第2話 悲報は彼らの失敗
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「ほんじゃ行ってくるからよ。昼ご飯と晩ごはんは冷却箱に入れてるから食べる前に温めとくれよ」
そこまで言わなくてもさぁ、山田世話焼き過ぎだろ。
なんて思ってるそこのお前達、そこにいるんだろ?
わかるぞ。お前達のその考えは甘過ぎるんだよなぁ。
彼女達はそもそもご飯を食べなくていいし、日がな一日寝てるだけでいい。そういう生き物だ。なんなら掃除も家事も何もかもしなくていい。やろうと思えば植物の様な生活も送れるような人種なのだ。
俺がちゃんと言って聞かせてやらないと、大気から何らかの訳のわからないエネルギーを吸って日向ぼっこ(かわいい)して一日が終わってしまうのが関の山であるのたま。
センセイはどうなのかって?
そもそもセナと一緒にいた時点で似たような───
「ねぇ、どうしてほっぺたに指を突き刺すの?」
「イチロー、今何を考えてたの? 出来れば400字以内で説明して」
「だからどうしてほっぺたにゅ」
俺の頬にぴっと押し当てた指の圧力を強めて、ぷくーっと頬を膨らませるセナ。
毎度のことながら思考が読まれてるんじゃないかと心配になるが、読まれてたらほんともう死ぬしかないんで、それについては考えないことにする。
「説明」
簡潔に問うセナ。
「うす」
そんな俺達を見てイタズラ好きな猫のような顔で「くっふっふ」と笑うセンセイがいた。
じろりと彼女を見やるも「説明」と俺の逆側の頬を指で突き刺してセナと同じ文言を吐きやが──なさった。
「あれしろこれしろって過保護過ぎるかなぁと思ったんだよ。それだけさ」
「全然、過保護ではない。イチロー風に言うなら『いいぞ、もっとやれ』」
頬から指の圧力が失せた。
「街に下りるのは、別に明日でもいいと思うわ」
彼女は俺の右腕にしがみついた。
ふよふよと浮かんだ彼女の謎の衣装の端がまるで自分の意志があるかのように、セナと俺を包み込むように俺の右腕に絡み付いた。
「明日でもいいと思うわ、イチロー」
「我も、別に明日でもいいと思うぞ」
そう言ってセンセイが俺の左腕に絡み付いた。
ぽよんという胸の感触に彼女を見ると、イタズラ好きな猫がまさにイタズラ実行中みたいな顔をしていた。
これ絶対に確信犯だわ。
「ああああああああ!!」
こうなってしまえば俺は頭を抱えて叫ぶしかないのだった。
『女性は三人揃えば──』というが、二人でも俺をおたおたさせるくらいには姦しいのであった。
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「よっ!」
いつもの案内人の溜まり場でミランは案内人同士で雑談に興じていた。
俺が声を掛けると、
「ロウにーさん!」
子供特有の軽い身のこなしでとととっとこちらへと駆け寄った。
「今日はどうしたのっ?」
「まあその辺のこともあるからさ、奢るからどっかで飯食いながら話そう」
「ロウにいさん……」
俺の飯の誘いにどこか遠慮気味なミラン。
「なんだよ。嫌か? 俺と飯食うの」
「そんなことない!」
「なんだよ、ならいいじゃあねーか。子供が遠慮なんかすんなしすんなし」
ほらほら行くぞとミランを急かした。
「マーロさんとフィオにも土産用意しないとな」
ミランは「ううー、ロウにーさーん」と呻いたが俺は気にすんなとばかりに「ほらほら良い店連れてけよ」と背中を叩いた。
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俺が肉を食べる横ではちみつとチーズのガレットを美味しそうに頬張るミラン。
「んでよ」
「なぁに」
「最近のホットな話題を教えてくれよ」
ミランはまぐまぐと咀嚼したガレットをごくんと飲み込んで、
「今、もっぱら噂になってるのはやっぱり勇者パーティのことさ」
と胸を張った。
「おおう、勇者パーティは話題に事欠かないのな」
「そりゃそうだよ。だって世界を護る英雄様なんだから!」
「英雄様……ね」
いちいち話に引っ掛かっていては先に進まない。
俺は数回かぶりを振って静かに深呼吸した。
「おう。話の続きを頼むよ」
「わかった! 勇者様達が新しい《新造最難関迷宮》の探索を始めたそうなんだけど、さすがに勇者様でも厳しかったのか───」
俺が抜けた戦力を計算して、最奥のボス前でいったん撤退したってところか。
「一階層で引き返したそうだよ」
最後まで読んで頂きまして本当にありがとうございます。
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