おぉ、愛しのジョセフィーヌ
転生がどのような理由で起こるのか、それは分からない。純粋に、魔力の関係かもしれない。
ケンタウロスに、エルフに、ドワーフにと、日本以外の異世界を前世に持っている。では、バニーさんには、どのような世界の出身なのだろうか。
巨大ブルドックが、答えだった。
「ジョセフィーヌちゃ~ん、久しぶりにパパと出会えて、良かったわねぇ~」
ブルドックが、うれしそうに吠えた。
名前は、ジョセフィーヌちゃんと言うらしい、サイズは自動車と言う、巨大モンスターである。人間が3~4人背中に載っても問題ないだろう、オーク程度のモンスターなら、簡単に倒せそうだ。
ボンレスなバニーさんは、うっとりとしていた。
「この子はね、ベルちゃんの記憶を頼りに、私たちの魔力を合わせて生み出したの。だから、私たちの子供、この世界で、たった一つの命なのよぉ~」
頭頂部から生えているウサ耳が、感情のままにウサ耳がくいっ、くいっ――と動いている。
おなかのボンレスハムも動くが、レックは気にしない。関係なのか、おっさんが無駄な足掻きをしているが、もちろん気にしない。
レックはムキムキに抱かれたまま、開放されていないのだ。
そして、つぶやいた。
「………パパ?」
おっさんが、パパらしい。
ウサ耳と結婚すれば、ブルドックが生まれるというファンタジーは、すべて魔法で解決だ。ウサ耳のおば様の前世は、そんな不思議を可能にするのだ。
ブルドックが、生み出された。
前世は、犬でも飼っていたのだろうか、かつてお姉さんだったバニーさんの前世の知識と、ばかげた勇者の魔力を合わせて、オリジナルモンスターの創造に成功したということだ。
習性もブルドックとそっくりで、よだれをたらしておっさんを襲っていた。
ジョセフィーヌちゃんが、こっちを見た。
フラグだと考える必要なく、レックは未来を悟った。いつの間にか、ムキムキなる胸板から解放されていた。
はっ、はっ、はっ――と、ジョセフィーヌちゃんが、走ってくる。
土煙をあげて、かけてきた。
「げっ――」
レックは、ジャンプした。
ザコを自認するレックでも、魔法の力を持っているのだ。とっさであっても身体を強化して、人間の限界を超えることが出来る。
とっさのジャンプで、5メートルなのだ。
なお、エルフの国のエルフちゃんたちは、50メートルだ。100メートルを超える大木が群生する森では、その程度でなければ生き残れないのだろう。
では、自動車サイズのブルドックのジャンプ力は、どれほどだろうか?
「ちょぶ、まぁああああ――」
レックは、犬のエサになった。
はむっ――っと、口の中にとらえられた。そのままハムハムと、よだれまみれに口の中にくわえられて、ぺろぺろとよだれまみれにされていた。
巨大なお犬様においては、レックはちょうど良いオヤツのようだ。
保護者達は、笑っていた。
「あらあら、ジョセフィーヌちゃんに気に入られたみたいね」
「出会ってすぐなのに、さっすが勇者(笑)~」
ボンレスさんに抱きつかれたまま、おっさんは笑っていた。
かつては、お姉さんに抱きしめられて、慌てる少年だったのだろうか。数年後は、愛人となって………
時間の流れは、残酷だ。
「べぶ、ぶべべべべ、ぶぷ」
よだれまみれで、大変だ。
ブラウンと黒のぶち模様のブルドックさんは、短い尻尾をぶんぶんと振って、喜びを表していた。
このまま捕食されないか、本気で心配になってきた。
「おぉ~、レック、食われてしまうとは、情けない」
「あら、ベルちゃん、なにそれ?」
「いや、オレの前世のな――」
おっさんとバニーおば様は、やはり仲がよろしいようだ。
いや、目が、死んだ魚のようになっていた。がっしりとボンレスさんに腕を組まれて、捕らえられていた。
20歳の青年と24歳のお姉さんならば、らうらやむシーンであるが、時の流れの、なんとも残酷なことだ。
時の流れが人間と異なるエルフちゃんたちは、どこにいるのだろうか――
「おぉ~、レック、食われてしまうとは情けない」
「情けないんだにゃぁ~」
気付けばジョセフィーヌちゃんの背中に乗っていた。乗用車サイズの巨大ブルドックなど、恐れるわけがない。そして、新たな言葉を真似て、遊んでおいでだった。
こうして、日本人が汚染していくのだろう。
よだれまみれのレックは、願った。
「たすけて――」
情けなかった
ジョセフィーヌちゃんにじゃれ付かれて、よだれまみれだった。
「ジョセフィーヌに好かれるやつに、悪いヤツはいない、改めて歓迎するぜ、新たな勇者よ。そして、ダンジョンの町に活気を取り戻してくれっ」
「うん、うん、頼むわよ、新たな勇者くん?」
「うちらの生活がかかってるからね?」
「いや………たすけようよ」
カラフルなバニーさんたちも、レックを見ていた。
そして――
「常にモンスターが湧き出す洞窟ってイメージは、その通りだ………ただ――」
テクノ師団のおっさんは、レックを改めて案内していた。
後ろには、ぞろぞろとバニー軍団がついている。彼らのほうが案内役をすべきであるが、日本人を前世に持つ者同士と言うことで、より分かりやすい説明が出来るということだ。
仕事だ、仕事――と言うことで、ボンレスさんの拘束から、一時的に逃れている。そちらが目的だと、レックは悟った。
よだれまみれで、悟った。
「ダンジョンコアはない………そこが、イメージと違うところッスね」
ダンジョンコアは、存在しないらしい。
そこは、ゲームやラノベで登場するダンジョンとは違う。神殿と同じく、魔力の溜まり場だという。神殿は、その力をモンスターよけの結界に利用して、サイズは町の大きさに影響する。小さな神殿でリンクさせ、生活空間を広げることに成功したのだ。
ダンジョンは、人間が利用できなかった。あるいは利用できない場所にある、魔力の溜まり場なのだ。
「まぁ、それはそれで、腕に覚えのある冒険者の稼ぎ場だ。鉱山町のように、華やかって所も同じだが………大発生の時期は、この有様だ」
「はぁ………」
案内された町並みは、閑散としていた。
メインのお客である冒険者達は、他の稼ぎ場へと逃げ出しており、逃げ出せない宿屋に食べ物屋と言う酒場が、寂しそうだ。
それでも逃げ出せないのは、必ず冒険者達が戻ってくるためである。そして、レックたちのように、危険な時期にもぐる冒険者がいるためでもある。
おっさんは改めてダンジョンを睨んで、告げた。
「とりあえず、宿いくか」
顔は、巨大なキスマークだらけであった。
よだれまみれのレックは、お返事をした。
「へい」
よだれまみれ、キスマークだらけの転生者たちは、お疲れだった。




