決戦、魔王城?
王の都を前に、レックは期待をしたものだ。
異世界ファンタジーでお約束の、巨大なお城が楽しみだ。現実的に、ありえねぇ~――という神秘的で、巨大で、幻想的なお城を期待したのだ。
現実には、UFOがいきなり登場で、他のすべてがどうでもよくなった。
王城を前にしても、同じ気分であった。
レックは、見上げた。
「魔王の幹部っすか?」
巨大な鎧をまとったコンビが、待ちかねていた。
「「ようこそ、魔王城へ」」
なぜか、魔王城になっていた。
国王がUFOで登場した、その去り際に、魔王城で会おう――という、RPGでお約束の、序盤から中盤で登場のラスボスのセリフを残しておいでだった。
出迎える人も、いい性格をしておいでだ。真っ黒なマントに、真っ黒な鎧に、真っ黒な剣を持って待ち構えていた。
魔王の幹部だと、見た目で分かる服装だった。
「ふふふ、よく来たな、勇者たち。だが、ここからは――」
「わたし達が相手だ」
気付けば、背後も取られていた。
テクノ師団の研究所に続いて、門番の皆様も、四天王のようだ。
ノリのいいエルフちゃんが、答えた。
「くっ、ボクの勇気は、負けないっ!――にゃぁ」
語尾に、しっかりと『にゃぁ』――をつけるあたり、ラウネーラちゃんはわきまえたエルフである。
本日の装いは、白猫のパイロットスーツである。出るところが出ていれば、とても色気のある衣服は、スタイルがお子様であるために、可愛らしい。
将来が、ちょっと心配なレックだった。
もう一人、将来が心配なエルフちゃんも、ノリノリだ。
「魔王城を前にして、ピンチを迎えるとは………行け、我が弟子15号っ!」
紺色のセーラー服ドレスをはためかせて、コハル姉さんが指差した。
誰のことなのか、分からないようでは弟子とはいえない。エルフの国で、さんざんお世話になったレックである。
赤紫の、ミニスカワンピースの魔女っ子レックは、空を指差した。
もちろん、マジカルなステッキを手にしている。
「バブル、すぷら~しゅぅううう――」
言葉に、意味はない。膨大な魔力がマジカルなステッキの先端から、ハートマークが凶悪なステッキの戦端から、吐き出された。
ただ、莫大なる魔力による、イリュージョンだ。
触れても害のない、水で出来た風船の大群が、周囲をくるくると回転した。
これがウォーター・ボールであれば、城を落とせるほどの威力になるだろう。半透明なバブルの数は、一つや二つではない。大小さまざまなシャボン玉が、レックの周りを回転していた。
王の都へ向かうまでの日数、暇があれば練習していた、新たなる技だった。
ステッキを経由して魔力を放出する練習により、無害な魔法を大量発生させることには、何とか成功させていたのだ。
すべてが、ウォーター・ボールと言う未来を夢見つつ、無害なバブルが、今のレックの全力であった。
「レックちゃん、合わせるわっ」
マッチョも、ノリノリだ。
魔女っ子スタイルのマッチョの兄貴――ではない、アリスお姉さんが、ハートマークのマジカル・ステッキをくるくるとさせて、カラフルな風船を周囲に発生させた。
ねたましい、万能タイプの魔法使いのようだ。水に炎に風に土に、扱える魔法の種類は、百や二百ではないかもしれない。
魔女っ子のマッチョは、天才だった。
天才は、まだいた。
「なら、私も――ヘカトンケイルっ!」
なにそれ、かっこいい。
レックが心でハートマークな目線を送っていると、ぼさぼさツインテールの博士の姉さんが、マジック・ハンドでカメラたちを操っていた。
きてます、きてます――と、なぞのワードを口にしつつ、操る半透明の腕の数は、二桁を超える。
ギリシャ神話に登場する、100の腕を持つ巨人が元ネタだ。
彼女がテクノ師団の研究部門で役立てている能力だ。誇張があっても、100人力の仕事をこなすという。
たった一人の製造工場。
メインがコスプレであっても、ファッションのための前世の色々の再現だとしても、大いに貢献していることには、変わりないのだ。
レックを中心に、魔女っ子バトルステージが、完成していた。
おっさんたちは、眺めていた。
「ほほぉ~、練習の成果がでているなぁ~」
「ふ~、日本人とは、なんとも奇妙な連中だ――」
『ヒーロー』と、カタカナで記されたTシャツのおっさんと、『鹿』と、漢字で記されたTシャツを着ているおっさんは、並んで腕を組んでいた。
レックは、全てをかなぐり捨てていた。
「魔女っ子レック、華麗に参上っ!」
「魔女っ子アリス、ここに再臨っ!」
魔女っ子シスターズが、そろってポーズを決めていた。
どこかの、逆三角形のピラミッドの前であれば、問題のないステージである。ここは、この国で一番大切なお城の目の前である。
王のお城である。
出迎えていたのは、ややふざけていた四天王であったが………
「おぉ~………やはり、日本人の転生者は、あなどれぬ」
「うむ………男の娘――というのだったか………はぁ、はぁ――」
「へへへ、俺たち四天王を前にして、余裕とは生意気な」
「転生者ばかりに、格好を付けさせぬぞ。ならば、我らもっ――」
ノリノリだった。
なお、テクノ師団の変態たちと同じく、全員が日本人の転生者と言うわけではない。盛大に、感染しているだけだ。
病の名を、中二と言う。
UFOに乗って、パイロットスーツにロングマントで登場して、魔王城で会おう――という、RPGのノリを大切にするおっさんが、王なのだ。
すでに、手遅れなのだ。
レックは、叫んだ。
「いくわよっ――」
ヤケだった。




