

 どう見てもトランシーバーというケータイは、この世界においては、最新の通信手段である。魔法の通信手段もあるのだが、利便性とファッション性から、コハル姉さんはこれを愛用している。


 魔法の力が弱い、あるいは魔力を持たない人物からも、コハル姉さんに緊急の連絡を送ることが出来るのだ。


「はぁ~い、分かったぁ~――っていうか、あんたらが来ないかなって、話してたの」


 おや、長話に突入だ。

 その間に、ラウネーラちゃんがコハル姉さんの皿のハンバーグを狙っている。だが、さすがはコハル姉さんである。とても器用にフォークでブロックしている。


 無言の対決を見守りながら、レックは待つ。


「………あの、電話の相手って――」


 小さな声で、フルーツパフェを半分ほど減らした魔女っ子マッチョに問いかけるレック。しかし、そのタイミングで、電話は終っていた。


 そして、コハル姉さんの耳にも届いていた。


「その説明は、店主さんからのほうがいいんじゃない?」


 コハル姉さんの目線を追うと、猫耳と目があった。

 やはり、この世界において料理人といえば、猫耳の種族なのだろう。コハル姉さんたちの故郷である、エルフの国ではミケばあちゃん率いる料理猫軍団が、大活躍をしていた。


 ダンジョンの町でも、いらっしゃったようだ。


 渋い声で、挨拶をしてきた。


「よう、若いの………情報が欲しいってか?」


 おじ様猫の、登場であった。



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