王の都と、UFO
王の都だと聞いて、レックは、少し期待していた。
ファンタジーたっぷりの町並みなのだろうか。あるいは、突如として超高層ビルが立ち並ぶ、ちぐはぐな町並みであるのだろうか。
万博は、ここでも存在した。
「さっすが、王都はちがうッスねぇ~………UFOの登場ッスか」
やや、SFだった。
中世ヨーロッパといった町並みに、突如として円柱形上の建物が、万博の円盤を載せた建物と言う光景が混ざっていた。
円盤が展望台の代わりに、円柱状の建物があった。
そこまでは、いいのだが………
「飛んでるッスねぇ~」
「まぁ、UFOだからな」
「UFOって、飛ぶものでしょ?」
「ボクのロボも飛ぶよ?」
UFOが、飛んでいた。
古きよき特撮と言うUFOは、万博の建物に居座るだけでは飽き足らず、王の都の上空を、のんびりとお散歩していた。
レックは、ツッコミをいれる元気を失っていた。
「あ、こっちきた」
UFOが、こっちに来た。
「ほぉ、よく気付いたなぁ~………って、魔力感知装置もあったんだったな。エルフレベルがぞろぞろ歩いてれば、気付くか」
「あら、アブダクションされちゃうの?」
「え、なにそれ、あぶたくって、何?」
「コハル、ちょっとは落ち着きなよ。ボクたちは年上なんだからさ~」
「そっか、こいつらって、オレとあまり変わらんのか………」
レックたち転生日本人3人組に、エルフちゃんたちと、馬の人と言う全員は、王様に呼び出しを食らった。
モンスター大発生に対処したお礼を言いたいという。本音は、頼みごとと言う厄介ごとであると、経験者達は語った。
そうして浮遊するホバー・馬車で揺られて3日。到着した王の都で待っていたものは、アブダクションだったようだ。
ゆっくりと、下りてきた。
「ああああ、あの、光った。光ったッスよ?」
「なんだ、あのジジイ、こんなものまで再現しやがったのか………」
「ちょっと古めかしい………って、日本人の中では古株だったわね」
古きよき、特撮技術の黄金時代が、現れた。
レックの前世は、ラノベやアニメのみならず、SFや、もちろん特撮にも敬意を払っている。
まだ親が生まれていない時代の作品であっても、名作と呼ばれていれば、どれどれ――と、研究者気分で手を出したものだ。
リメイク版も、もちろん見ている。
「火星人登場ってオチは、ナシの方向で………」
「グラサン星人かもよ?」
「やぁ~ねぇ~、グレイっていうのよ」
レックに『大火炎パンチ』のおっさんに、魔女っ子マッチョなアリスちゃんという、日本人を前世に持つ3人組は、それぞれに登場キャラを予想した。
予想できないエルフちゃんは、ご機嫌斜めだ。
「ちょっと、かせいって何、ぐれいって?」
「ふ………ファッションにばかり興味を持っていたコハルが………成長したものだ」
銀色に光る金髪のロングヘアーをふわりと風になびかせて、ラウネーラちゃんが、なにかを気取っていた。
プラチナブロンドのエルフちゃんは、古きよきSFにも、興味がおありのようだ。そういえば、ロボットアニメの敵キャラクターには、UFOも含まれているのだった。
馬のおっさんは、一人蚊帳の外で、眺めていた。
そして、ついに――
「我こそが、この王国の国王である」
おっさんが、現れた。
ライダースーツに、なぜか獣の皮で作られた、とても長いマントを引きずって、空中から吊り下げられていた。
レックは、指を刺した。
「………公開処刑ッスか?」
やむをえない、反応であった。
ぷらぷらと、宙吊りのおっさんが現れたのだ。恥ずかしくないのだろうか、そんな気分を抱いても、仕方ないのだ。
国王と言うおっさんの顔など知らないレックは、あきれた顔で振り向くと――
「??????」
皆さん、お辞儀をしていた。
しかも、ファンタジー作品でおなじみの、片ひざをついて、片手を胸においてお辞儀をするという、臣下の礼というスタイルで、お辞儀をしていた。
コハル姉さんとラウネーラちゃんたちエルフの態度は変わらない。
そういえば、始祖とも言えるハイエルフの前でも、エルフにとっての神様といえる幼女様の前でも、態度は同じであった。人間の国の国王を前に、態度を変えるはずもない。
だが、レックは?
「………首、ちょんぱ――?」
だらだらと、冷や汗をかいていた。
恥ずかしい姿のおっさんの登場だ。そんな気分で振り返ると、皆様が敬意を払っていたのだ。
馬のおっさんまで、臣下の礼をしていたのだ。
「王様って、どんなお人なんッスか?」
レックは、震えた。
もう、終わりだ――と、少し壊れ気味だ。
『マヨネーズ伯爵』のお屋敷へ招かれたときも、緊張していた。下手な言葉を口にすれば、首がチョンパされちゃう――と、ビビリまくっていた。
何度かお会いすることになり、すこしは緊張も緩んでいたが………
今度は、王様だ――
前世の浪人生は、格闘漫画のスタイルで、空を見上げていた。なぜか、使い古した青い同義に、真っ白な鉢巻のスタイルだ。
空を、見上げていた。
おっさんたちの態度が、教えてくれている。古きよき特撮のUFOから宙吊りになっているマント様が、王様だと。
レックは、ライダースーツのマント様を見つめたまま、固まっていた。
「召喚された勇者って、いきなり王様と謁見スタートって………主人公達、改めてすげぇッスね」
現実逃避のセリフだった。
謁見の場での遭遇なら、予想できた。石畳の広いお部屋に、たくさんの大臣や貴族の皆様が並ぶ中、一番高い土台の上に、玉座に座っているのだ。
玉座から、人のいい笑みで歩いてくるかもしれないし、座ったままかもしれない。
この国の王様は、UFOから現れた。
臣下の礼をしたまま、おっさんは笑う。
「まぁ、フィクションであり、登場人物は――だからな。それに、いきなり王様の広間なら、驚きすぎて、緊張どころでもないだろうよ」
「そうねぇ、いきなり空のど真ん中で落下中とか………まぁ、勇者を呼んだ側も、余裕がなかったんでしょうけど」
魔女っ子マッチョさんも、臣下の礼をしたまま、笑っていた。
異世界の物語は、思ったより昔からあったようだ。前世の浪人生も、確かに――と、学者風に考える。
レックは、この光景が、幸せな思い出の最後の一ページだと思うと、とても感じ入るものがあった。
さよなら、人生――
そして王は、宣言した。
「では諸君、魔王城――じゃなかった、城で会おう」
RPGが、お好きなようだ。ゲームの中盤で現れたラスボスのセリフをはいて、そのままUFOにアブダクションされていった。
何しに出てきたんだよ――というツッコミが出てきたのは、ずいぶんと後になってからである。




