使ってみよう、マジック・アイテム 3
魔法のステッキ
魔法を使うための、補助アイテムだ。
術者の負担を減らし、術者だけでは不可能だった大きな魔法を放つことが出来るという。レックがよく知るのは、カルミー姉さんの杖だ。
冒険者になりたての頃からお世話になりっぱなしの『爆炎の剣』の魔法使いである。
中級魔法がせいぜいだと、カルミー姉さんは言っていた。しかし、杖を使えば上級魔法に匹敵する魔法が放てるのだ。
レックが杖を持てば、どうなるだろう――
「練習二日目、いきまぁ~す」
だれていた。
二日目で、さっそくだれていた。
魔女っ子のマッチョさんは、簡単に魔法を使っていたのだ。なら、おなじ日本人の転生者として、うまくいくと思ったのだ。
レックは、だれていた。
思うように魔法が使わないため、だれていた。うまく魔法の力を導き出してくれる。そんな便利アイテムでは、なかったようだ。
「レック~、力を入れすぎ、丸太で習字をする感覚でいいの」
「いや、それって、無駄に力を入れすぎてないか?」
「うふっ、だって、エルフですもの?」
見物人は、一人減っていた。
スーパー・ロボットのパイロットちゃんは、すでに退屈して、どこかへと飛び去った。宝石にロボットが隠れていたようで、なんとも迷惑な旅立ちだった。
その翌日――
「ねぇ、アリスちゃん。魔女っ子の新しいアイデアとか、もうないの?」
「無茶言わないでよ、転生したのって、何十年前だと思ってるの?再現できるアイテムにも限界があるしねぇ~」
見物人は、さらに減っていた。
下手をすれば、あんたも練習しなさい――という、中学生コンビ?による攻防が始まるため、テクノ師団の『大火炎パンチ』のおっさんは、お逃げになったのだ。
さらに翌日――
「レックぅ~、焦っちゃだめよ、千年の道も一歩からなんでしょ。転生者ならきっと、100年くらいで、なにか出来るようになるわよ」
「もう、コハルちゃんったら、人間はそんなに生きられないわよぉ~」
中学生コンビは、辛抱強く、レックに付き合ってくれるようだ。コハル姉さんなどは、師匠面が出来て楽しいらしい。
ただし、エルフの国と異なり、魔法の実技はしてくれない。
幸いである。
エルフの魔法は、大規模かつ、大災害である。相手が数十メートルサイズのモンスターであれば、頼もしい。
街から少し離れた程度の草原でも、周囲への被害が、恐ろしい。
いや、細やかな妙技を見せてくれたマッチョコンビもいたはずだ。地獄の門番と言う印象の、解体職人の兄貴達である。
あれは、風の魔法のカット系やスラッシュ系で、大きな肉の塊が、適度にカットされ、スラッシュされ、ミンチにされて、ペーストにされていった。
仕分けも完璧に、場合によっては、各種香辛料で下味までつけていたのだ。
完璧な、魔法である。
魔法で、お料理が出来るようになる。それは、夢のようなお話で、夢を実現するための努力は、絶望的なのだ。
魔法について知るほどに、兄貴達の魔法のすごさが、よく分かる。
せめて、一つくらいは使いたかった。
「ウォーター・すらああああっしゅっ」
杖を、大きく振りかぶった。
ウォーター・ボールは、すでにあきらめた。何事も、苦手分野が存在する。ならば、新たな魔法に手を出せばいいのだ。
少しでも、魔法を使いたいのだ。
だが――
「自分に向かって暴発してないぶん、ベル坊よりは、マシかな?」
「あったわねぇ~、ベル君って、熱血野郎だったから」
水をかぶったまま、レックはたたずんでいた。
そして、約束の日――
「おぉ~い、お迎えの到着まで、あと半日だ。しっかり準備したかぁ~?」
おっさんが、のんびりと歩いてきた。
知り合いが、全員集合らしい。馬というTシャツのマッチョが、後ろからついてきた。相棒のバイクの人は、お休みのようだ。
「ボウズ、やっとマジック・アイテムを手にしたか………どうだ、少しは出来るようになったのか?」
馬の人が、やってきた。
なぜか、馬モードで歩いてきた。まさか、街中を、おっさんを背中に乗せて走ってきたのではないだろうか。
普段からヘリを使って移動していない、町の外に基地があるテクノ師団は、普段はとっても質素らしい。
「お着替えなら、やっぱりハートのステッキに合わせて――」
「まって、ミニスカートにこだわらなくても、ふわふわの――」
なにやら、不穏な気配が漂っていた。
真剣だった。
レックのアイテム・ボックスの容量であれば、100着であっても問題はない。
コハル姉さん達も、アイテム・ボックスの能力を持つ宝石など、色々とお持ちのはずで、衣装の数は、数えたくない。
旅立ちの日、レックはミニスカートか、ふんわりふわふわスカートか、究極の選択を迫られていた。
同じ馬車に乗る面々は、全て顔見知りとしても――
恐る恐る、手を上げた。
「あのぉ~、あっしは、おしゃれなんて――」
儚い望みだった。
本当にもろく、口にする意味があるのかと言う、吹き飛ぶ言葉だった。
「何言ってるのよ、せっかくの着せ替え人形――じゃなかった、オモチャなんだから」
「コハルちゃんったらぁ~、本音しか出てないわよ?でも、若いうちにしか着れない服ってのもあるからね――はい、これ」
ずいずいと、オススメの服を持って、女子中学生コンビが迫ってくる。
レックは、じりじりと後ろに下がりながら、涙目だ。
「か、かぶせ気味にこなくても………」
全ての衣服は、もって行くことが確定している。
そこに、馬車の音が近づいてきた。
ぱから、ぱから、ぱからっ――と、馬の足音が近づいてきた。同時に、ガラガラガラ――と言う、車輪の音も近づいてくるだろう。
そう思って耳と生ませていても、どうにも、シルエットがおかしくなってきた。
「………あのぉ~、お迎えの馬車って」
「あぁ、テクノ師団からの流用品だってな」
「技術の提携………っていうか、一般向けの試作タイプじゃなかったか?」
「へぇ~、王都の馬車は、あれが最新かぁ~」
「技術の進歩は、異世界でも早いのねぇ~」
皆様、のんびりと見つめていた。
だが、レックは言いたかった。
指差して、叫びたかった。
「へへへ、やってくれましたね、転生者ども――」
レックの笑みは、ひくついた。
たしかに、馬車と呼んでもおかしくはない。屋根付きの四角いお部屋を馬が引っ張っている形は、馬車だった。
だが、車輪がなかった。
車体が、浮かんでいたのだ。浮遊する客室を、馬が引っ張っているのだ。
レックは、叫んだ。
「馬、いらないじゃんっ!そのまま走れよ、浮遊だけなの、何なのっ」
本音が、とうとう口から出た。
馬が、浮遊するお部屋を引いて走るような、何ともSFチックなファンタジーと言う光景であった。
この世界の馬車は、ややSFだった。




