『なぜ天才は、変態なのか』レックによる短い考察 1
博士が、現れた。
頭は、白髪頭だった。
天然パーマであるのか、それとも、爆発と言うお約束により、縮れたのであろうか。
もちろん、白衣だった。
つばを飛ばして、ジジイがわめいた。
「よこせっ!」
なにを――
そんな疑問を、レックが口にすることは出来るのだろうか、首を絞められていた。
それなりに冒険者として経験を積んできたレックである。命のピンチも、一度や二度は経験し、危機感にも敏感になってきたと、自負する15歳である。
首を、絞められていた。
「ぐ、ぐるじ、ぐるじじ――」
「だれがジジイじゃ、ワシはまだ少年じゃ、そこのエルフより年下なんじゃっ!」
わけが、分からなかった。
テクノ師団の研究者が、会いたがっている。呼ばれた理由の一つであり、押し付けられた厄介ごとだ。
UFOの件もあり、呼び出しには、素直に応じたレックであった。
ゴマをすることが、生き延びる道なのだと………
エルフちゃんは、文句があるようだ。
「いや、人間だったら、十分ジジイじゃん」
「見た目、ボク達より年上だし………生きた年齢も、年上じゃない?」
自信がなさそうだが、見た目12歳のエルフたちとは、同世代らしい。
あるいは、本当にジジイがエルフたちより年上なのか、この質問は、頭の中で考えるだけでも、命取りだ。
ロリババ――などと思い浮かべたら、にっこり笑顔で、エルフちゃんが接近を――
「ボウヤ、いま、なにか失礼なことを考えなかったかな?」
「ねぇ、ねぇ、おしえてよぉ~」
仲良しだった。
エルフとは、人間とは異なる命の流れを持つ種族である。なら、人間の年齢など、気にする意味がないと思うのだが………
乙女心は大変に、厄介だった。
今は、そろそろ命がピンチだった。
「ぐるじ、ぐ………ぅ」
ブラックアウトまで、あとわずかだ。
いや、アウトだった。
――ちょぼぼぼぼ
レックの意識は、いつもの香りで揺さぶられる。
懐かしい、頭からぶっ掛けられるポーションの香りは、とても高価な高級ポーションの香りである。
こんなことをするエルフちゃんに、レックは心当たりが一人しかいなかった。
むせ返りながら、ひとまずは、呼吸を確保する。
「ぜぇ、ぜぇ………こ、コハル姉さん、すいやせん、どうも」
死者でも、生き返りそうだ。
そんな気分で、本当に、生き返った気分のレックだった。目の前のエルフちゃんたちは、お怒りを納めてくれていたようだ。いつもの二人に戻っていた。
レックを危うく、次の転生先へ送りそうになったジジイは、まだ、危険な目をしていた。どうして、天才博士と呼ばれるジジイは変態なのだろうかと、レックは思った。
天才博士がいる。
テクノ師団を、今の形にまで発展させた偉人でもある。
そのような説明を受けて、レックはちょっと楽しみにしていたのだ。
恨み言も、すこしは口にしたかった。
せっかくの異世界ファンタジーの世界が、ややSFにされたのだ。便利になったが、コレジャナイ――という気持ちで、いっぱいになったのだ。
そんな天才を前に、レックはふてくされていた。
「ど、どうも………レックっす――」
改めて、自己紹介をした。
偉人を前に、まったく礼儀がなっていなかったが、下っ端パワーすら発動できていないとは、変人を前にすれば、仕方ないのだ。
敬意を払うべき天才と分かっていても、下っ端パワーの力をもってしても、態度はふてくされていた。
『天才』とは『変態』で『天災』なのだ
「よこせぇ~、よこせぇ~」
鼻息が荒い、精神がかなりあちら方向に危険なジジイだった。
コハル姉さんが、解説をしてくれた。
「若さをよこせ、アイデアをよこせ、前世の知識をよこせ――って、いっつも突撃するから、気にしないでいいよ」
女子であれば危機感がレッドゾーンを振り切っているジジイを前に、さすがはエルフのお姉さんだ。
見た目は12歳でも、さすがは年の功――
「ボウヤ、また、なにか――」
土下座をした。
コハル姉さんがゆっくりと接近する前に、レックは土下座をした。
「なんでもないでございます、可愛らしいエルフちゃん様」
何を言っているのか、自分でも分からなかった。
子ども扱いでも、馬鹿にしているのでもない。礼儀作法の一切と無縁ゆえの悲しさは、前世の暴走とタッグを組んで、悲惨だった。
ビビっているだけだった。
「そこはかとなく、馬鹿にされている気が………」
「ん~、とりあえず、必死なのは伝わってくるかな?」
コハル姉さんとラウネーラ姉さんとでは、やや温度差がある。
おしゃれを中心に動くコハル姉さんと、ロボットを中心のラウネーラ姉さんと言う違いである。
30分後――
「二足歩行ロボットなど、実現不可能だ。そう言われていたのに、転生すると、ロボットが歩いていたではないか………いや、ゴーレムと言うのだったか、今はアバターか、どうでもいいことだが――」
長話が、始まった。
昔話だった。
どうやら、博士の存命中は、ロボットの二足歩行は、不可能だと思われていたようだ。昔から、アニメでは普通に歩いて、おしゃべりをしていたと思うのだが………
前世の浪人生にとっては、ロボットは二本足で普通に歩き、挨拶をするものだ。現実が、SFに追いついた時代にいると、すこし誇らしかったものだ。
不用意な発言だと、後にレックは後悔する
「前から歩いてたと思いますけど………」
前世の子供の頃には、テレビで普通にサッカーをしていた。
よじ登るし、ダンスもしていた。
アニメではない、ゲームでもない、実際に存在していた。そういうものかと、子供の頃の前世は思ったものだ。
もうすぐ、新たな転生が始まりそうだ。よほど悔しいのだろう、その情熱を、悔しさを込めて、ものすごい力で、レックを締め上げていた。
「そうなんじゃ、あと何十年か生きていれば、ワシが、このワシが――」
前世は、何をしていたジジイなのだろう。
レックには、関わりのないことだ。十分に、注意をしてきたはずである。目の前の変態は、変態と言う名前がこれほどにあう博士はいないという、天才だった。
ひらめきと執念によって、この世界の魔法技術で、前世の科学技術のいくつかを実現させた偉人なのだ。
レックは、思った
あぁ、時が見える――




