第22話 聖騎士 vs 聖騎士
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彼女の屋敷から出てすぐにアシュリーの訓練所があった。
「二人とももう少し離れて。それからお互いにスキルと魔法の使用は禁止。いいかい?」
アノンは俺達にルールの念を押し「それじゃあ始め!!」と 戦闘開始の合図を告げた。
○○○
アシュリーは慎重だった。
同じ聖騎士と言えど、俺とは戦闘のスタイルが違った。
俺は盾は持たず、剣一本で攻守をこなすスタイルだった。そもそも回避と剣による受けが俺の防御であったので、盾は必要なかった。
対してアシュリーは木剣に、訓練用の鋼の大盾を装備していた。その大盾は鋼製であり、女性の背丈ほどの高さを持つ非常に大きなものであった。
構えや装備からして、彼女はじっくりと守り相手の隙を突いて仕留めるタイプだろう。
俺が聖騎士として異端なのであって、アシュリーの方が聖騎士としてはスタンダードなスタイルであろう。
半身を盾に隠した彼女の目は鋭く、決して隙を逃さないという強い意思を感じた。
まどろっこしいのはヤメだ。 先に攻めるッ!
「アァッッ!」っと気合いを上げて木剣を上段から振り下ろした───がしかし彼女の盾によって阻まれた。
大盾だものな、そりゃ防がれるわな。
なら浮かんだ二通りの攻略法───まずはその一つを試そうじゃないか。
一つ目のアシュリーの大盾攻略法は速度だった。
速度、速度、単純な速度だ。
取り敢えず一つギアを上げよう。
まずはアシュリーの盾を息も吐かせぬ連撃で叩く。
カカカと木剣が盾に弾かれる音が響いた。
盾から覗く視線は、抜け目無く反撃の隙を窺っていた。
そしてそれが起こったのは連擊の切れ目───俺が連擊の最後に距離を取ろうと一際強い切り上げを盾に当てた直後だった。
アシュリーが半身以上に身体を露にし、突きを放ったのだ。
それは俺からすると最高に厄介な一撃であった。
俺が一息吐いた瞬間であり、さらに俺が瞬きをした一瞬であり、それに加えて俺からの認識面積を減らす為の完璧なる突きだった。
まさにアシュリーによる絶技とも言える不可避の反撃であった。
すわ、刺さる! という刹那で、突き出された木剣に、間一髪で俺の木剣を下から突き上げることで、彼女の突きの勢いを殺し、何とか事なきを得たのであった。
「ふぅ」と距離を取る。
次はアシュリーからの反撃対策が必要だ。
それこそが、ただの速度ではない、的を絞らせない高速移動を交えた連擊だった。どっしりと盾を構えた彼女へと再び斬りかかった。
カカカカカ──木剣が大盾を削り───カカカカ───一歩たりとも同じ場所には立ち止まらない。
死角から死角への移動だ。
しかしアシュリーは器用にその全てをいなした。
ただ、彼女の鉄壁とも言えるガードにも少しずつではあるが綻びが生じつつあることに俺は気付いていた。
「ッッ」と苦悶の声を上げたのはアシュリーだ。
このままさらに速度を上げて的を絞らさずやれば彼女のガードを崩せるだろう。
「これぐらいで聖騎士様のお眼鏡に適いませんかねぇ?」
もちろん、彼女もこのままではジリ貧だと自覚しているはずだ。
けれど───
「こんなもんじゃまだまだだよッッ!」と盾を突き出し俺を吹っ飛ばした。
「さすが聖騎士アシュリー」
あの三人を相手にたった一人で互角以上の戦いをしたというんだから冗談みたいな存在だ。
生半可なことでは彼女を挫くことは出来ないだろう。
ならば、二つ目のアシュリー攻略法。
それこそが、
「力こそがパワーなんだぜ!!」
名付けて『力こそパワー作戦』。
この頭の悪い作戦を実行すべく、俺は低い姿勢で地を蹴り、一足飛びで彼女の大盾の前に踊り出た。
そして地を蹴ったときに得た推進力の全てを以て、木刀の柄を大盾に叩き付けた。
「何ィ!!」と驚愕の声を上げたのはアシュリー。
俺はアシュリーの鋼の大盾をぶち抜いたのであった。
そして俺はアシュリーがこれくらいでギブアップするような甘い人間でないことをこの短い間でよく理解していた。
ぶち抜いた箇所をむんずと掴み、盾を───そして盾を握るアシュリーもろとも垂直まで持ち上げて、
「うおらッ!」
一気に地面に叩き付けた。
「きゅー」と目を回し地面に倒れ伏すアシュリーを見て、アノンが血相変えて走ってきた。
まさに試合終了の合図であった。
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いつもありがとうございます。
誤字報告ほんとに助かってます!
大量にいただいて感謝しかありません。
次の更新までまたしばらくお時間いただきますが、
プライベートが落ち着き次第また投稿速度を上げますのでよろしくお願いします。