第26話 キミのカッコいい所が見たい
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俺とセンセイはアノンの主導のもと《旧都》の本部へと向かうべく翼速竜にて空の散歩と洒落込んでいた。
「ムコ殿、体調悪そうに見えるんじゃが?」
数日前から自覚はあった。
明らかに俺にはとある栄養素が不足していたのだ。
残りの日数を乗り切る為にも、どうにかして俺はその栄養素を補わなければならなかった。
それなのに……無慈悲なことにそれを妨げげんと凶悪なアクシデントが俺を襲った。
アクシデントとは先程の───
「センセイ……大丈夫ですよ」
「大丈夫そうには見えないんじゃが」
いつもはイタズラ猫のようにからかってくるセンセイの心配をよそに、俺は先程の出来事を思い返していた。
○○○
竜の咆哮と共にアシュリーの屋敷に来襲したのは、やたらゴツい鎧に身を固めたげにむくつけき漢達の集団であった。
彼らは空を埋め尽くさんばかりの翼速竜に跨がり、剣に槍にと、様々な獲物を天を突き刺すように構え、奇声にも等しい雄叫びを上げたのだった。
「「ウオオオオオオオオオオ!!!」」
その姿は控え目に言っても不逞のヤカラのそれであった。そんな奴らが奇声を発しながら大勢現れたのだ。すわ襲撃か! となっても不思議なことではないし、俺が、彼らに向けて「かかってこい! バケモノ共! みんなは俺が護る!」と腰の剣に手を掛けたとしても仕方のないことだった。
「ロウ、やめやめ。変な集団じゃないから。彼らが《益荒男傭兵団》さ」
アノンが言うやいなや、翼速竜が地に降り立たたんとばさりばさりと降下し始め、
「グギャアアアアアアア!!」とか「ゴアアアアアアアア!」などといった鳴き声を上げた。
竜の雄叫びに共鳴するかのように鎧の漢達が咆哮を上げた。
「ガンホー! ガンホー!」「ガンホー!」「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」「ガンホー!」
ガンホーって何?
ただでさえゴツい鎧がむさ苦しくて暑苦しいのに、雄叫び効果で150%増であった。
それに反比例して俺のSAN値は急激に下落した。
「僕は、常々思うんですけど」
アノンが俺の呟きを耳にして「ん?」と首を傾げた。
「爆音を上げる乗り物と、その乗り手はすべからく滅びるべきだと思うんです」
「何かキミ怖いよ……どうしたのさ?」
「滅びるべきだと思うんです……」
パチン!
俺はアノンにオデコを叩かれたのだった。
「はっ! 俺は何を!」
「このおバカ! 何が『はっ!』だよ!
せっかく手に入れた移動手段と戦力を相手取ってどうするのさ!」
くすん。冗談なのに。
「アノンと聖騎士はいるかァ?」
翼速竜と漢達の怒号の中にあって一際身体の芯から震わせるような低い声が響いた。
声の出所は巌のごとき漢達で築き上げられた、金属鎧壁のその最奥であった。
そこにいたのは、他と比べて明らかにサイズの異なる翼速竜とそれに跨がっている全身鎧の男性であった。
というかあれどう見ても翼速竜じゃないよね? 他のに比べて二倍以上大きいんだけど? 遠近法狂ってる? デカ過ぎィーー!
それに何なのあの鎧、他の団員より二回りは大きいんだけどご立派ァ!!
全ての団員が着陸を果たした後、一際巨大な竜が地にドドンと降り立った。
その竜の背から「ハアッッ!!」とデカ鎧の男性が暑苦しい声と共に両手を広げて跳躍した。ドドムというむさ苦しい着地音と共に、彼は再び剣を天を突くように掲げた。
恐らく彼が《益荒男傭兵団》の団長なのだろう。
「ガンホー!」「ガンホー! ガンホー!」「ガンホー!」「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」
まるで団長を祝福(?)するかのごとく団員も続々と奇声を上げ始めた。
だからガンホー! って何だよ!
彼等の声が大気を震わせる中に、アノンとアシュリーは彼等の前へと足を進めた。
「私は聖騎士アシュリー・ノーブル。《益荒男傭兵団》とその長であるサガ・アサルトボディ──急な依頼であったにも関わらず快く引き受けていただき、そしてこの度遠路遥々御足労いただき、本当に感謝している」
アシュリーが名乗りを上げ、彼等へと感謝の言葉を告げた。
その威風堂々たる佇まいたるや、まさに堂に入ったものであった。
「おーう、先日ぶりだなー。聖騎士の嬢ちゃん。それからアノンよォ」
団長───サガ・アサルトボディはヘルムを外し「ぷふぅー」と一息吐くや、二人と挨拶を交わした。ようやっとフルフェイスを外すと、短髪の野性的な男性が姿を現した。力強そうな二枚目男性であったが、汗が気化したのか『ムワァァ』と湯気が立ったように見えた。
控え目に言っても漢臭くて死にそうだった。
恐ろしいことに団長以外にも大勢のむくつけき漢達がの登場が未だ控えているのだ。彼らもヘルムを外すときっと、いや絶対に『ムワァァ』とするのだ。
持ってくれよ俺の身体ァァァ!!
「聖騎士の嬢ちゃんよォ、忘れちまったのかァ? 俺らは依頼を引き受けるとは言ったが、それは俺から出した条件をクリア出来たときだけってよォ。だから今回は依頼を受けるに値するかわざわざ前もってェ、見に来てやったってワケだァ」
条件? 値するか?
おおう、何故か嫌な予感がする!
こういう時の俺の悪い予感は高確率で的中しちまうんだぜ!
「ロウ」
後ろからガッシとアノンが俺の肩を掴んだ。
今まさに予感が的中しつつあることに、俺はごくりと喉を鳴らし「何だい?」と答えた。
「彼らはね、依頼を引き受けるために金銭と、もう一つ条件を課したんだ。それが、『依頼主が信頼に足る強さを持ってること』だったんだ」
「ロウくん、前回アノンと共に《益荒男傭兵団》の本部を訪ねたときに、私は彼らの主張に従って彼らに強さを示そうとしたんだ。そしたらアノンがね、『ロウがやってくれる!! だからアシュリーは下がるんだ!!』って声を荒げてね───あんなアノン初めて見た……本当なんだよ! 私が団長と戦うと提案したんだけど何だかあの時のアノン怖くてさ……」
アノンが《益荒男傭兵団》の求める条件を説明すると、アシュリーが当時の状況を補足してくれた。
「ねぇ、ちょっと。俺の肩に指が食い込んでるんですけど」
「何を言ってるかわからないよロウ。
よしきた! キミの出番だよ! 彼らを相手に大立ち回りをしてもヨシ! 団長と一騎討ちしてもヨシ! ワタシにキミのカッコいいところを見せてくれたまえ!」
「あたたた! 痛ッ! 指ッ! 指が食い込むというかめり込んでる! めり込んじゃってるから!」
俺の肩にかかったアノンの異常なパワーを前にして、『ムワァァ』とした状況から、どうすれば最短で逃れられるか頭をフル回転させたのであった。
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