新たなる、装備
攻撃の基本は、下級魔法である。
ショット系が代表で、魔力を固めて魔力で打ち出す、すべての攻撃魔法の基本が詰まっている。込める魔力がたっぷりなら、カノン系にレベルアップする。中級の攻撃魔法であり、威力は砲撃なのだ。
そして、水の属性を与えればウォーター・カノンと言う爆発系の魔法となる。
レックは、どれ一つ、放つことは出来なかった。制御のために、マジック・アイテムを手にしても、シャボン玉なのだ。
では、放たなければ?
「――ってことで、杖の先端に魔力をとどめる方法にしたんッスよ」
「ふ~ん、このまえの『バブル・インパクト』っていう魔法ってこと――にゃ~」
「ボク達が王子君と遊んでるときに、そんなイベントしてたんだ――にゃぁ~」
ギルドの練習場から数日、レックは練習のための広場にいた。
魔法攻撃や練習のため、周囲に人がいないことは確認されている。ここにいるのは関係者だけだ。
なお、エルフちゃんたちは、本日も猫モードである。にゃぁ~、にゃ~と、早く見せろと、じゃれ付いていた。
青い猫耳セーラー服と、紺色の猫耳パイロットスーツにしがみつかれて、レックは大変だ。
新たな魔法が生まれる瞬間を見逃して、すこし、悔しいらしい。
「姉さん達、まずは見てて下せぇ」
ステッキを、構える。
魔力を、ほんのわずか、湧き上がらせる。
武器を構える、力を込めるように、魔力が杖に込められて、そして、形となっていく。この感覚は前世では知らない、剣道や弓道でもしていれば、すこしは武器を持つ感覚があったのだろうか。
残念、帰宅部であった。
しかし、膨大な戦いの経験はある。画面越しに、長い戦いを繰り返してきた前世なのだ。世界を何度も救った、伝説の勇者なのだ。
もちろん、ゲームの話である。
「バブル・インパクトっ」
杖を、地面にたたきつけた。
頭上に振りかぶって、まっすぐ打ち下ろす。本当に、なにか格闘技を学んでいればよかったと思う。マジカル・ウェポンに頼りきりで、狙いを定めて放つ以外の戦いを知らないのだ。
どこかのおっさんみたいに、炎のこぶしで『オラオラオラ――』をするつもりもないが、なにか、技術が欲しかった。
そこそこのクレーターが、出来ていた。
「へぇ~………カノン系程度はあるかにゃぁ~」
「ボクたちはレックのレーザー知ってるから、つまらないにゃぁ~」
にゃ~、にゃ~と、エルフちゃんたちはご不満だ。
レックとしては、初めてマジカル・ステッキを使って攻撃魔法らしいものを生み出したのだ、少しはすごい――と、感心して欲しいレックだった。
すぐ、エルフたちが派手好きだと思い出し、あきらめた。
魔女っ子マッチョが、心配そうだ。
「レックちゃん、ご注文のアイテムだけど………本当にそれでいいの?」
レックの手を、見つめていた。
単純な、カラフルなステッキが握られている。装飾は最低限で、クリスタルが戦端にあしらわれているだけだ。
黒や茶色であれば、警棒と見間違えてもおかしくはない。これは、レックが望んだスタイルの、マジカル・ステッキであった。
「へへ、オレっちの魔法の使い方なら、この方がよさそうで」
「う~ん、ハンマータイプの魔女っ子ステッキも出来るのよ?ぴこぴこハンマーとか?」
ぴこぴこハンマーが、取り出された。
レックと異なり、宝石にアイテムを封印している。歩くアイテムショップというマッチョさんだ。忘れかけているが、『マヨネーズ伯爵』の都において、アイテムショップを経営しているお姉さんなのだ。
心は、永遠の90年代女子中学生である、魔女っ子アリスちゃんだ。
ドッドという本名など、口にしては大変だ。にっこり笑顔で肉薄してくる、筋肉の壁にしがみつかれて、“説得”されるのだ。
強い人には、逆らえないのだ。
「う~ん、魔力任せで叩きつけるなら、剣もいいと思うけどにゃ~?」
「まぁ、買いなおせばいいよ。レベルアップだにゃ~?」
にゃ~、にゃぁ~と、エルフちゃんたちは、興味が薄い。しかし、レックはこれがいいと思っている。
そして、さすがはアイテムショップの店長だと、レックは思った。レックの要望に、マッチョさんは応えてくれたのだ。
杖を頭上に掲げ、まっすぐと横に向けた。
「そうなんだよ、これだよ、これ………男子が一度は手にしたい武器、修行して、どんどん強くなるあのお方と同じ武器………」
バブル・インパクトでは近距離限定だと。ならば――と、距離を自在に出来るステッキとして、渡されたのだ。
伸縮自在なる、アレである。
「アームドっ」
二の腕までの長さから、レックの身長ほどに、伸びた。
如意棒だった
日本人なら誰でも知っている。魔女っ子アリスちゃんもまた、知っている。そして、再現するための工夫もしていた。
魔女っ子のステッキもまた、サイズを自在に出来るものがあるらしい。そのため、魔女っ子マッチョのアリスちゃんは、生み出してくれていたのだ。
ビーム・サーベルを忘れているが、近距離にも遠距離にも自在な、防御も期待できる武装は、ありがたい。
棒術を修めていないレックでも、ポーズくらいは出来るのだ。
「わるくないっ」
あと3年ほどすれば、もう少し背が伸びて、筋肉もついているはずだ。ならば、如意棒を手にして、上半身筋肉でポーズが様になるはずだ。
あらに5メートルほどに伸ばせば、釣堀の悪ガキ状態のレックである。さおに引っ張られて、バランスがさっそく危うい。
筋肉が欲しいと思いつつ、今は様々なポーズに、レックは忙しい。
「うふふ、やっぱり男の子ね………格好をつけちゃって」
魔女っ子マッチョが、微笑んでいた。
ロングスカートのはずだが、マッチョすぎて、ミニにも見える。はじけるマッチョがスカートから除いて、きらめいていた。
ほどほどでいいかなと、レックは思い直した。




