第1話 わかる人にはわかる
◇◇◇
「竜宮院いんだろ? アイツにやらせろよ! あいつ文化祭実行委員だろ」と制服の男の子が言った。
「あー、さっき文化祭のことで他に仕事があるってどこかに行ったわね」
同じクラスメイトの少女が答えた。
少女は、制服をきちんと着こなしているタイプの学生だった。だからと言ってそれは野暮ったさとは全くの無縁で、彼女の見目麗しさに清潔感をプラスする一助となっていた。
「何の仕事だよ! アイツいっつもどっかに行ってていねーじゃねーか!!」
「うーん、詳しくは聞いてないんだけど……」
「アイツ俺達が、文化祭の準備にてんてこ舞いなときに限ってその場にいやしねぇ! かと言って家に帰ったかと思えば、遅くなったときにタイミングよくひょっこりと顔を出しやがる!」
「けど、この学校のどこかにはいるのよね」
「あいつ、ここだけの話、卑怯なんだよな」
「卑怯?」
「ああ、卑怯。アイツ労いの言葉だけはしっかり掛けやがんだ、しかも人を選んで」
少女は聞いている。
「言われた女子は、頬を染めて簡単に騙されちまう。全くバカバカしい茶番だよ!」
少年はさらに続けた。
「アイツなまじっか顔だけは良いからよ」
少年の発言に少女は我慢出来ずに噴き出した。
「それは単なる僻みでしょ、僻みカッコ悪いよ」
「僻みなんかじゃねぇよ!!」
男子は心外だとばかりに声を張り上げた。
「ちょっと、周りに聞かれるじゃない! もっと声のボリューム落として喋ってよ」
「わりい」
「結局のところ、キミが僻みじゃないって言ってもそんなことは、関係ないの」
「何でだよ」
「周りがどう思うかってこと」
「けど」
「けどじゃなくてさ、キミがどう言ったところで、周りが竜宮院くんへの僻みだなって思ったら、それはもう僻みなんだよ」
悲しいことだけどね、と少女は俯いた。
「周りがどうとかじゃなくてさ、お前はどう思ってるんだよ?」
竜宮院と一緒に文化祭の実行委員に選ばれた少女。
「私に聞くんだ?」
「何でだよ、別にいいじゃねぇか」
「キミはバカだね」
「何でだよ」
「このクラスでそんな発言をしたら、彼を慕う子達に目を付けられちゃうよ? 言っとくけどクラスの90%は彼のファンよ」
「それはわかってる。けどよ」
「けど、何?」
「お前は違うだろ?」
「どうして、そう思ったの?」
「ほとんどの女子がアイツの一挙手一投足にわーきゃーしてるけどよ、お前はそのフリをしてるだけだろ」
わかるぞ、と男子は答えた。
少女は、彼に指を一つ立てた。
「言いたいことは二つ。まず一つ目。お前はやめて」
「じゃあなんて呼べばいいんだよ」
「私の名前は、五木紗希。普通なら『五木さん』と呼ぶんじゃないかしら」
「あー、じゃあ『五木』って呼ぶわ」
「構わないわ。私はキミを、「茂手木くん」って呼ぶね。
「おう」と少年は頷いた。
「うん、それから二つ目」
少女は、二本目の指を立てた。
「私、バカは嫌いなの」
「それは傲慢じゃねーか?」
少女は首を振った。
「バカにも二種類いるわ」
「二種類?」
そう、と一つ頷いて、
「かわいいバカと、度しがたいバカよ」と呟いた。
「へぇー」
「茂手木くんは、かわいいバカ」
「ぶっは!」と少年は笑い、「俺もバカなのかよ!!」と手を叩いた。
「まあね。女子である私にこんな話を持ち掛けた時点でバカよ。けど、人として嫌いではないわね」
「嬉しかねーよ」と少年はそっぽを向いた。
「それで、竜宮院くんは度しがたいバカ」
「何でだよ」
「結局、彼は物事が自分中心に回ってると思ってるのよ───」
とそこまで言うも「ごめん、違うわね」と少女は言い直した。
「彼は物事の全てが自分の掌の中にあると思ってるのよ」
少年は、黙って聞いていた。
「彼からは───自分が動かずとも、楽しようとも、自分が人を動かせばそれは自分のおかげ──そう考えてることが透けて見えるのよ」
彼女は言い切った。
「心当たりはあるでしょう?」
同級生として生活を共にしてきた少年には心当たりしかなかった。
あのときも。あのときも。あのときも。
その全てが彼女の言い分に当てはまった。
「労いの言葉にしてもそう。自分に被害や損害が及ばないなら言葉くらい安いものでしょうね」
少女はふんと鼻を鳴らして、続けた。
「言葉ひとつで、みんな───特に女子は喜んで動いてくれる」
「それは、」
さすがにそこまで全てを考えては、と疑問を口にしようとした少年に被せるように、
「わかっててやってるのよ」
それくらい知っているわ。
そう言いたげに少女は薄く笑った。
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