バニーガール軍団と、転生者
バニーガール
いつから存在していたのか、少なくとも50年前には、日本でも活躍していただろう。お酒を飲む場所に、パーティーにと、方々に出没したはずだ。
男性のバニーガールがいても、男女平等な現在、おかしくはない。太ももがムキムキと、そのキックは大木をもへし折っても不思議はない。
スキンヘッドバニーが、レックを抱きしめていた。
「待っていたぞ、新たなる勇者よ」
バニー・ボーイとお呼びするべきか、2メートルを超える長身に、肩幅も岩石であった。ウサギと言う証のウサ耳が、ジョークであった。
もちろん、バニースーツだ。
太ももがまぶしいアミタイツで、いいや、鎖帷子かもしれない。金属製とも限らないチェーンで、通気性と軽量化に成功している。
鋼のような筋肉を、鋼のチェーンで防御するバニーガールが、支配人のようだ。
「おう、ベルバートも、久しぶりだな。クリスティーナも寂しそうにしていたぞ?」
「い、いやぁ、オレも管理職でよ、なかなか若い頃のように――ほら、そいつな、バイクに乗って一人旅を気取ってやがってよ、お前らの集落にも案内してやってくれ」
「ちょ、ぶうぶうっ」
胸板に、抱きしめられた。
レックの抗議は、ムキムキとうごめく胸元で、さえぎられた。背後では、豊かな胸元のバニーガールさんたちが笑っている。
姉さん達に無礼を働こうとした冒険者も、このような目にあうのだろう。確かに、とても豊かなお胸である。
ムキムキと、うごめくほど豊かなのだ。
まるで、動く鋼だ。
なお、レックが心の中で中佐殿――とお呼びするテクノ師団の隊長さんは、ベル坊こと、本名はベルバートと言うらしい。
出会ってから半年近く経過して、初めて知ったレックだった。
なじみのバニー・ボーイは、いい笑顔だ。
「まあ、ベルバートならそう言うと思ってたがな」
スキンヘッドが太陽に照らされて、きらりと光って、ちょっとまぶしい。そして、そろそろ解放して欲しいと思ったが………
抱きしめられていたため、普段より目線が高くなったため、レックは“それ”に、気付いた。
隊長殿よりも先に、気付いたのだ。
バニー・ボーイは、笑っていた。
「ほら、噂をすれば――」
どす、どす、どす――という効果音がセットで、突進してきた。
何者と言うか、もののけと言うか………
レックを抱きしめたまま、スキンヘッドバニーさんは、笑みを浮かべた。
「べぇ~、るぅ~ちゃぁあああああんっ」
ボンレスさんが、現れた。
肩幅は、やわなレックの倍はあろう、たくましさだ。その太ももは、長年のジャンピングによって鍛えられ、レックの胴体を超えている。
むしろ、マッチョと言い換えたほうがいい。ただし、年齢は残酷である、おなかのお肉が、ややボンレスハムだった。
強引にバニースーツを押し込めたためだろう、ボンレスさんは、気にしていないらしい。豊満なバストと共に、激しく揺れていた。
隊長殿は、逃げ出した。
「さらばっ――」
「――ベルちゃぁあああああん」
脱兎だった。
ウサギの皆さんがいらっしゃるのに、脱兎の勢いで、ウサギさんの群れから、おっさんは脱走を試みていた。
エルフちゃんたちは、笑っていた。
ウサギさん達にまぎれて、笑っていた。
「おぉ~、さすがは、かつて勇者(笑)と呼ばれただけはあるね、まだまだ現役だ」
「それはそうだよ、隊長さんで、現役だもんにゃぁ~」
そして、消えた。
レックは、エルフを分かったつもりになっていた。その移動能力は、人間をはるかに超えていると。
甘かったようだ。
隊長殿が、悲鳴を上げていた。
「がっ、はなせ、コハル、ラウネーラ………うぅああああああ」
気付けば、両サイドからおっさんを捕らえていた。
しょせん、人間だ。エルフたちに比べれば、いつまでも小僧に過ぎぬのだ、その間に、ボンレスさんが到着した。
疲れを感じさせないあたり、普段からジャンピングしているのだろう。ゆらゆらと、ボンレスハムがゆれていた。
レックは、見ていた。
「もぉ~、昔はイチャイチャしてたのに~、立場が違っても、私達はずっと――」
むっちゅ~――と言う効果音は、効果音だけだろうか。
レックは、かつて美人だったボンレスさんと、かつて少年だったおっさんとの再会を、生暖かい瞳で見つめていた。
ムキムキなる胸板に抱かれて、つぶやいた。
「良かったッスね、再会できて」
「あぁ、時期が時期だからな、きっと来るって言い張って………愛の力ってヤツか」
「うん、うん、良かったわね、クリスティーナ姉さん」
「長老の一人だからね?」
「同じ転生者同士って………どんな名前だっけ?」
バニーさんに囲まれて、レックは見ていた。
そのため、聞き流していた。久々の異世界人との遭遇だというのに、ムキムキに抱かれて、心は遠くへと消えていた。
「転生者?」
いや、気付けたようだ。
レックの好奇心が復活し、口を開きかけた。ここへはダンジョンの攻略のために訪れたが、レックの目的としては、違うのだ。
お仕事は別に、不思議な世界を見て回ることが目的だ。転生者と言う不思議もまた、興味を引かれるのだ。
新たな興味が、かけてきた。
ワンワン――という、お犬様の鳴き声が聞こえた。
人懐っこい、はっ、はっ、はっ――という声のオマケつきだ。誰かの飼い犬に違いないと、しかし、ダンジョンであるために、警戒心が湧き上がり――
目が、点となった。
「………ブルドック?」
ブルドックだ。
どう見ても、ブルドックと言う印象のブルドックが、はっ、はっ、はっ――と、土煙を上げてかけてきた。
ただ………
「げっ――」
でかかった。
少なくとも、エルフの国で遭遇した、ドワーフのおじ様の相棒クラスの、巨大なブルドックに見えた。
しかし、バニーの皆様は、警戒している様子がない。
エルフちゃん立ちは同じだが………
「ほら、私達の子供も大きくなって」
「放せ、放してくれぇ~………」
おっさんの悲鳴は、だれも気にしていなかった。




