第9話 聖騎士 vs 聖女&剣聖&魔法使い②
○○○
「《全強化+》」
アシュリーが一つ目の自己強化を終えると同時に、相対した剣聖の剣が振りかざされた。
瞬間的に彼女は、盾ごと切り裂かれる錯覚に陥った。
故に、盾で受けるのではなく受け流した、その勢いを利用し後ろへ下がり少し距離を稼いだ。
「《守護神》」
自分や味方を護る際、もしくは本人が回避行動をとる際に、通常の二倍の能力を発揮できる聖騎士の固有スキルだ。
アシュリーのすべきことはシンプルだった。
目の前の彼女達を排除し《是々の剣》から遠ざけることだ。
相対するエリスの攻撃は縦横無尽の連撃であった。
スキルの二重掛けでようやく彼女の攻撃をいなすことができた。
それでも全てが紙一重であった。
烈火のごとき攻めの剣聖を相手にするだけでも薄氷を踏むかのようなギリギリの戦いなのに、後ろにはさらに二人が控えていた。
「《我が身は盾である》」
次に彼女が用いたのは攻撃力が20%が失われる代わりに、防御力が二倍になるスキルだった。このスキルの効果によって、剣聖エリスの連撃を受け流さずに正面から受け止めることがようやく可能となった。
アシュリーはぐぐぐとエリスの剣を受けたが、「フッ!!」と息を吐き、そのまま盾を前に突き出すことで、彼女を洞窟の入り口まで弾き飛ばした。
「エリスさん何やってるのですか」
聖女が溜め息を吐いた。
相手をいつでも倒せるのに何をしているのかしら───とでも言いたげな態度が癪に触った。
「《苦痛を讃えよ》」
さらにアシュリーはスキルを重ねた。
戦闘中の痛覚が二倍になる代わりに、防御力が二倍になるスキルだった。
そしてこの時点でスキルの四重掛けとなった。
スキルの四重掛け以上は、絶大な効果が見込めるが、反動があまりにも大きく、使用者が無事に済まないとされていた。
しかし───
「我が身はどうなろうと構わない!
どうした! そこの二人もぼーっと突っ立ってないでかかってこい!」
アシュリーには確固たる覚悟があった。
そして、護ることに特化した聖騎士であるアシュリーには、彼女達を一度で倒す術は一つしかなかった。
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「勇者様からは、あまり傷つけるなと命じられてるから激しい魔法は使えないのよね」
魔法使いの女性が───彼女が噂に名高いアンジェリカだろう───アシュリーの挑発に乗る形で声を発した。
「じゃあ、まあこんなとこからいきましょうか」
彼女の声音はランチメニューを決めるときのような気軽さだった。
「《水槍》」
初級の水魔法を超圧縮して先端を螺旋状の槍に固定し、解き放つ彼女の固有魔法だった。
威力は強烈の一言に尽きた。
ギャギャッッ!───と盾を抉られる感触───これは───ダメだッッ───アシュリーは即座に受け流しに変更した。
クンと盾を傾げ水槍の勢いを殺したが───それでも水の槍は洞窟の天井へと突き刺さり、まるで削岩機のようにガリガリと内部へと潜り込んだ。
アンジェリカの放った魔法の威力にアシュリーは自分が冷や汗をかいていることに気付いた。
けれど手を止める時間はなかった。
剣聖が戦線に復帰したからだ。一瞬の出来事だった。エリスが、剣の出所が分かりにくい下から切り上げた。
盾での受けが間に合わず、アシュリーは回避を選んだ。
「苦しいでしょう。聖騎士アシュリー」
アシュリーの腕から一筋の血が流れた。
「ここで剣を渡したところで誰も貴女を責めやしません」
アシュリーにとって責めるとか、責められるなどといったことは些事であった。
「むしろ、迷宮踏破に貢献したと称賛されるやもしれませんよ」
アシュリーにとって称賛されることは物事の本質ではない。
彼女にとって最も大事なことは平和を護ることだった。
市井を生きる民が安心して生きていけるようにすることこそが、彼女にとって何よりも優先すべきことだった。
そのためであれば、甘んじて謗りを受けよう。
「称賛だって───? そんなものは、いらない」
そう、彼女にはそんなものは必要なかった。
「頑固な人ですね」
聖女はふぅと溜め息を吐き、
「手加減は出来ませんよ?」と笑みを消した。
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剣聖の連撃はより巧みな、盾の死角を突くものとなった。
それに加えて、
「《水槍》くらいじゃ通じないか。うーん。ならこっちね。《水時雨》」
魔法使いアンジェリカが広範囲に水を圧縮して作った針を飛ばす───彼女お気に入りの魔法を放ってきた。
「ぐ、うぅ」
相対する勇者パーティの面々は圧倒的であった。
聖鎧によって護られてるとは言え、無数の水の針と、剣聖の苛烈な攻めでアシュリーは既に傷だらけであった。
一人一人が自分と同じレベルの戦力であり、なおかつ一対三での戦いである。
始めから勝負は決まっているようなものだった。
「ぐうううぅ───」
さらに激しくなる猛攻に、致命傷のみを避けて何とか捌き続けたアシュリーは、苦悶の声が漏れるのを堪えられなかった。
されど───されど、彼女は勝負を投げ出したりはしなかった。
己の持つ、細く険しいたった一つの勝ち筋を手繰り寄せ続けた。
そして、そのときが来た。
アシュリーは何とか相手から距離を取り一度息を吐いた。
彼女は覚悟を決めた。
「《愚者は時計を見ない》!!」
このスキルを用いることで十二分の間は身体能力が三倍となる。ただし十二分を超えると戦闘継続が不可能になるほどに能力が減少するが───
アシュリーの覚悟──それは己の身体を省みない、禁忌とも言われているスキルの五重掛けであり、何としてでも剣を護ってみせるという聖騎士としての決意であった。
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