『なぜ天才は、変態なのか』レックによる短い考察 2
魔法とは、何だろう。
とりあえずは、漠然とした感覚として理解している。そして、それ以上の理解は必要ないらしい。
博士と言う変態は、ふんぞり返っていた。
「物を落とせば落ちるように、磁石は金属を引き付けるように、そういう“力”がある。それだけだ………前世ではエセ科学とされていた、エーテルだったな。そんな力が、ここではある。魔法と呼ぶなり、好きにすればいい。他にもな、不思議な素材もあるぞ。レムリア大陸だったか、いや、アトランティス大陸だったな。オリハルコンと言う――」
レックは、聞き流した。
いくつかは、レックも知る知識である。ファンタジーでは普通の知識である、ジジイと言う変態がいつの時代の転生者であるか分からないが、その手の知識は、かなり古くから知られていたようだ。
エルフちゃんたちは、すでに退屈であるのか、研究室を歩き回っていた。
フラグではないか、なにかに触って、大爆発、あるいは暴走と言うフラグではないかと、レックは気が気ではなかった。
変態が、レックの肩をつかんだ。
「いいかね、ここはアトランティス時代に滅びたとされる超古代文明がだな――」
その後も、レムリア大陸やムー大陸と言うファンタジー用語が飛び交い、ついに宇宙人まで現れた。
古代に宇宙人が地球を訪れて、人類に知識を与えた。そのため、神々と呼ばれ、伝説として伝えられてきたのだという。
作り話だ、宗教の話だと思っていたが、転生して分かったと言い放った。地球へと転生した、異世界の知識を持つ人々の仕業だと。
もちろん、レックは聞き流した。
「死後の世界を見たという、楽園を見たという、そして、不思議な島にたどり着き、戻ってきた人の話があったが、それは――」
まだ、続いていた。
今度は、伝説や神話のジャンルに飛んでいた。
ファンタジー知識は、前世も少しは知っていた。受験勉強のために辞書を開くより、ラノベに手が伸びていた残念な受験生だった。
ネット接続までの判断は、秒だった。
そうして得られた知識であるが、博士曰く、すべて転生で説明できるという。
前世の記憶が、断片的に影響を与えたのだと。魔法が存在しないとされる地球でさえ、影響があるのだ。
なら、魔法の力に満ちているこの世界ならば、どうなるのか。
熱く、語っていた。
「いいかね、少年。ラウネーラの出身のスプルグでは、こちらで言う巨大ロボットが日常的にある。そう、ラジコンコンテストがスーパー・ロボットであり、イワマルには会ったか、あのドワーフめ、ワシには再現できぬと、エルフの国へ――」
異世界スプルグ。
プラチナブロンドの、ラウネーラちゃんの前世がいた世界である。
前世でも美少女パイロットとして名前をはせていたと自称するが、もちろん、異世界のことである、確かめるすべはない。
異世界ギダホー
キノコで巨大化するヒーローとそっくりに、巨大化するドワーフのおっさんの前世のいた世界である。
巨大生物がひしめき、ポーションのような薬で巨大化、しかも、自分と異なる存在へと変化させ、生き延びた種族だという。
変態は、空を指差した。
「そして、異世界ギョールだ。あの馬め、ケンタウロスらしく弓矢を放っていればいいものを、馬が生えているのに、走れよ。バイクが気に入ったのはいいが、前世のように考えただけで動けるようにしろだと?漫画の読みすぎだっ!」
ファンタジーという世界で、ジジイが叫んだ。
前世では、そのように親に叱られていたのかもしれない。
前世の浪人生は、空中を見つめていた。
自分で考えて、主人の思うように動くロボットは、それなりに存在している。お掃除ロボットが、絶賛活躍中だ。
ただし、思うだけで操るシステムは、いまだ存在しない。
つまり――
「無茶なのだよ。まぁ、操縦者が腕時計から命令する方式には、成功したがね」
小声で、ブツブツとAIが、AIが………と、つぶやいていた。
最近の転生者も、テクノ師団に在籍しているらしい。そして、そのおかげで半自立式のロボットが完成したようだ。
面白く、なさそうだ。
「とにかく、ラウネーラのような莫大な魔力の持ち主でない限りは、スーパー・ロボットは実現できぬし、馬のようにエルフ並の魔力でない限り、ロボットも動かせん」
ジジイが、立ち上がった。
レックは、おびえた。
必死に下がるが、天才は、空から降り注ぐ災いなのだ。
「さぁ、科学の発展のための尊い犠牲になるのだ」
災いだった。
気付けば、両サイドにお子様が現れた。
「レック、成長期なんだし、ちゃんと測ってもらいなさいね」
「ボクには届かないだろうけど、まぁ、がんばりたまえ」
エルフたちが、現れた。
このタイミングを、狙っていたようだ、魔力値を計測する装置が運ばれてきた。
コハル姉さんはお師匠様と言うか、お姉さんぶっている、いつもどおりだ。そして、ラウネーラちゃんは、ライバルを挑発するキャラのセリフで、えらそうだった。
だれが教えたのだろう、本当に、問い詰めたかった。
レックがそう思っていると、バタバタと言う、スリッパの音が近づいてきた。
「ラウネーラちゃん、コハルちゃん、サングラス、忘れてるわよ」
第2の変態が、現れた。
レックは、思った。
犯人だ。
とがったサングラスを両手にしたお姉さんこそ、コハル姉さんたちに異世界ファッションを教えた、犯人だ。
巨大な瓶底めがねの、ぼさぼさツインみつあみと言う、ヘアカラーは異世界らしい水色であるのに、見事に残念女子のスタイルを確立していた。
もちろん、白衣もボロボロだ。
「マキノくん、キミは、地方への――」
「コウゾウじいちゃん、いいから、女の子の身だしなみが優先なのっ」
年老いた父親と、介護をする娘に見えるのは、なぜだろう。
年齢は、『爆炎の剣』の魔法使い、カルミー姉さん世代のアラサーだ。オーバー30の、あるいは、若作りのアラフォーかもしれない。
心で年齢を推測することは、自殺行為だ。
瓶底めがねから、サングラスにチェンジしていた。
そして、レックに肉薄した。
警戒していたというのに、瞬時に、レックに肉薄していた。
「さてと、ボウヤ………前世での年齢は忘れようね、記憶を完全に継承しているわけでもないでしょうし――」
ツインみつあみが、迫ってきた。
どこから取り出したのか、サスペンダー付きの半ズボンを手にしていた。いつの間にか、大型のカメラを首からぶら下げていた。
なぜか、鼻息が荒かった。
レックはずるずると下がりながらも、疑問を口にした。
「ぜ、前世?」
まさか――と、疑問を口にした。
コハル姉さんたちにファッションを教え、知識を授けた犯人は、まさか、まさか――
「はぁ、はぁ………ショタ男子、きたぁあああああ」
レックは、思った。
変態は、一人で十分だと。




