決戦、準備?
レックは、空を見上げた。
「今日も、いい天気ッスねぇ~」
太陽が、まぶしかった。
先日の、天災に見舞われた大騒動は、なかったことにしたい。なぜ、天才と呼ばれる人々はみな、変態なのだろうか。遠ざかる意識で、レックはふと、思ったのだ。
天災に、意味はない――と
夢中になりすぎて、周りが見えなくなる皆様である。アイデアの宝庫と言うことで、転生者もたくさんいたようだ。
ほぼ、日本人であった。
「レック、ほら、置いてくわよ――」
「ボクたちが、最後だからね?」
レックが現実から逃げていると、エルフちゃんたちが笑っていた。
おしゃれ率は、上がっていた。
コハル姉さんの黄金のツインテールは、フリルのリボンが可愛らしい。もちろん、ミニのスカートも、フリルがたっぷりである。
セーラー服の、ドレスバージョンとでも言うべきだ。金髪と言う派手な色合いであるため、紺色プラス、白のフリルが良く似合う。
白いパイロットスーツのラウネーラちゃんも、いつもと違った。
いいや、レックが今まで気付かなかっただけで、実は、いつも違う種類のパイロットスーツだったのかもしれない。
猫耳カチューシャのヘッドセットに、尻尾の電極がセットだった。
銀色に輝く金色というプラチナブロンドがさらさらと、猫耳カチューシャが、凶悪であった。
硬くならないように、笑った。
「へへへ、お二人とも、良くお似合いで………」
「あんたもね、レック」
「うん、レックもおしゃれだよ――にゃぁ」
エルフちゃんたちは、笑っていた。
ラウネーラちゃんは、お約束の語尾だった。見た目はどちらも12歳のお子様であるために、可愛らしいファッションは、本当によく似合う。
レックの笑顔は、硬くなった。
冒険者らしい、いつものガンマンコートではなかった。そんな希望が、ファッションに長い人生をかけるエルフたちに通用するものか。
レックは、改めて空を見上げた。
「えぇ、おしゃれッスね――王様と会うのに、王様と会うのに」
大事なことなので、二回つぶやいたレックである。
少し伸びてきた金髪は、コハル姉さんとおそろいのツインテールだ。
頭には、魔女っ子マッチョとおそろいの魔女っ子帽子が、少し大きい。とんがった先が、可愛らしくお辞儀をしていた。
カラーは、リーダーのレッドか、かわいくピンクか、それとも水色かと言う熱戦が繰り広げられていた。
赤紫と、決定した。
赤紫のワンピースタイプのスカートは、ミニである。
もはや、抵抗する気力を失っているレックだったが、言いたかった。
「なんで、いるんッスか?博士の姉さん」
「はぁ、はぁ、魔女っ子男子、魔女っ子男子――」
変態も、セットだった。
テクノ師団の変態ジジイから『マキノくん』と呼ばれた、助手らしい女性が、なぜか一緒だった。
博士スタイルはよいとしても、変態スタイルは、外してほしかった。転生者同士と言うことと、レックと時代が近いことから、ストーカーされていた。
男子のパンチラでも狙っているのか、シャッターチャンスを逃さぬとばかりに、両手でしっかりとカメラを手にしていた。
本日は瓶底めがねではなく、小さく丸いサングラスである。
時折、シャッター音が聞こえるのは、聞かなかったことにしたい。
「ほら、レック、ポーズ決めてあげて?」
「そうだよ、ヒーローはポーズが命だよ?」
「はぁ、はぁ………尊い」
エルフたちはいつものことで、レックをおもちゃにして遊んでいた。
そして、目の前のストーカーと言うか、変態を前にしても動じていない。これが、変態と言う天才にとって、平常運転と言うことだ。
お迎えが、やってきた。
「ほぉ~、なんとも、めかしこんじゃってまぁ~――マキノちゃん付きか」
「がはは、似合うじゃねぇか、ボウズ………いや、お嬢ちゃん――だったな?」
カタカナで『ヒーロー』と印字されているTシャツのおっさんと、漢字で『鹿』というTシャツを着た、テクノ師団のおっさんたちが現れた。
銀色の短髪のおっさんは『大火炎パンチ』でモンスターをオラオラオラ――する、熱血野郎と言う、テクノ師団の隊長さんだ。
転生者として覚醒したレックが、その初日に出会った異世界のおっさんであり、日本人の転生者であった。
ラフすぎる格好に、レックは突っ込んだ。
「………王様に会いにいくのに、その格好は――」
「レック君、ブーメラン、乙~」
変態の人が、ちょっとうるさい。
そして、言い方がちょっと懐かしい。レックと近い世代の転生者なのだ。転生したのは十年以上昔のようである、転生者の先輩には違いない。
ただし、腐っている系統の女性でもあるようで、レックに着せ替えをして、シャッターチャンスを狙ってきている。
腐っても転生者と言うことで、その能力は計り知れない。
腐った方向にも、計り知れない。
「あの王が、服装とか、気にするわけもねぇよ。パイロットスーツで現れる野郎だぜ?」
「第一、転生者がほとんどだ。エルフとかケンタウロスとか、人間以外の種族も呼ばれていればよ、細かなことは気にしないもんだ」
UFOで王様の登場シーンにおいては、臣下の礼をしていたおっさんたちは、笑っていた。
あのときの服装も、とても謁見にふさわしいものではなかったが、突然UFOで参上されたのだ、仕方ないと思った。
なのに、もっとひどい格好でお会いにいくとは、思わなかった。
「この格好で、臣下の礼――っての、するんッスか?」
「いや、俺らはテクノ師団って所属の関係上………一応な。だが、レックはまだ、そこまで気にしなくていいさ。今回の転生者はどんなヤツか、見ておこうってところだ」
気軽そうに、おっさんが笑う。
国王を前にしても、この調子で良いのかもしれない。
それにしても、臣下の礼を取るということは、やはり礼儀は必要ではないのかと、底辺冒険者を自称するレックは混乱する。
ちょっと、震えてきた。
「やっぱり、偉い人………ッスよね」
王と、会うのだ。
地元のマヨネーズ伯爵に呼び出しを食らった、そのときも緊張したものであるが、さらに上の、国王なのだ。
この国の、一番えらいおっさんだ。
UFOに乗って、パイロットスーツにロングマントで登場して、魔王城で会おう――という、RPGのノリを大切にするおっさんでも、王なのだ。
腐女子カメラさんは、微笑んだ。
「ふふふ、レックちゃん。心配しなくてもいいのよ。その姿で可憐にご挨拶をしたら、王様もきっと喜んでくれるわ」
そんなことは、望んでいない。
レックがツッコミを入れようかと身構えると、ぞっとした。巨大なるマッチョの影が、レックを覆いつくしたのだ。
とんがり帽子が、トレードマークだ。
「あらん、遅れちゃった――」
魔女っ子マッチョが、レックを見下ろしていた。
方々で悲鳴が上がらないのが不思議だが、皆様、なれておいでなのだ。巨漢が魔女っ子のスタイルで、かわいいアピールをしているのだ。
腐女子カメラさんも、普通の対応だ。
「あら、アリスちゃんも呼ばれたの?」
「えぇ、マヨネーズ伯爵の都の転生者、全員じゃないかしら?」
にっこりと、マッチョは笑っていた。
本名はドッドという、ぼさぼさヘアーで毛皮でも身につけていれば、山賊のおかしらと言うおっさんである。
前世が90年代の女子中学生と言うことで、永遠の女子中学生として、魔女っ子スタイルで日々を過ごしている猛者である。
受け入れているこの世界の人々の、なんとも懐の深いことか。
「あらん、レックちゃんも、準備万端ね?」
レックは、思った。
「異世界、すげぇ~」
素直な、感想だった。




