王城の、お庭にて
さらさらと、流水階段が神秘的だ。
噴水もちらほらと、とても贅沢な庭園であった。レックは『マヨネーズ伯爵』のお屋敷に招待されたことがある。
王様のお庭は、とても広大だった。
金髪のショート・ツインテールをなびかせて、レックは空を見上げた
「やっちまったぜ――」
遠くを、見つめていた。
たそがれる主人公を気取って、噴水の岸辺で、空を見上げていた。
頭の中の浪人生は、頭を抱えていた。ついつい、悪い大人に乗せられたというか、前世パワーによって、やらかしたのだ。
ダンジョンに、行ってみないか――
レックは王様の言葉に、飛び上がって喜んだのだ。もちろんです――と、喜び勇んで、OKしちゃったのだ。
やった、ダンジョンだ――と
「あぁ~あ………言わんこっちゃない」
『ヒーロー』Tシャツのおっさんが、あきれていた。
テクノ師団の隊長さんであり、レックが転生して初日に顔をあわせた、転生者の先輩でもあった。
そして、忠告も受けていた。前世に引きずられないように――と
レックは、見事に引きずられていた。
だが、前世の影響が色濃い転生者は、とても多い。魔女っ子マッチョさんも、そんな一人である。
前世が90年代女子中学生である、トランスマッチョなのだ。
ドッドのお頭と呼んではいけない、魔女っ子スタイルへと華麗に変身、名前も可愛く『アリスちゃん』なのだ。
きゃるるん――と、かわいこぶって、お姉さんぶっていた。
「まぁ、何事も経験よね?」
健康的なマッチョがスカートからひらりと覗いて、とてもまぶしい。おなかの腹筋も、輝いていた。
「レック君、テンプレ、乙~♪」
水色のツイン・みつあみの博士さんは、無視したい。
腐った方向に開花している天才だ。
親子ほど年齢差があるように見えるが、レックとは前世の時代感覚が近しい。テンプレだ、いいように使われる主人公のテンプレだと、レックをあざ笑っていた。
悔し紛れに、レックは格好をつけていた。
「主人公に、休みはないのさ………」
腕を組んで、格好をつけていた。
せめてガンマンコートであり、シュチュエーションが夕日であれば、すこしは格好がついただろうか。
赤紫のミニスカワンピースが風にそよいで、なんとも可愛らしい。魔女っ子の証であるとんがり帽子がお辞儀をして、可愛らしさがさらにアップだ。
魔女っ子マッチョのアリスさんと、おそろいである。
「そうだよ、ボクのライバル………がんばる――にゃぁ~」
ラウネーラちゃんも、レックと同じポーズであった。
白いパイロットスーツは、猫耳を模したヘッドセットと尻尾のセットつきだ。
語尾は『にゃぁ~』だ。
「ラウネーラ、ムリににゃ~って言わなくてもいいのに――にゃぁ~」
コハル姉さんも、付き合っている。
エルフちゃんたちが、にゃ~、にゃぁ~、うるさい。
見た目12歳であり、可愛らしい格好が似合うために、レックは何も言えない。そして、自業自得であるため、なにも言えない。
レックを使って、遊んでおいでだ。
ケンタウロスのおっさんが、豪快に笑っていた。
「がははは、日本人は、そうでなくてはなぁ~………なぁ、ベル坊?」
『ヒーロー』Tシャツのおっさんを見て、笑っていた。
本人は『鹿』Tシャツだ。文字入りのTシャツは、もしかすると流行しているのかもしれない。あるいは、最新のファッションかもしれない。
馬の人が、『鹿』Tシャツだ
『馬』『鹿』の組み合わせが、どのような意味を持っているのか、それを知る日本人の転生者たちは、全員、ツッコミを入れなかった。
この世界の人々にとっては、読むことも出来ない、異世界の文字なのだから。
腕を組んだ魔女っ子レックは、空に告げた。
「ステータス先生、オレっち、がんばってやすぜ」
ややSFに発展したこの世界で、ステータス先生は存在しなかった。
新たな力が用意されているわけでもなく、チートできる知識など、先に転生した皆様がやらかしていた。
UFOが、やってきた。
「UFO?」
レックは、浸っていた気分も忘れ、見つめていた。
ただし、いつか見た巨大なUFOではなく、お庭を走っていた。UFOタイプのゴーカートの印象だ。
ただ、ホバーをしていた。
側面のクリスタルが輝いている。ホバー・馬車と同じ系統の技術だろう。遊園地のゴーカートのように一人乗りサイズのホバーUFOが、お城の敷地を走っていた。
エルフちゃんたちが、気付いた。
「あ、王子君だ」
「おぉ~、さっすが、親子」
王子さまの、登場だ。
あの親にして、この子ありというパイロットスーツ姿の王子様が、現れた。
10歳に届かない、やんちゃ盛りの男の子が、どこかで見た王様そっくりに、パイロットスーツで現れた。
もちろん、マントもパタパタとはためかせていた。
本人は、風になった気分ではしゃいでいるのだろう。バイクの旅路で、レックも浸っていたものだ。
コートをはためかせて、旅人を気取っていたのだ。
じいやさんは、たいへんだ。
「殿下ぁ~、安全速度は守って下されぇ~」
新たなUFOが、現れた。
赤と青のサイレンが輝いて、身なりの良いご老人が、追いかけておいでだ。
『じいや』という役職のご老人だろう、前世であれば免許の返上を求められるかもしれないが、あの運転テクニックであれば、まだまだ大丈夫に違いない。
レックは、ただ見つめていた。
「パトカー………ッスか?」
やや、遊園地だった。




