『なぜ天才は、変態なのか』レックによる短い考察 3
水色のツインみつあみが、震えていた。
感動に、打ち震えていた。
「これよこれ、男の子といったら、半ズボンでしょっ!」
びしっと、レックを指差していた。
すでに、着せ替え人形と言う扱いはあきらめているレックである。望まれるままに、フリルのシャツに、半ズボン(サスペンダー付き)を身につけた。
良いところのお坊ちゃまと言う印象もある、あるいは、少女漫画に登場する弟と言うキャラクターなのだろうか………
レックは、遠くを見ていた。
「エルフの里のみんな、元気かな………」
いつもの、扱いだった。
15歳の冒険者にしては、レックは貧弱な坊やである。それは、魔法の力があれば、見た目の体格は意味を成さないためである。
2メートルを超えるマッチョと、魔力を帯びたレックでは、単純な力比べであれば、レックが上回る。
相手も同等の魔力の持ち主では、見た目どおりの結果である。
マッチョが、くるくると回りながら、喜びを表していた。
「ふふふ、ねぇ、コハルちゃん。ミニスカートだけが、すべてではないの」
いつの間にか、魔女っ子のアリスちゃんが、登場していた。
ご本人はミニスカートの自覚がないのか、サイズが合わないために、ミニに見えてしまっている。2メートルサイズのマッチョな魔女っ子は、かわいいアピールに忙しいようだ。
ホバー馬車で呼ばれた転生者の一人である。
前世を日本人にもち、覚醒したのは何十年も前と言う。そして、90年代ファッションをこの世界に持ち込んだ犯人だ。
それぞれに、王都ですることがあると、一時解散していた。国王との謁見の予定日は、2日後である。
その前に、厄介ごとと言う、王都へ呼ばれた目的の一つを済ませていた。
テクノ師団からの要請ということだったが、まるで転生者の会合のようだ。
「お姉ちゃんみたいに、忍者ばっかりもつまんないけど………」
「エリザベートお姉さまは、ちゃんと色々着せ替えしてたわよね?」
「はぁ、はぁ、なんで呼んでくんなかったのよ。仕事ほったらかして、写真取りに行ったのに」
変態の度合いが、増していた。
変態と思っていた博士も、なぞの女子圧力を前に、おとなしい。今研究室で一番えらいはずのジジイが、哀れであった。
哀れな半ズボンの少年、レックは魔力値の計測装置に触れる。
見た目は、体重計だ。
「久々の計測、いきまぁ~す」
このままでは、魔力値を巡って、賭け事が始まるかもしれない。罰ゲームは、レックが背負うことになるだろう。どれほどのファッションが隠されているのか、知りたくないのだ。
博士が、ノロノロと近づいてきた。
「ほぉ、アレクセイより上か………ベル坊といい勝負――おや、まだ上がるのか」
魔力値は、どうやらかなり上がったようだ。
そして、変態ジジイは、エルフの国で、『勇者の飯屋』の頑固親父と知り合いのようだ。かつての勇者様であるが、魔力は、どうやら多くなかったようだ。
苦労をしたのだろう。
コハル姉さんたちエルフも、興味を抱いた。
「う~ん、3000は欲しいけど――」
「人間にしちゃ、上のほうじゃないかな?」
「まぁ、わたしとおそろい、なら、やっぱりステッキにしましょうよ。赤と水色の魔女っ子スタイルで、一緒に戦うの」
「うへへへ、いいわねぇ、写真は任せて?」
いったい、この世界の転生者たちは、なにと戦っているのだろう。
もちろん、モンスターたちとである。自然現象として、魔力があふれる年になると、たくさんモンスターが発生するのだ。
並みの冒険者では、手出しできない強力なモンスターも、登場する。
一方で、レックのような転生者も登場する。魔力の余波と言う助けを借りて、異世界の知識を備えた人間が現れるのだ。
往々にして、並外れた魔力を持ち、この世界にはない知識で人々を救うのだ。人はそれを、勇者と言う。
エルフはそれを、勇者(笑)と呼ぶ。
テクノ師団が、もっとも顕著な例だろう。
懐かしき昭和の町並みや、スーパー・ロボットなどはオマケである。技術の提供によって、ヘリやマジカル・ウェポンシリーズと言う、魔力の値が低くとも、シルバー・ランク冒険者のパーティーを上回る力を得ることが出来るのだ。
バイクという、魔力頼みであるものの、自由度が馬を超える乗り物もある。
すべて、テクノ師団の手柄だという。中心となったのは、日本からの転生者たちのようだが………
全員、変態だった。
そして、変態は、まだいらっしゃるようだ。どこかからか、声が聞こえてくる。
「けけけ、新たなる転生者か――」
「くっ、くっ、く………身の程知らずが、ノコノコと――」
「しかり、しかり………とく、参じましょうぞ」
「はっ、我らが来たからには――」
物陰で、秘密会議をする悪役のセリフである。しかも、大物臭のする、ヤツは最弱――などと言う会議である。
まだ、だれも負けていないため、最弱指定される人は、いないようだ。
ノリのいいエルフちゃんは、プラチナブロンドをはためかせて、叫んだ。
「くっ、だれだ、姿を現せっ」
「ノリ、いいっすね~」
「ラウネーラだもん」
「いい、その表情、いただきっ」
カメラのフラッシュが、まぶしい。
レックは、ただただ、嵐が過ぎ去るのを待った。
四方から、白衣たちが現れた。
「マイナスドライバーのシュン」
「プラスドライバーの、ジョン」
「ガジェットのジライヤ」
「そしてオレ、設計のコジロウ」
ドライバー兄弟が、ややこしい。どうせ偽名だろうから、ちゃんとキャラ付けして欲しかった。
ジライヤさんは忍者ファッションである、エルフの国でくのいちコスプレをしているオユキ姉さんとは、気が合いそうだ。
すでに、友人かもしれない。設計図の山を背負っている白衣の人は、秋葉戦士のようにも見える。
そろって、ポーズを決めた。
「「「「四天王、ここに参上っ」」」」
爆発が、起こった。
ヒーローショーでお約束の、4色の爆発ではない。誰かがミスをしたのだろう、本当に、爆発が起こった。
『警告、システムが異常を検知しました。施設内の安全のため、エマージェンシーが』
お約束だった。




