王の都の、冒険者ギルド
『魔王の城を、後にした――』
レックの脳内では、ゲームの効果音が流れていた。
偉い人の住まいでは、緊張するものだ。広いお庭を堪能させてもらって、UFOゴーカート大会になったことは、忘れたい。
今も、エルフちゃんたちと、若き王子様の対決は続いているだろう。その隙に、レックは逃げ出したのだ。
開放感を、味わいたいのだ。
なぜなら――
「王都ッスよ、やっと王都に来たんッスよ、ラノベのテンプレ………なのに」
観光も、まだだった。
せっかく王都に来たというのに、思えば、振り回されてばかりであった。
UFOが登場、その後も宿に腰を落ち着ける暇もなく、テクノ師団の研究施設へと連行されたのだ。
そして謁見を終えて………
「次は、お仕事ッスか」
「そうよ、お仕事よ?」
魔女っ子コンビが、冒険者ギルドに到着だ。
その他もいるが、ダンジョンの攻略を目指して、スターと地点へ到着だ。まるでゲームであるが、情報が大切であるなど、基本は同じように思える。
テンプレも、同じらしい。
「なんだ、ここはガキの遊び場じゃ――」
テンプレ冒険者は、ここにもいた。
『マヨネーズ伯爵』の都のギルドにもいたが、どこでも同じような冒険者はいるものだ。以前のレックであれば、小物パワーを発揮して、うまく逃げようとしたわけだ。
上級者の小物であれば、うまく相手をおだてて、情報をいただくなり、昼飯をおごらせるなりするらしい。
自然と、小物パワーを発揮させようとしたレックだったが――
「あら、私の連れに、御用?」
「へへへ、これはドッドの兄貴――いえ、アリスちゃんじゃありませんか」
相手が、先に小物パワーを発揮していた。
レックと共にいた魔女っ子マッチョが、原因である。先輩面をしてやろうと登場したと同時に、こうして退場していった。
新たなテンプレが現れた。
「なんだ、騒ぎかと思ったがドッドか。いい年をして――いや、何でもない。アリスちゃんは、永遠の中学生だ」
大物らしいおっさんが現れて、即座に引っ込めてしまう。
ここは、もう少し引っ張ってもいいのではと思う。魔女っ子マッチョのアリスちゃんの存在は、それほど偉大らしい。
なお、テクノ師団の隊長殿もおいでだ。
『ヒーロー』Tシャツで、片手を挙げていた。
「よぉ、ギルマス」
「あぁ?ベル坊も一緒か………って、馬オヤジも一緒か。なんだ、ぞろぞろ」
馬の人は、隊長殿を『ベル坊』と呼ぶおっさんからも、オヤジと呼ばれるお年らしい。そういえば、ケンタウロスもどちらかと言うとエルフ側の種族であった。なら、おっさんは、見た目年齢の数倍は生きているのかもしれない。
エルフちゃんたちがいなくて良かったと、レックは思った。
見た目はお子様の12歳に見えて、中身は――
レックは、必死に邪念を取り払った。
「あの、ダンジョンに行くように言われて、情報を――」
いっせいに、視線を浴びた。
ここは、笑われるテンプレなのか。あるいは嫉妬から妨害を受けるパターンなのであろうか。
レックが身構えていると、巨大な影が現れた。
魔女っ子マッチョと、いい勝負だ。
「………あらぁ~ん、アリスちゃんじゃない。どうしたの、現役に復帰?」
「やぁ~ん、メリンダちゃん――ちがうの、この子がね?――」
女子会の、始まりだ。
2メートル近い魔女っ子アリスちゃんほどではないが、ごっついおじ様――お嬢様の、登場だ。
横幅は、アリスちゃんを上回る。例えるなら、岩の塊であった。
その腕力は、並みのオークが相手であれば、一撃という印象を受ける。いいや、オーガが相手でも、素手でよさそうだ。
魔力を込めたパンチの威力など、考えたくもない。
にっこりと、レックを見ていた。
「あら、かわいいボウヤだこと。本当にあなたがダンジョンにもぐるの?」
魔女っ子レックの、ピンチだった。
これなら、王様の庭園で開催されたゴーカート大会に、素直に参加していればよかったと、レックは後悔をはじめていた。
態度に出せば、命取りだ。
小物パワーに活躍して欲しいところだが、恐怖に固まってしまい、下っ端パワーと共に、震えていた。
お前いけ、お前いけ――と、譲り合っていた。
いつの間にか、ベテラン同士で情報共有が行われていた。
「あぁ、新たな勇者が――」
「大発生はもう?」
「そうなの、王様が会いたいってことでね?それで~――」
風物詩らしい。
毎年ではないが、数年に一度ほど、モンスターは大発生する。大陸全土ではなく、どこで発生するのか、その頻度も不明である。
ただ、兆候がある。
モンスターが普段よりも強い、大きい、数が多いなどという兆候がある。その兆候の一つが、転生者だった。
異なる世界の知識を持つということで、うまく使えば発展につながる。そうして、この世界はややSFに発展中である。
さらに、危険な場所にも喜んで突撃する日本人は、本当にありがたいと言う。本年度の勇者は、レックであった。
かつて勇者と呼ばれていた『ヒーロー』Tシャツのおっさんが、レックの方に腕を回して、挨拶をさせた。
もちろん、レックは素直に従うのだ。
「まぁ、攻撃型の俺より、レックはむしろ防御型の能力だからな」
「いやぁ、レーザーは攻撃魔法――水風船ッスか」
言われるままに、やっと登場した下っ端パワーでご挨拶をしていたが、レックはさっそく、固まった。
レーザーは、禁止なのだ。
絶対に、禁止なのだ。
それはもう、報告を受けた王様をはじめ、皆様から命じられたのだ。
ダンジョン送りが決定されてから、先輩達から釘を刺された約束である。多少威力を抑えた程度では、洞窟がガラガラと崩れて、大変なのだ。
洞窟なら、自殺行為だという。マジック・アイテムもまともに扱えないレックでは、どうすればいいのか。
相談しながら考えようと、とりあえず情報収集を目的として、ここにいた。
「ゲームでもおなじみ、モンスターの素材が定期的に手に入る、おいしい鉱脈扱いと言うわけだよ、レック君。この時期にもぐれるとは、ラッキーだな~」
「王に指名をされたってことは、何とかできる能力がありそうだが………」
ギルマスが、ため息をついた。
見た目は、とても大切だ。その見た目がギャグと言う人々が少なくない、魔女っ子マッチョと、魔女っ子レックだ。
魔女っ子マッチョが、にっこりと微笑んだ。
「ダンジョンはね、大発生が起これば影響されるの。だから、今ごろ――」
初級者ゾーンで、ボスゾーンと言うことらしい。
ハイレベルの冒険者でなければ、ゲーム・オーバーとなるのだ。
「一人でも突撃できる勇者の、出番ってことだ」
「そうなのよぉ~、不人気って以前に、立ち入り禁止ね?」
「だからね、レックちゃん」
「勇者の出番ってことだ」
「頼むぞ、若き勇者よ」
『ヒーロー』Tシャツのおっさんをはじめ、皆さん、レックにまるなげをするつもりで、いっぱいのようだ。
レックは、つぶやいた。
「あの、だから情報を――」
情報などない。
それが情報であると気付いたのは、練習場へと連行されたときであった。




