第14話 れっつらごー
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センセイは普段から飄々としているが、セナを思いやる態度や眼差しには確かな愛情を感じさせた。
確かにセナとセンセイの関係を表す言葉は、師弟というよりも親子の方が近いかもしれない。
「ロウ、キミ、結婚してたの?」
アノンが油の切れたロボットのような調子で俺に問うた。
「い、いやちょっと待ってくれよ。これには深い事情が───」
「男はね、何かあったときには、みぃーんなそう言い訳するんだよね」
俺とアノンのやり取りを見て、センセイは「くっふふ」と堪えきれぬ笑みを漏らした。
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アノンは「後で落ち着いたら話を聞かせてもらうよ」と俺の肩を力強くぎゅぎゅっと掴んだ。
「よし、切り替えていこうじゃあないか」
彼はそう言うやいなや、俺の肩をパンっと軽く叩いて「テーブルの上はそのままでいいから付いてきたまえ」と俺とセンセイを先導した。裏手の扉を通り、彼の後を追い、少し歩いたところに、そいつはいた。
「こいつは一体?」
長い首を地面に伏せて目を閉じている竜だった。
その翼は鳥類の面影を色濃く残していた。
「こいつは翼速竜。ちょうど出先から帰ってくるために、先日までワタシが借りていたんだ」
アノンの説明によると、翼速竜は戦闘力に関してはそれほど高くはないものの、飛行速度に関しては竜種において上から数えた方が早いほどなのだという。
戦闘力が低くて、飛行速度が速いということは、こいつはドラゴン界における草食動物みたいなもんか。
「まず翼速竜を何に使うかって話なんだけどね、こいつは馬車や馬に乗るのに比べて格段に速い。
だから広い範囲で活動してる探索者や、忙しい商売人や、どうしても本人が出向かないといけない場合に貴族なんかがよく利用してるんだ」
「へぇー」
「『へぇー』ってちょっとキミ、一言くらいワタシを誉めてくれてもいいんじゃあないかな?
ワタシはね、キミがすぐに戻ってくることを見越して、キミが再訪する前に、翼速竜の利用延長の申し出に行ってさ」
アノンが拗ねたような空気を醸した。
顔は見えないが声音や雰囲気でそれがわかった。
聖騎士の居場所を聞きに来たはずが、彼女の所に行くための移動手段まで用意してくれていたのだ。
今更ながら、アノンには労いの言葉一つ掛けていなかったことを反省しつつ、
「ありがとよアノン! 頼りにしてんぜ!」
彼に感謝を告げ、背中をパンと叩いた。
「あ、ああ。そうそう、そうだよ、もっとワタシを褒めたまえ!」
何故かアノンは少しどもりながら、最後は勢いよく胸を張った。
その様子がおかしくて、俺は彼をさらに誉めることにした。
「アノン気が利く!」
「はっはっは!」
「アノンは思いやりがある!」
「はっはっはっはー!」
「アノンは頭がいい!!」
「はーっはっはっは!」
「なぁ、お主ら」
センセイが俺達に声を掛けた。
「何やっとるんじゃ?」
センセイのこんな目を初めて見た。
こんな冷たい目付きも出来るんですね。
それにしても一体俺は何をしていたんだ?
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空の旅は思いのほか快適であった。
地球では味わえないだろう、身体を剥き出しにした空の旅であった。
御者を務めてくれているのは前に座るアノンだった。
竜種自体が巨体であり、例に漏れず翼速竜も中々の大きさであった。
今現在、大人三人がその背中にまたがってもまだまだスペースには余裕を感じられた。
空の旅だし寒いんじゃないかと心配もしたが、レンタル翼速竜にはその辺も考えて魔法具が装備させられていた。
そのため寒さも感じずに、相当の速度が出てるはずなのに空気抵抗すら感じなかった。
けど落ちたらヤバいんじゃ? と先程アノンに疑問を呈したところ、竜の背に乗る際は、騎乗する人が専用のロープ状の魔法具を装着することで、その危険性はほとんどなくなるらしい。
アノンからの説明を思い返していると、一際強い風が吹き髪がはためいた。
出発時より、視界がさらに赤くなった。
夕日が沈む時間に差し掛かっていた。
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後ろのセンセイが俺の腰に手を回していた。
知ってか知らずか、その、ほら、センセイのあれが俺の背中にむにょんと当てられていた。
何となくいたたまれなさを感じていると「くふ」とセンセイのイタズラボイス(イタズラしたときにするセンセイの笑い声)が聞こえた。
やっぱりわざとじゃねぇか!と心の中で独りごちていると、
「あててんのよ、じゃったか」
「でしょうね!」
センセイと他愛ないやり取りをしながら、今俺の後ろにいるのがセンセイじゃなくてセナなら良かったのになぁ、と気が付けばセナのことに思いを馳せていた。
そしてそれを切っ掛けにして、今回俺が山を降りる際に見せた、セナとセンセイとのやりとりを思い返していた。
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